インタビュー

認知症に対する偏見と認知症患者へのリハビリテーションのあり方を考える―認知症の方ができることとは

認知症に対する偏見と認知症患者へのリハビリテーションのあり方を考える―認知症の方ができることとは
神戸市立医療センター西市民病院神経内科 木原 武士 先生

神戸市立医療センター西市民病院神経内科

木原 武士 先生

認知症と聞くと、徘徊などの事例をイメージする方がいるかもしれません。様々なメディアで認知症に対する偏った報道がなされ、そのイメージが社会に定着してしまったことから、「認知症の方はほとんどのことができない」と考えられてしまっている現状があります。しかし、実際のところ認知症の方でもできることはたくさんあるといいます。認知症に対する偏見や誤解について、認知症の方へのリハビリテーションのあり方を踏まえて、神戸市立医療センター西市民病院神経内科の木原武士先生にお話しいただきます。

認知症とは。定義は「物忘れのために一人で生活するのに支障がみられること」

認知症は、物忘れや認知機能の低下がみられ、その上で日常生活に支障をきたしているために周囲の方の援助が必要な状態です。

認知症の見極めに大事なのは、「一人で生活ができるかどうか」という点になります。私は、物忘れがあるという方でも、日常生活・社会生活において誰の助けも必要とせず、問題なく一人で生活していけるのであれば認知症には当てはまらないと考えています。簡潔に述べると、何の問題もなく一人暮らしができるのであれば認知症ではないということになります(もちろん、日常生活・社会生活に問題を生じていないか、早期段階でしっかり見極めて診断してあげることは重要です)。

認知症は病気ではなく状態―物忘れだけでは診断できない

認知症は状態であり、疾患(病気)を指す言葉ではありません。また、認知症を起こす疾患(病気)には様々なものが存在します。

その一方で、脳の中の変化、病理学的な変化(たとえばアルツハイマー病に特徴的な変化など)は、認知症を発症していなくても起こっているかもしれません。病理学的な変化と認知症と呼ぶべき状態であるかどうかは別の話になるのです。

受診される方の中には、最近物忘れが多いと感じ、自分は認知症ではないかと不安になっている方や、実際「私は認知症でしょうか」とご相談される方がいらっしゃいます。これには様々な意見があり、一概に答えを出すことは難しいでしょう。ただ、私はその方々に対して、物忘れの状態を呈する何らかの病気がベースにあるかもしれないことも説明したうえで、「一人で生活が出来るならば認知症ではありません」とお話ししています。

上記の理由で来院された方に対しては勿論、検査を行います。その結果、認知機能検査の点数が低い、疾患特異的な部位の血流が低下しているなどの特徴的変化がみつかることがあります。それでも、問題なく御自身で生活ができれば認知症ではないと判断します。長期的な観点ではその方が将来認知症になる可能性はありますが、少なくともその段階では認知症と診断できません(逆に早期診断するには、生活障害などの問題点があるという身近な方からの情報提供が必要です。本人のみの受診だと取り繕い現象(指摘されたことをごまかすため、何らかの理由をつけて話すこと)などで判断に苦慮します)。

「認知症だから事故を起こす」わけではない―偏った報道が認知症への誤解を生む

現在の日本では、認知症に対して非常にネガティブな先入観が持たれていると感じています。

たとえば、最近「認知症の高齢者が間違って高速道路に進入してしまった」「認知症の高齢者が高速道路を逆走した」という報道がされることがあります。これについて考えてみましょう。

高齢の方の中には背骨が曲がり、うつむき加減になる方がいます。そうなると当然視線は下向きになります。道路では車に乗っている方が見えやすいよう、看板が高い位置に設置されているため、視線が下向きになっていれば目に入りません。そのために看板などの標識が見えていない可能性もあります。構造上、入り口自体がわかりにくいこともあります。

