「重症筋無力症」という病気をご存知でしょうか。神経が筋に信号を伝えるはたらきに障害が起こり、体の様々な部分で連続して力を出しにくくなるなどの症状が出る病気です。この病気は具体的にどのようなもので、原因は何なのでしょうか。また、どのような検査が行われるのでしょうか。横浜労災病院神経筋疾患部の中山貴博先生にご説明いただきました。
脳でなにかを考えたとき、信号が脊髄から神経を伝わり、「神経筋接合部」と言われる部位で神経から筋へ信号が伝達されます。手足などが動くのは、これによるものです。
その神経筋接合部には、信号を受け取る「受容体」と呼ばれる部位があります。その受容体に対する自己抗体(自分の体内で作られる自分に対する抗体)の作用により、信号伝達が障害されて生じる疾患が「重症筋無力症」です。筋肉を繰り返して使用すると筋力が低下するため、筋無力症と呼ばれています。
重症筋無力症の原因は、神経筋接合部の受容体に対する自己抗体であると考えられています。病院として病原性が認められている抗体には、「アセチルコリン受容体抗体(AchR抗体)」と「筋特異的受容体型チロシンキナーゼ抗体(MuSK抗体)」があります。そのほかにも色々な抗体の存在が研究されています。
重症筋無力症は自己免疫性疾患であり、遺伝しません。しかし、重症筋無力症と似たような症状となる「先天性筋無力症」には遺伝子が関与すると言われています。
また、重症筋無力症の母親が出産した新生児の10-30 %に一過性の筋無力症症状が認められ、その程度は母親の症状の程度とは無関係であると言われています。
重症筋無力症の検査としては、「a) 臨床所見」と、「b) 自己抗体の検査」「c) 神経筋接合部障害を検出する電気生理学的検査や薬物検査」が挙げられます。それぞれについて、以下に説明します。
a) 臨床所見では、以下のような症状があるかどうかを確認します。
b) 自己抗体の検査では「アセチルコリン受容体抗体(AchR抗体)」または「筋特異的受容体型チロシンキナーゼ抗体(MuSK抗体)」が検出されることが多いですが、両者とも検出されないこともあります。
c) 神経筋接合部障害を検出する検査としては、以下が挙げられます。
a) 臨床所見が1つ以上かつ、b) またはc) が1つ以上あることで診断されますが、b、 c) で検出されない場合は、アイスパック試験や単線維筋電図検査などの検査も併用します。
わが国には、2013年の統計では推定2万人以上の重症筋無力症患者がおられ、有病率は人口10万人あたり11.8人(2006年のデータ)と推定されています。また近年、50歳以降で発症する「後期発症重症筋無力症」が増加していることが報告されています。
横浜労災病院 神経筋疾患 部長
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