インタビュー

認知症の治療を始める時期

栄樹庵診療所院長、東京慈恵会医科大学精神医学講座客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院精...

繁田雅弘先生

この記事の最終更新は2016年03月26日です。

「父のもの忘れはまだ軽いです。どのくらいまで進んだら治療を始めたらいいですか？」―この問いかけは、家族や周囲の方が認知症について抱いている懸念を象徴するものでしょう。しかし、私たちは皆、すでにその答えを知っているはずなのです。首都大学東京大学院人間健康科学研究科教授の繁田雅弘先生は、私たちがそのことに気づくことができるよう、ある質問を用意されています。あなたなら、その問いにどう答えるでしょうか。

あなたなら、どの段階で治療を始めたいですか？

現在の医療では認知症は治すことはできませんし、進行を止めることもできません。しかし、治療によって進行を遅らせることはできます。あなたなら、どの段階から認知症の進行を遅らせたいと思いますか？

自分しか分からない段階
家族や親しい人だけが気づく段階
周りの人が誰でも気づく段階
仕事や家事に失敗する段階
日常生活に失敗する段階
身の周りのことに手助けが必要な段階

市民講座など、一般の方を対象にした場でこのように尋ねると、ほとんどの方が1番最初の「自分にしか分からない段階」で治療を開始し、進行を遅らせたいと答えます。この段階で診断をすることはたいへん難しいことですが、もし診断ができたら治療を受けたいと思う人が多いということです。

もの忘れが心配で医療機関を受診したが診断がつかないという方であっても、ていねいにお話をうかがった結果、年々悪くなっていることがわかった場合には、その段階で認知症を疑って（軽度認知障害などと判断される段階です）、ご本人と相談して治療を開始することがあります。そのときに、「もし周りの人が誰も気づいていないとしたら、あなたと私の二人だけの秘密にして治療したいと思いませんか？」と尋ねることができたら、多くの人が治療を受けたいと考えるのではないでしょうか。認知症だということを誰にも知られずに棺桶に入る―俗にいう「墓場まで持っていく」ことができるなら、それを希望する人は多いでしょう。

しかし家族の方としては、まだ今はひとりで身の回りのこともできているし、もう少し様子をみてからでも・・・という考えになりがちです。それはやはりご本人にとっては残念なことではないでしょうか。多くの方にとって、認知症の大変さというのは、上に示した5番目や6番目、つまり「日常生活に失敗する」「身の周りのことに手助けが必要」という段階にさしかかって初めて意識されるのではないでしょうか。しかし、認知症は初期からこれだけの段階を経て進行するものだということも知っておいていただきたいのです。

一方で、認知症だと言われたくない・認めたくないというご本人の気持ちもあるでしょう。たとえば絶対に病院には行かないという覚悟があって、それを貫こうとされる方を無理やり連れて行くべきではないと考えます。しかしそれと同時に、後になって「もっと早い段階で治療を受けておきたかった」と後悔することがあってはなりません。先に述べたようなことを知った上で、皆さんが選択されるのであれば、それは尊重されるべきであると考えます。

