インタビュー

アルツハイマー病の原因-アルツハイマー病には3つの特徴がある

アルツハイマー病の原因-アルツハイマー病には3つの特徴がある
山田 正仁 先生

国家公務員共済組合連合会 九段坂病院 院長

山田 正仁 先生

この記事の最終更新は2016年01月17日です。

アルツハイマー病には3つの特徴があることがわかっています。それらがどのようなメカニズムで起こるのかという研究も行われており、徐々にアルツハイマー病が解明されつつあります。本記事では、アルツハイマー病の3つの特徴のメカニズムについて、九段坂病院 院長 山田 正仁(やまだ まさひと)先生にお話しいただきました。

前の記事「アルツハイマー病とは-アルツハイマー病は数ある認知症の原因のひとつである」で述べたとおり、アルツハイマー病を引き起こす原因の特徴は3つあります。

  • 老人斑の出現
  • 神経原線維変化
  • 神経細胞(シナプス)の脱落

老人斑の出現や神経原線維変化の結果、神経細胞が脱落してしまうとアルツハイマー病が発症します。

老人斑の主成分は複数のアミノ酸からなるアミロイドβ蛋白(Aβ)です。AβはAβ前駆体蛋白(APP)に由来し、このAPPの遺伝子は第21染色体上に存在します。APPは、APPを切断する酵素(α、β、γセグレターゼ)によって切断されます。APPの大部分はαセクレターゼによって切断され、その場合Aβは産生されません。しかし、α切断を受けずにβセクレターゼおよびγセクレターゼによって切断された場合にはAβが産生されます。Aβが凝集すると最終的にアミロイド線維となります。凝集したAβは神経細胞やシナプスに対して毒性を発揮し、特に少数のAβが凝集したオリゴマーと呼ばれる凝集体は毒性が強いことが知られています。脳内には、Aβの分解・除去機構も存在していますが、Aβの過剰産生や排泄機能が低下している場合にはAβが蓄積され老人斑がつくられます。

神経原線維変化は電子顕微鏡でみるとPHF(ペアになっているらせん状の線維)という構造になっていて、その主成分は微少管関連蛋白タウが過剰にリン酸化されたものです。アルツハイマー病の脳では過剰にリン酸化され不溶化したタウ蛋白が脳内に凝集・蓄積します。Aβの蓄積によってPHFが凝集・蓄積されるメカニズムは解明されていませんが、Aβの凝集物がタウのリン酸化酵素を活性化させるという報告があります。

上記の①、②により神経細胞が障害され神経細胞が脱落し、画像でみられるような脳の萎縮が起こります。その結果、アルツハイマー病の症状があらわれます。

前項でアルツハイマー病の原因3つについて述べましたが、これらを引き起こす要因は次のとおりです。

  • 加齢
  • 遺伝的因子
  • 環境因子 
 

加齢を背景に遺伝的因子や環境因子が作用し、脳内でのAβの凝集・蓄積、タウ蛋白の凝集・蓄積が起こります。

家系内でアルツハイマー病(AD)が多発する場合「家族性AD」と呼び、常染色体優性遺伝を示します。一方、そうした家族内の発症がなく、発病者がみられる場合は「孤発性AD」と呼びます。

  • 家族性アルツハイマー病

APPそのものやプレセニリン1、2に遺伝子変異があるとアルツハイマー病になりやすいとされています。プレセニリンはAPPを細胞膜内でγ切断するγセクレターゼの活性部位です。すなわち、最上流部位のAPPやAβを切り出す酵素に異常があると、Aβ産出が増加し、その下流にあるアルツハイマー病の脳病変も引き起こすことがわかります。また、ダウン症の方はある年齢になると脳にアルツハイマー病の変化が出てきてアルツハイマー病を発症します。ダウン症は第21染色体が1本余分に存在し、染色体を3本もつことによって発症しますが、APPの遺伝子もダウン症同様、第21染色体に存在しており、遺伝子の過剰に伴うAβの産生過剰がアルツハイマー病発症に関係しています。

  • 孤発性アルツハイマー病

遺伝的な素因としては、アポリポ蛋白E遺伝子が関係していると考えられています。アポリポ蛋白EにはE2、E3、E4の3つのアイソフォーム(構造は異なるが同じ機能をもつタンパク質)、それぞれに対応するε2、ε3、ε4アリル(対立遺伝子)と呼ばれるものが存在します。ε4は孤発性アルツハイマー病の危険因子とされ、ε4の数に比例してアルツハイマー病のリスクは高まり、発症年齢も低くなります。

近年の疫学調査より、頭部外傷生活習慣病がアルツハイマー病のリスクになりうると報告されています。糖尿病などの生活習慣病や運動不足が血管性認知症のリスクとなりうるのは容易に想像できるところですが、生活習慣病の是正(食事・運動)がアルツハイマー病の予防にもなるのではないかといわれています。

わたしが行っている研究のひとつに、石川県の七尾市(旧中島町)の地域コホート研究(長期的に経過を追跡する調査手法)があります(“なかじまプロジェクト”)。現在、認知機能が正常な方がどのような日常生活を送っていて、5年~10年後にMCI(軽度認知障害)や認知症を発症しているかをみています。現在5年後の結果が出ており論文で発表しました。この論文で明らかにしたのは、食生活では緑茶を毎日飲む習慣がある人の認知症発症率が、飲まない人に比べて3分の1であるという結果です。年齢やアポリポ蛋白遺伝子型などばかりでなく、趣味や運動を活発に行っているという要因を調整した後でも、緑茶を飲んでいる人が将来の認知機能低下のリスクが低いという結果でした。

その結果を受け、緑茶などの食品に含まれているどの成分に効果があるのかという課題についてアルツハイマー病の実験モデルを用いて研究を行い、よい結果が得られた成分を用いて、現在臨床試験を進めています。このように地域のコホート研究から、認知症に効果が期待できるものが発見される可能性もあるのです。そこでわたしたちは、久山町研究を行っている九州大学ほかと全国的な組織をつくり共通データベースをするなど、日常生活習慣と認知症の関係などについて大規模な研究を実施する準備を進めてきました。2016年度からは、わたしたちのなかじまプロジェクトや久山町研究などが中核となった大規模コホート研究が国主導で本格的に始まります。

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