つまり、認知症ではない方でも間違って道路に進入したり、道路を逆走したりしてしまう可能性はあり、こういった事故の原因がすべて認知症であると判断するのは偏った見方ではないかということです。実際に統計的な数字を見てみると、必ずしも事例の全てが認知症の方によるもののみではありません。

先ほどの報道には「間違って高速道路に入ってしまった原因は認知症にある」という先入観があるのではと感じます。もちろん、認知症であるなら自動車運転は禁止です。運転しないことが自分自身も他人も守ることにつながります。「高齢の方は運転免許の自主返納をすることが社会的にも有利である」という工夫が必要なのかもしれません。

社会からみた認知症―認知症の方ができることはたくさんある

上述した以外にも、私は様々な観点において、認知症の方に対する偏見を減らすべきだと考えます。

極端な例ですが「認知症の方は何もできない」という考えの方がいます。しかし、認知症の方はたくさんのことをできる力を持っています。一定の制限はありますが、一般の方と同様に生活したり、仕事したりすることも可能です。

私が認知症の方にお話を伺う中でも、認知症の方自身は「まだできることがあると感じ、社会の役に立ちたいと思う」「携帯やパソコンを使える」「一人で外出できる」「旅行できる」といった前向きな姿勢を持っている方が多く、実際に仕事に就いている方もいらっしゃいます。

これからは認知症の方ができることを見つけていき、仕事などを提供して、認知症の方の社会参画を認めていく必要があります。認知症だから仕事はできないと拒否される、あるいは認知症だから保護するべきだと周りがむやみに保護し、仕事を奪ってはならないでしょう。同時に、認知症の方も一般の方と同じような義務や権利を持ち、対等な存在であるべきです。

参考サイト:公益社団法人 認知症の人と家族の会

身体疾患に認知症を伴う患者さんはどうする? リハビリテーションのあり方について

認知症の方に対するリハビリテーションのあり方は、今後考えるべき点であると考えます。

たとえば、大腿骨骨折などのリハビリ治療目的で入院した患者さんが、たまたま認知症であり、リハビリが進まないという状況が起こってくるかもしれません。そのとき、患者さんを治療すべきかどうかについて意見が分かれます。

私は認知症の方も当然治療すべきであり、必要なリハビリテーションを行い、動けるようになっていただきたいと考えます。一方、医師の中には「患者さんのご家族は認知症の方のリハビリ治療を望んでいるのか」「認知症の方が動き回れるようになったら、かえって周囲へ負担がかかるのではないか」と考える方もおられるようなのです。ですが、リハビリテーション病院である音羽リハビリテーション病院に来られる方は、ご家族もリハビリテーションを望んでおられ、動けるようになって欲しいと希望しておられます。

前述したように、認知症の方でも様々なことができます。大腿骨骨折で動きづらくなった状態であれば、認知症の症状だけではなくなるため、今までよりも生活が制限されると予測できます。その方のQOLを維持し向上させていくためにも、リハビリは必要なことだと考えます。

認知症の方へ薬は必要か? 活用することで周囲の負担も軽減する

認知症の方に対する薬の投与にも同様の意見が挙がります。現在は認知症に対する様々な薬が開発されているのですが、「認知症の症状が進行してグループホームに入るような方に投薬をするべきなのか」という意見の方もおられます。

確かに薬剤費という点ではかかりますが、北村伸先生の老年精神医学雑誌(25:1361-1373 2014年)での報告によると、介護などにかかる費用を含めて算出すると、薬剤を使用するほうが、費用対効果が優れるとあります。また、薬を使うことで症状の進行が抑制され、認知症の方のQOLが上がることもあるでしょう。こう考えると、薬は使うほうがよいと考えます。勿論、不必要な治療は避けるべきですが、もし認知症の方の生活にメリットがあるならば積極的に活用するべきでしょう。薬を使うことで症状が落ち着けば、介護もやりやすくなります。ご本人以外に周囲の方のことを考えて薬を使うのも一つの考え方であると思います。(もちろん過鎮静はしてはなりません)