受診について相談する

栄樹庵診療所院長、東京慈恵会医科大学精神医学講座客員教授、東京慈恵会医科大学附属病院精神神経科客員診療医長
繁田雅弘先生

「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

認知症の治療を始める時期

あなたなら、どの段階で治療を始めたいですか？

関連記事

対談 難聴と認知症のかかわりとは（後編）難聴に対する早期介入について

対談 難聴と認知症のかかわりとは（前編）難聴は認知症発症に関わるリスクのひとつ

音楽・スポーツを通じて認知症を考える〜2018年世界アルツハイマーデーイベントレポート

認知症に求められる介護 適切なサポートに向けた取り組みとは？

認知症の方とご家族が幸せに暮らすためには？ ――​​横浜市の認知症への取り組みと認知症の方との付き合い方

“認知機能の低下により日常生活に支障が出る”状態が認知症――​​認知症の概要やタイプごとの特徴、検査と治療について解説

「アルツハイマー病」と診断されている人の一部はSNAPである−認知症診断における最新の知見

視覚障害は「健康寿命」を左右する！目とさまざまな疾患の関連とは？

地域特性や施設の強みを生かした認知症支援とは

東京都の認知症施策と東京都医師会の役割

地域包括ケアシステムにおける医師の役割とは？－トータルヘルスプランナーとして住民の健康をサポートする

認知症の在宅医療－ご家族に症状と治療方針を受け入れてもらうために必要な情報

認知症の嚥下障害：アルツハイマー型認知症・レビー小体型・血管性認知症ごとの症状

認知症の患者さんを支えるために - 認知症サポーター養成プロジェクト

認知症に対する偏見と認知症患者へのリハビリテーションのあり方を考える―認知症の方ができることとは

認知症の薬物治療

認知症治療の原則

アルツハイマー病の予防とリハビリ

認知症の鑑別において見逃してはならない高齢発症のてんかん

認知症とは

睡眠時無呼吸症候群と認知症

認知症に対する先入観・偏見－本当の気持ちを聞けていますか

認知症の相談先や接し方－認知症治療への最初の一歩を踏み出すために

認知症治療の評価と真の目的

認知症の症状

認知症の進行を遅らせる－認知症をあきらめないために

認知症の診断と検査方法

認知症の初期症状と本人の思い

認知症の人とどのように付き合っていくか

いわゆる「物忘れ」は認知症の特徴ではない

病院に行くことができている認知症の人は一部である－認知症の診療の現状

アルツハイマー病の検査と診断

アルツハイマー病の症状－経過とともに進行する

アルツハイマー病の原因－アルツハイマー病には3つの特徴がある

認知症と薬－薬の効果は？

認知症の症状を引き起こす原因に目を向ける

認知症の治療－認知症の方との接し方

認知症は「治さなくていい」。治る認知症は一部だけ

認知症患者の「終末期ケア」の考え方とは

認知症予防にビタミンが効く？

糖尿病と認知症の関係

中耳炎を治療せずにいると鼓膜穿孔、難聴、認知症のリスクに――鼓膜再生療法をはじめとする治療法について解説

レビー小体型認知症とはどんな病気？ 発症のしくみから治療まで

アルツハイマー病は治療によって症状を緩和させることも可能～薬による対処療法とリハビリテーション～

アルツハイマー病の特徴的な症状である“物盗られ妄想”とは？～軽度認知障害（MCI）での受診が大切～

食欲不振の原因と診断～年代別、可能性が高い原因とは？ ～

アルツハイマー型認知症の人に対する支援のポイント〜疑う症状が見られたらどうすればよいの？〜

レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の症状の違いとは〜レビー小体型認知症が疑われた場合の検査や治療〜

レビー小体型認知症の症状とは～特徴的な症状が現れる数年前から嗅覚症状や抑うつが現れることもある～

アルツハイマー病にはどんな症状が現れるの？〜ほかの認知症とは症状が異なる〜

アルツハイマー病予防には生活習慣を見直すことが大切～具体的には何をすればよいの？～

アルツハイマー型認知症の診断に用いられる“認知機能のテスト”とは？～診断基準になる症状の特徴～

アルツハイマー型認知症は予防できるの？～遺伝との関係性や生活習慣などの後天的要因とは～

認知症の診断や治療とは？ 症状の悪化を防ぐために心がけるべきこと

対談　難聴と認知症のかかわりとは（後編）難聴に対する早期介入について

対談　難聴と認知症のかかわりとは（前編）難聴は認知症発症に関わるリスクのひとつ

認知症に求められる介護　適切なサポートに向けた取り組みとは？

認知症の方とご家族が幸せに暮らすためには？ ――横浜市の認知症への取り組みと認知症の方との付き合い方

“認知機能の低下により日常生活に支障が出る”状態が認知症――認知症の概要やタイプごとの特徴、検査と治療について解説

レビー小体型認知症とはどんな病気？発症のしくみから治療まで

食欲不振の原因と診断～年代別、可能性が高い原因とは？～

認知症の診断や治療とは？症状の悪化を防ぐために心がけるべきこと