概要
認知機能低下とは、理解、判断、論理といった認知機能が低下した状態のことで“物忘れ”“言葉が出ない”“日常的な行動ができない”などの症状が現れます。
加齢に伴って多くの人が経験する症状ですが、加齢以外にも認知症や神経系疾患、脳血管障害、精神疾患などのさまざまな病気や、抗精神病薬、抗うつ薬などの薬剤が原因となることがあります。
加齢による認知機能低下は一般的に60歳を過ぎた頃から目立つようになるといわれています。しかし、その程度やスピードは非常に個人差が大きく、その人の生まれ持った要因や生活環境などによって異なります。
原因
認知機能低下の主要な原因は加齢です。個人差があるものの、60歳を超えると認知機能の低下が少しずつみられるようになります。
加齢による認知機能の低下は遺伝、ストレス、体調、精神状態といった内因的な要因と、その人がどのような人生を送ってきたかといった社会的な要因に左右されるといわれています。
加齢以外の原因には病気や薬剤があります。具体的な病名や薬剤の種類は多岐にわたり、代表的なものには以下が挙げられます。
認知機能低下の原因となる病気
- 脳や神経系の病気:脳梗塞、脳出血、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症など
- 精神疾患:統合失調症、うつ病など
- 感染症:クロイツフェルト・ヤコブ病など
- 内科系の病気:甲状腺機能低下症、脱水、ビタミンB12欠乏症など
認知機能低下の原因となることがある薬剤
症状
認知機能は理解力、判断力、記憶力、言語理解能力などの幅広い能力を指します。認知機能低下の症状の分類にはさまざまなものがありますが、一般的には以下の5つの症状に分けられます。
記憶障害
いわゆる物忘れのことです。体験したことを部分的に忘れることは若い人や健康な人にでも見られるもので生理的健忘と呼ばれ、本人も物忘れをしている自覚がありますが、病的な物忘れでは忘れたこと自体が分からないという特徴があります。
失語
言葉が出ない、もしくは言葉は話せてもその内容が理解できていないといった症状です。聞いた言葉は理解できていても話せない“運動性失語”と、話はできても言い間違いが多い、話の内容が理解できない“感覚性失語”があります。
失行
運動機能には問題がないのに、日常的な行動ができなくなる状態です。服を着る、紐を結ぶ、文字を書くなどの作業ができなくなります。
失認
目や耳などの機能に異常はないのに、物体を認識できなかったり、見慣れた場所を認識できなかったりする症状のことです。
遂行機能障害
料理などの段取りが必要な動作を計画して、順序立てて行うことが難しくなる症状のことです。
検査・診断
認知機能低下の検査方法にはさまざまな種類がありますが、代表的なものにはHDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE(mini-mental state examination)といったものがあります。検査内容や採点方法は検査方法によりさまざまですが、見当識(ものを正しく認識できていること)や記憶力が正常か、失認・失行・失語といった症状が評価され、一定の基準よりもスコアが低いと認知機能障害が疑われることがあります。
また認知機能低下の程度が著しく、日常生活に影響を及ぼしている状態が6か月以上続く場合は認知症と診断されることがあります。
治療
認知機能低下の原因(病気や薬剤)が明らかな場合は、原因の病気を治療したり、薬剤を中止または変更したりすることで症状が改善することがあります。たとえば、脳内に血の塊(血腫)ができることで起こった認知機能障害は、手術によって血腫を取り除くことで回復することがあります。
一方で病気によっては完全な治癒が難しいことから、進行予防を目的とした治療を行うこともあります。頻度が高いものとして、アルツハイマー型認知症では症状の進行を遅らせる薬を服用します。また、脳出血や脳梗塞といった脳血管障害が原因で起こる認知機能低下に対しては、高血圧や脂質異常症、糖尿病の治療も行われることがあります。
ヘルスケア
認知機能低下は加齢に伴ってみられるものであり、確実に防ぐ方法はありません。一方でその程度は個人差が大きく、生活習慣によって進行を遅らせることができるでしょう。たとえば、ウォーキングなどの有酸素運動や、ポリフェノール、EPA、DHA、プロバイオティクスといった抗酸化物質・抗炎症物質が認知機能低下を予防するという効果が報告されています。また、社会参加や知的活動も認知機能低下の予防に効果的であるため、趣味や地域の活動などに積極的に参加するとよいでしょう。
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