インタビュー

認知症は「治さなくていい」。治る認知症は一部だけ

認知症は「治さなくていい」。治る認知症は一部だけ
上田 諭 先生

戸田中央総合病院メンタルヘルス科 元部長

上田 諭 先生

この記事の最終更新は2015年11月06日です。

日本では、認知症有病者が今後も増え続けると予測されています。「認知症になったらどうしよう」「家族が認知症になったら大変だ」などと不安を感じている方も多いのではないでしょうか。しかし、認知症は誰もが発症するリスクを抱えており、避けられない疾患でもあります。私たちは認知症をどのように捉え、どのように付き合っていけばよいのでしょうか。日本医科大学 精神神経科 講師の上田諭先生にお話しいただきました。

厚生労働省によると、平成24年時点の推測値で、認知症有病者はおよそ462万人とされており、今後も認知症の方は増え続けるといわれています。

65歳以上の高齢者における認知症の現状

※MCI=Mild Cognitive Impairment
認知症の前段階と考えられており、正常と認知症の中間ともいえる状態のことだが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない。MCIの人のうち年間で10~15%が認知症に移行するとされている。

認知症には、「治さなければならない病気」や「困った病気」というイメージがあります。またそれを助長するように、一部のメディアや書籍は『認知症は治る』というような取り上げ方をしています。しかし、認知症を「治る・治らない」で論ずること自体が一種の詭弁なのではないかと感じます。もちろん一部「治る」認知症もあります。それは血管性認知症などの脳梗塞脳出血後の脳血管の問題によって引き起こされる認知症です。

しかし、認知症は「治る」と取り上げてしまうと、伝え手は「一部」の認知症が治ると伝えているつもりでも、認知症の方(以下、「ご本人」)やご家族の方は「すべて」の認知症は治るのだという誤った捉え方をしてしまうのです。その結果、認知症は「治さなければいけない病気」であり「治る病気」と思われてしまうのです。

そう捉えてしまったご本人やご家族は、「治る認知症」を「治す」ために病院に来られ、治す薬をください、治してくださいと訴えられるのです。「治る」と思っていれば誰もがそう訴えるでしょう。しかし、記事5「認知症と薬-薬の効果は?」でも説明しますが、現在認知症を「治す」特効薬はありません。認知症は治らない病気であり、「治らなくてもいい」と思うほうが、より前向きにご本人や認知症そのものに向き合えるのではないかと考えています。

認知症は治る」と捉えた結果、ご本人もご家族もどちらもつらい想いをしてしまうことがあります。ご家族は、「治る認知症」が一向によくならず、悪化していくご本人へ不満を持ちます。そしてその不満は、ご本人への無理な「治れ」圧力となって、不適切な接し方に反映されてしまうのです。

認知症は治さなくていい」という考えをもつようになったきっかけは10年以上前になります。当時、わたしも認知症を一所懸命治そうとしていました。ご家族の苦労を少しでも軽減させたい、希望を持ってもらいたいという一心で薬物治療を多く行っていました。ただ、薬物治療の効果は一時的であるため継続せず、効果が薄れるたびに家族やご本人は落胆されました。また私自身、治せないことで苦しみいつまでも達成感を得られない日々でした。このような治療では誰も幸せになれない、不満感や不全感を持ち続けることになると考え、「認知症は治さなくていい」という考えに至ったのです。

  • 戸田中央総合病院メンタルヘルス科 元部長

    日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医日本老年精神医学会 老年精神医学専門医・指導医・評議員日本総合病院精神医学会 一般病院連携精神医学専門医・指導医・電気けいれん療法委員会副委員長・編集委員会委員日本認知症学会 会員日本精神病理学会 会員日本精神科診断学会 会員日本認知症ケア学会 会員

    上田 諭 先生

    関西学院大学社会学部卒業後、朝日新聞に記者として入社するが、医学への志向から北海道大学医学部に入学する。北海道大学医学部卒業後、東京武蔵野病院精神科などを経て、日本医科大学精神神経科講師を務める。老年期精神医学やリエゾン精神医学を専門とし、認知症のみならずこころの問題に力を注いでいる。2020年より戸田中央総合病院メンタルヘルス科 部長に就任。

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