インタビュー

認知症の症状を引き起こす原因に目を向ける

認知症の症状を引き起こす原因に目を向ける
上田 諭 先生

戸田中央総合病院メンタルヘルス科 元部長

上田 諭 先生

この記事の最終更新は2015年11月08日です。

認知症の症状は認知症自体によって引き起こされると思われがちですが、この裏にはさまざまな原因が隠れていることが多くあります。これを理解するためには、認知症のご本人が何を感じているのかということについて意識を向けることが大切です。引き続き、日本医科大学 精神神経科 講師の上田諭先生にお話をうかがいました。

認知症の方(以下「ご本人」)は何も分かっていないのでしょうか。そんなことは決してありません。認知症であろうと自分で自分の変化を感じます。また、症状には多くの場合原因があります。引きこもってしまった認知症の方を例に挙げてご説明します。

認知症の方は自身の変化を感じますので、忘れっぽくなってきたことに不安を覚えます。ところが、自分でも不安を感じているところにご家族から指摘を受けます。何度も指摘されるうちに困惑から反発さえ感じ、不安感や孤立感を覚えます。また参加していた集まりにも行けなくなります。なぜなら、集まりでまたなにか指摘されるのか、嫌な顔をされ恥をかくのではないかと思うからです。そして、そのうち家に引きこもるようになります。引きこもると今度は「元気がないのだから外に行きなさい」とまた家族から指摘を受けます。こうしてますます家族への反発感や不安感が募るのです。

引きこもりだけに目が行くと、それは認知症の症状だと思われてしまうかもしれません。しかしこの例において、引きこもるという行動の裏にはこのような健常な人と同様の感情があり原因があったのです。

認知症の方は、認知症になるまでは多くの人間に認められ、家族内にも居場所があり、日々役割を果たして生活していたことでしょう。しかし認知症になってからは誰も話を聞いてくれず、認めてもらえない、役割も与えてもらえないということが起こります。このような環境や扱いに怒りや虚しさを覚え、暴言を吐くようになるとどうでしょうか。その暴言やイライラが「認知症の症状」だといわれてしまうのです。

これは症状ではありません。感情を表に出しただけです。認知症ではない方も同じ状況であれば同じような行動をとるかもしれません。それにもかかわらず、このように普通の感情が認知症の症状だと捉えられてしまうことも少なくありません。なぜそのような行動に至ったのか、ご本人の心情をふまえて考えることが大切なのです。

記事1(認知症は「治さなくていい」。治る認知症は一部だけ)でも述べましたが、認知症は「治らない病気」です。認知症以外にも、神経の病気や足を怪我して切断したなど、治らない病気や障害を持っている方はたくさんいます。そういう方に対しては、多くの方が労わりや優しい気持ちで接されることでしょう。ところが、認知症の方に対しては強い指摘や注意をしてしまうことがあります。これは「治らない障害」であるという認識が欠けているためではないかと感じます。認知症は決して悪いことではないのだという気持ちで接することが重要なのです。

一方で、日々介護をされている方々に大変なことが多くあることも事実です。常に労わりや優しい気持ちで接することができない場面もあります。しかし、こうした場面で認知症を「治らない病気」と捉えることは、介護する側の心持ちをいくらか助けてくれるのではないでしょうか。

  • 戸田中央総合病院メンタルヘルス科 元部長

    日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医日本老年精神医学会 老年精神医学専門医・指導医・評議員日本総合病院精神医学会 一般病院連携精神医学専門医・指導医・電気けいれん療法委員会副委員長・編集委員会委員日本認知症学会 会員日本精神病理学会 会員日本精神科診断学会 会員日本認知症ケア学会 会員

    上田 諭 先生

    関西学院大学社会学部卒業後、朝日新聞に記者として入社するが、医学への志向から北海道大学医学部に入学する。北海道大学医学部卒業後、東京武蔵野病院精神科などを経て、日本医科大学精神神経科講師を務める。老年期精神医学やリエゾン精神医学を専門とし、認知症のみならずこころの問題に力を注いでいる。2020年より戸田中央総合病院メンタルヘルス科 部長に就任。

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