インタビュー

認知症は「治さなくていい」。治る認知症は一部だけ

認知症は「治さなくていい」。治る認知症は一部だけ
上田 諭 先生

東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科教授

上田 諭 先生

日本では、認知症有病者が今後も増え続けると予測されています。「認知症になったらどうしよう」「家族が認知症になったら大変だ」などと不安を感じている方も多いのではないでしょうか。しかし、認知症は誰もが発症するリスクを抱えており、避けられない疾患でもあります。私たちは認知症をどのように捉え、どのように付き合っていけばよいのでしょうか。日本医科大学 精神神経科 講師の上田諭先生にお話しいただきました。

認知症の捉え方

厚生労働省によると、平成24年時点の推測値で、認知症有病者はおよそ462万人とされており、今後も認知症の方は増え続けるといわれています。

65歳以上の高齢者における認知症の現状

※MCI=Mild Cognitive Impairment
認知症の前段階と考えられており、正常と認知症の中間ともいえる状態のことだが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない。MCIの人のうち年間で10~15%が認知症に移行するとされている。
(厚生労働省の資料より作成)

 

認知症には、「治さなければならない病気」や「困った病気」というイメージがあります。またそれを助長するように、一部のメディアや書籍は『認知症は治る』というような取り上げ方をしています。しかし、認知症を「治る・治らない」で論ずること自体が一種の詭弁なのではないかと感じます。もちろん一部「治る」認知症もあります。それは血管性認知症などの脳梗塞や脳出血後の脳血管の問題によって引き起こされる認知症です。

しかし、認知症は「治る」と取り上げてしまうと、伝え手は「一部」の認知症が治ると伝えているつもりでも、認知症の方(以下、「ご本人」)やご家族の方は「すべて」の認知症は治るのだという誤った捉え方をしてしまうのです。その結果、認知症は「治さなければいけない病気」であり「治る病気」と思われてしまうのです。

そう捉えてしまったご本人やご家族は、「治る認知症」を「治す」ために病院に来られ、治す薬をください、治してくださいと訴えられるのです。「治る」と思っていれば誰もがそう訴えるでしょう。しかし、記事5「認知症と薬-薬の効果は?」でも説明しますが、現在認知症を「治す」特効薬はありません。認知症は治らない病気であり、「治らなくてもいい」と思うほうが、より前向きにご本人や認知症そのものに向き合えるのではないかと考えています。

「治る」と捉えることの問題

「認知症は治る」と捉えた結果、ご本人もご家族もどちらもつらい想いをしてしまうことがあります。ご家族は、「治る認知症」が一向によくならず、悪化していくご本人へ不満を持ちます。そしてその不満は、ご本人への無理な「治れ」圧力となって、不適切な接し方に反映されてしまうのです。

「治さなくていい」と感じた背景

「認知症は治さなくていい」という考えをもつようになったきっかけは10年以上前になります。当時、わたしも認知症を一所懸命治そうとしていました。ご家族の苦労を少しでも軽減させたい、希望を持ってもらいたいという一心で薬物治療を多く行っていました。ただ、薬物治療の効果は一時的であるため継続せず、効果が薄れるたびに家族やご本人は落胆されました。また私自身、治せないことで苦しみいつまでも達成感を得られない日々でした。このような治療では誰も幸せになれない、不満感や不全感を持ち続けることになると考え、「認知症は治さなくていい」という考えに至ったのです。