インタビュー

認知症の症状

認知症の症状
繁田 雅弘 先生

栄樹庵診療所 院長、東京慈恵会医科大学 精神医学講座 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 精...

繁田 雅弘 先生

この記事の最終更新は2016年03月28日です。

認知症の人がとる行動に一見不可解なことがあると、すぐに「認知症のせい」と決めつけてしまってはいないでしょうか。本人の気持ちになってみると、その見方が変わってくるのではないでしょうか。首都大学東京 大学院 人間健康科学研究科教授の繁田雅弘先生にお話をうかがいました。

認知症の症状には、戸惑い、不安、自責感、焦燥感、被害感、気分が沈む、悔しさ、やる気が出ない、気分や感情の変動などがあります。これらは医学の言葉で言えば、もの忘れ(語健忘、物の置き忘れ)や実行機能障害、見当識障害、失語、失行、失認などによって引き起こされるということになります。このような症状が起こっているとき、ご本人はどう感じているのかを考えてみましょう。

たとえば、失語のために言葉がすぐに出て来ないことに戸惑ったり、あるいは実行機能障害のために料理がうまくいかないと、いったい自分はどうしたのだろうと不安になったりもします。内省的な方であれば自分を責める気持ち(自責感)が出ることもあるでしょう。特に大事なものがなくなったり、見つからないことがあると焦燥感にかられ、家族の誰かが隠したり持って行ってしまったのではないかと、疑いたくなくても疑わざるを得ない(被害感)という状況に追い込まれてしまいます。

認知症だからといって、何も分からずただ飄々(ひょうひょう)としているわけではありません。表には出さなくてもご本人は苦しんで追い詰められた気持ちになっています。ご家族や周囲の方には、自分の身に置き換えてそのことを感じていただきたいと思います。

落ち着きがなく、家の中で所在なさげに動きまわるような行動が見られるとき、「何をウロウロしているの?」「どこ行くの?わからなくなっちゃったの?」などと言ってしまいがちですが、ご本人の気持ちを考えてみるとかける言葉が変わってくるのではないでしょうか。

皆さんが友人の家に遊びに行って楽しい時間を過ごしているとき、そろそろ帰らなくてはと思っても、本当にその場が楽しければ、まだそこにいたいという気持ちになるでしょう。ウロウロしたり落ち着かなくなるということは、少なくともご本人にとってあまり居心地が良くなかったのではないか、ということを考えていただきたいのです。

ご本人の気持ちを考えた上で、どうしたのか訊いてみましょう。もしかしたら下記のように何か理由があるのかもしれません。

  • 探しものをしている
  • 自分の居場所がわからなくなって、家に帰ろうとしている
  • 体調不良(薬をのみ忘れたり、のんだかどうか思い出せない)
  • 冠婚葬祭で家の中がバタバタしている
  • 近隣の工事の騒音
  • 介護者との折り合い、人間関係

落ち着かない、怒りっぽくなる、語気が強くなるなどといったことは、認知症の周辺症状のひとつと考えられがちですが、もし説明のつく理由があるならば、あまり「認知症だから」という目でみるべきではないと考えます。周囲が本人の行動を抑えようとしたり、間違いを正そうとしたときにその反発として現れる行動というものもあります。このような行動は患者さんが持っている症状ではなく、患者さんとその周囲の環境との相互作用によって起こっているものであり、ひとり暮らしで認知症の治療をしている方にはまずみられません。周囲の状況・環境を変えることによって改善できる可能性があるのです。

かかりつけ医や地域での在宅医療に携わっている医療従事者の方から話を聞いて、あらためて考えさせられることがあります。それは、家族が認知症になったことによって新たな問題が発生するのではなく、お互いに余裕がなくなることで、それまで蓋をして覆い隠してきた人間関係など家族間の問題が表面化しているのだということです。それだけに認知症をとりまく問題は、医療だけではなく、介護や社会的な支援など、さまざまな視点がなければ解決していくことは叶わないでしょう。

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  • 栄樹庵診療所 院長、東京慈恵会医科大学 精神医学講座 客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院 精神神経科 客員診療医長

    繁田 雅弘 先生

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