概要
福山型先天性筋ジストロフィーとは、筋肉の機能に必須なタンパク質をつくる遺伝子に生まれつき変異があることで、筋肉の変性や壊死が生じる筋ジストロフィーの一種です。その中でも福山型先天性筋ジストロフィーは症状が重く、筋力の低下に加え、知的能力障害や目の異常などを合併することもあります。原因となる遺伝子が特定されており、発症はほぼ日本人に限られるとされています。
福山型先天性筋ジストロフィーは乳児期から全身の筋力低下が生じ、体重が増えない、発達が遅れるといった症状が目立つようになります。1割程度は歩行ができるようになりますが、患者の70%は3~4 歳頃にお尻を床に付けて進む“いざり”ができるようになる程度の運動能力が最高となります。現在のところ確立した治療法はありません。
原因
福山型先天性筋ジストロフィーは、筋肉の機能に必須なタンパク質をつくる遺伝子に生まれつきの異常があることで引き起こされます。
具体的には、FKTN遺伝子の変異が主な原因であると考えられており、常染色体潜性(劣性)遺伝することが知られています。この遺伝子に変異があると筋肉の細胞の膜などに異常が生じて、筋肉の変性や壊死が生じるとされています。
症状
福山型先天性筋ジストロフィーは、筋肉の変性や壊死が引き起こされる病気で、新生児期や乳児期早期から症状が現れます。
発症した場合は、全身の筋力と筋緊張の低下がみられます。また、特徴的な顔貌(目が十分に閉じない、頬がふっくらしている、よだれを流す、まつげが長いなど)があり、患者の半数以上に近視や網膜剥離といった目の病気を伴います。 そのほか、知的能力障害やけいれんを合併することもあります。
症状の程度には個人差があります。1割程度は歩くことができるようになりますが、多くは歩くことはできず“いざり”程度の運動能力が最高となり、中には首が座らないケースもあります。また、多くは5~6歳頃までゆるやかな運動の発達がみられますが、その後は筋肉の萎縮によって運動機能が低下していき、関節が硬くなったり変形したりする症状が現れ、腕や脚などが動かしにくくなったり、食べ物が飲み込みにくくなったりします。
年齢が上がると肺炎や呼吸筋の筋力低下による呼吸不全、拡張型心筋症による心不全や、感染症をきっかけとした重度の筋力低下など、命に関わる合併症を引き起こすこともあります。
検査・診断
症状などから福山型先天性筋ジストロフィーの発症が疑われる場合は、以下のような検査が必要となります。
(1)血液検査
福山型先天性筋ジストロフィーは、クレアチンキナーゼと呼ばれる筋肉に多く存在する酵素の血中濃度が通常の10~30倍に高くなるのが特徴であり、診断基準の1つとなっています。
(2)遺伝子検査
福山型先天性筋ジストロフィーは原因となる遺伝子がすでに発見されており、診断のためには原因遺伝子の変異の有無を検査で確認する必要があります。
(3)画像検査
福山型先天性筋ジストロフィーは脳の発達異常を引き起こす病気であるため、頭部MRIによる検査が必要となります。
治療
福山型先天性筋ジストロフィーは生まれつきの遺伝子変異によって引き起こされる病気であり、現在のところ確立した治療法はないのが現状です。この病気と診断された場合は、関節の変形などを防ぐためのリハビリテーション、食物の飲み込みの悪さを補うための経管栄養や胃ろう造設などといった対症療法を行います。
また、呼吸不全に対しては酸素吸入など、心筋症には適切な薬物療法などを行いながら、重篤な合併症を予防することも大切です。
最近では、新しい治療薬として核酸医薬品*の開発も進められています。
*核酸医薬品:DNAやRNAなどの核酸分子を医薬品として利用した医薬品。
予防
福山型先天性筋ジストロフィーは生まれつきの遺伝子変異によって引き起こされるため、予防方法は現在のところありません。しかし、筋力低下などの症状は年齢とともに進行していくため、発症した場合はできるだけ早い段階で適切な治療や対策を講じる必要があります。気になる症状があるときはそのままにせずに、できるだけ早く医師に相談するようにしましょう。
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