インタビュー

認知症と告知する必要性はない

認知症と告知する必要性はない
上田 諭 先生

戸田中央総合病院メンタルヘルス科 元部長

上田 諭 先生

この記事の最終更新は2015年11月11日です。

現在、病気が発見されると患者さんやご家族に告知され、医者とともに治療に向き合っていくことが多いのではないでしょうか。しかし、認知症ではご本人への告知が必要ない場合があります。認知症の告知の必要性についてのお考えを、日本医科大学 精神神経科 講師の上田諭先生にお話しいただきました。

高齢者に認知症(アルツハイマー病)の告知をする必要はないと私は考えています。告知にメリットがあると思えないからです。告知をしてショックを与えるよりも、残りの人生を楽しんでもらうことに力を注いでほしいのです。
また、ご自身でアルツハイマー病であるとうすうす感付かれ、問いただされたとしても「アルツハイマーです」とは答えません。たとえ自分の欠点に気付いていたとしても、他人に指摘されるとつらい気持ちになります。それと同様で、他人に病名を告知されるのは精神的な負担になります。また、聞くという行為は「自分はアルツハイマー病ではないかもしれない」という期待感を持っていることの表れでもあります。

家族に連れられて病院に来られる方の中には、自分は何かおかしいのだと気付いている方もいます。そして、家族になにか迷惑をかけてしまっていると分かっている方がほとんどです。ですから、そこに追い打ちをかけるように認知症だと伝えて傷つけるようなことはしません。単に「物忘れ」だと伝えるだけにしています。
ご家族には告知します。同時にご本人には伝えないようにお願いします。告知をしたところで症状が変わるわけではありませんので、ご本人が今後の生活を楽しめる方法を一緒に考えていくことが大切なのです。どうしても告知が必要な場合は、ご本人の気持ちを考えしっかりフォローすることが必要です。

前項では認知症の告知は必要ないと述べました。しかし若年性アルツハイマー(64歳以下の認知症)の方への告知は原則必要だと考えます。なぜなら高齢者の方と異なり、現役で仕事をされている方などは今後について考えなければならないことが多くあるからです。仕事の整理、引き継ぎ、家のローンや家族のことなど、これらの準備のためには告知が必要になります。その際にも、もちろん十分な配慮と以後の心理的な支援を続けることが大事です。

ご家族に認知症は治さなくていいと伝え、ご本人主体の考え方に変えてもらうことは難しい場合もあります。なぜなら、ご家族も大変な思いをしている場合がほとんどだからです。しかし少しずつでも接し方を変えてもらえるよう、私はご家族ともしっかり向き合うようにしています。接し方を変えれば、ご本人が穏やかになったり、嫌がっていたデイサービスに行けるようになったり、飲まなかった薬を飲んでくれるようになったり、症状の変化に気づいてもらえるのではないでしょうか。

  • 戸田中央総合病院メンタルヘルス科 元部長

    日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医日本老年精神医学会 老年精神医学専門医・指導医・評議員日本総合病院精神医学会 一般病院連携精神医学専門医・指導医・電気けいれん療法委員会副委員長・編集委員会委員日本認知症学会 会員日本精神病理学会 会員日本精神科診断学会 会員日本認知症ケア学会 会員

    上田 諭 先生

    関西学院大学社会学部卒業後、朝日新聞に記者として入社するが、医学への志向から北海道大学医学部に入学する。北海道大学医学部卒業後、東京武蔵野病院精神科などを経て、日本医科大学精神神経科講師を務める。老年期精神医学やリエゾン精神医学を専門とし、認知症のみならずこころの問題に力を注いでいる。2020年より戸田中央総合病院メンタルヘルス科 部長に就任。