認知症に対する誤解・偏見を解くために医療従事者がすべきこと

医療従事者からも、認知症の方はほとんど何もすることができないと考えられているのが現状です。しかし、認知症には個人差があります。そうした幅広い症状の程度の差異を探るのが、我々臨床家の仕事ではないかと考えています。

認知症を伴う身体疾患の患者さんに対するリハビリテーションのあり方―音羽リハビリテーション病院の取り組み

音羽リハビリテーション病院は回復期リハビリテーションの病床が多く、リハビリテーションを主に行う病院です。特に血管障害や整形外科疾患の方が対象になります。認知症のリハビリテーションは現時点では実施できておりませんが、今後検討していきたいと考えています。

現在、音羽リハビリテーション病院では月に一度、近隣の方に来ていただき、地域参加・地域づくりを目的にレクレーション等を開催しています。音楽療法のセラピストが演奏して参加者の方と音楽を楽しんだり、体を動かしたり、などの活動を行っています。

音羽リハビリテーション病院の物忘れ外来について―物忘れ外来では何を行う?

また、音羽リハビリテーション病院神経内科では「物忘れ外来」を行っています。

物忘れ外来とは、認知機能の低下を自覚された方(物忘れがひどくなってきたなど)を対象とする外来診療です。物忘れの根幹に、アルツハイマー病のような病理的疾患が潜在していないか、そもそもその方は本当に物忘れがあるのかということを診察・検査します。

診療の流れとして、まずは問診にてお話を伺います。たとえば生活のなかでどのようなことを忘れてしまうのか、経過・実際に起こったエピソードにはどんなものがあるのかなどを、ご本人はもちろんご家族を含めてお話しいただき、得た情報から総合的に判断します。

その他、神経症状の有無の確認や、MMSE(ミニメンタルステート検査)という認知症診断テストも行います。基本的には問診のなかで該当するエピソードがあれば診断はつくと想定できますが、客観的な数字データを診るためにも検査が必要になります。また、必要に応じて画像検査や脳血流検査、血液検査を行うことがあります。

木原武士先生が考える今後の取り組み―コミュニティの形成とシステムの開発

 

地域の集まりのような場で気軽に病気の相談を受けるなど、よろず相談所とも呼べる体制を築けないかと考えています。相談から受診や介護サービスにたすきをつなげていくため、地域の方々とともにコミュニティを作って、認知症を疑う方がいたときは直ちに受診や介護サービスが介入できるようなシステムを実現したいと考えます。

また、認知症があったとしてもリハビリテーションが運動機能改善などに効果を示すことを明らかにするため、リハビリテーションの治療介入をしたときにFIM(機能的自立度評価表)の評価が変わるのか検討したいと考えていますし、それに伴い認知機能も変化するのかについても調べてみたいと思っています。

認知症を予防するにはどうすればよい? 日頃の生活習慣に気を付ける

自分が認知症かもしれないと思ったら、気軽に受診してください。症状が進行してから治療を行った場合、どうしても対処しきれないことがあります。症状が軽いうちに病院に来ていただければ、それだけ早期治療が可能となります。

また、生活習慣を整えることが非常に大事です。日常的に運動する、しっかりと睡眠をとるなどバランスのよい日常生活を送るだけで未病対策につながります。生活習慣の乱れは、あらゆる病気を引き起こす可能性につながります。

たとえば睡眠の質が悪い方はアミロイドβという物質が蓄積し、アルツハイマー病や認知症を発症しやすいという報告もなされています。人が眠っているときは、脳細胞の隙間が約60%広がります。これにより、脳脊髄液が起きているときよりも速く、自由に脳内を流れることが分かりました。アミロイドβを含む脳の老廃物は、睡眠中に大量に排出される可能性があるということです。つまり睡眠をよくとれている方ほどアミロイドβが蓄積せず、結果的にアルツハイマー病になりづらいということになります。

これはひとつの例ですが、普段の生活を大事にしていくことが大事であり、知っておいていただきたいと思います。