インタビュー

アルツハイマー病患者への経管栄養-必要なときと、必要でない時

アルツハイマー病患者への経管栄養-必要なときと、必要でない時
徳田 安春 先生

群星沖縄臨床研修センター長 筑波大学客員教授 獨協大学特任教授 東邦大学客員教授 聖マリアンナ...

徳田 安春 先生

和足 孝之 先生

島根大学卒後臨床研修センター

和足 孝之 先生

Choosing Wisely

アルツハイマー病の末期には、多くの場合経口摂取による飲食ができなくなります。このようなとき、家族は経管栄養を行うべきかどうかの選択を迫られることになります。

患者の家族は、可能な限り全てのことを行って欲しいと思うのが一般的でしょう。しかし、経管栄養に関する知識は不足している場合が多々見受けられます。また、経管栄養の簡便さから、医師や介護施設スタッフによる助言をプレッシャーに感じることもあるかもしれません。ですが、経管栄養は時にデメリットにもなり得ることは、知っておく必要があります。以下を読んで、ぜひ今一度考えてみましょう。

重症のアルツハイマー病患者には、経管栄養は有効ではないことが多い。

アルツハイマー病が進行して重度になると、患者は日常生活を送るための基本的な動作や意思疎通すらできなくなります。ものを噛んだり飲み込んだりすることも難しく、それにより体重減少や虚弱、褥瘡等が引き起こされます。また、誤嚥して食べ物が肺に入り、肺炎を引き起こすこともあるため、食事の介助が必要になります。

経管栄養を用いて食事をとるという選択がなされた場合は、栄養を送るためのチューブを咽頭の奥に留置するか、腹部に小さな孔をあけて胃に繋げます。このチューブから液状の食事を投与することになるのです。

しかし、経管栄養が丁寧な食事介助よりも優れているわけではなく、時にはデメリットになることもあります。

経管栄養を行うことで寿命が延びたり、体重が増加したり、元気になったり、できなかったことがまたできるようになる、ということは実はありません。そのうえ、肺炎と褥瘡の危険性が高くなります。

人の手によって与えられる食事により、人との触れ合い、そして好きなものの味を楽しむ喜びが生まれます。

死期が迫り、人の手によって食事を与えることができない場合、「餓死してしまうのではないか」と家族は心配を抱くものですが、実際には食事や水を飲むことを拒否するということは自然な現象であり、苦痛を伴わない死の過程の一部に既に入っている段階といえます。また、経管栄養によって生存期間が延びたといえるような十分なエビデンスはありません。

経管栄養には危険が伴う

経管栄養には多くの危険を伴います。

●出血、感染、皮膚傷害、チューブ周囲からの漏れを引き起こすことがあります。

●吐き気、嘔吐、下痢を引き起こすことがあります。

●チューブが詰まったり、抜けてしまうことがあります。この場合、病院で交換する必要があります。

●アルツハイマー病の患者はチューブの留置を嫌がり、自分で抜こうとします。これを予防するために、逆に抑制目的で体を縛ったり、鎮静剤を使用されたりします。

●経管栄養の患者は褥瘡ができる可能性が高くなります。

●経管栄養の患者は、嘔吐しやすく、誤嚥性肺炎を起こすことがあります。

●終末期では、流動食が肺に入って呼吸障害を引き起こすことがあります。

経管栄養は費用がかさむ

経管チューブを留置するには多額の費用がかかります。

では、どんな時に経管栄養を行えばいのか?

経管栄養が有効なのは、経口摂取できない原因が改善しうると考えられる場合です。例えば、脳卒中、脳損傷、脳手術を受けた等の回復過程の患者に対しては有効であるといえます。

経管栄養の適応として、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)等にみられる、一般的には不治の病だが、まだ終末期には至っていないという患者の嚥下障害などにも有効です。

アドバイス・コラム

アルツハイマー病患者に対するケア

重度のアルツハイマー病患者に対するケアを行うときには、食事の問題やそのほかの終末期の問題に対応するために、以下に挙げるアドバイスを参考にしてみましょう。

食欲不振を起こしている、その原因を治療する

例えば便秘、うつ、感染などが挙げられます。

食事介助を行う

どのような種類の食事が適しているか、どのような工夫が必要か、主治医に尋ねてみましょう。

不必要な薬を中止する

薬の中には摂食に対する問題を更に悪化させるものがあります。

●クエチアピンなどの抗精神病薬(セロクエルまたはそのジェネリック薬品)

●ロラゼパム等の抗不安薬(アチバンまたはそのジェネリック薬品)

●ゾルピデム等の睡眠薬(アンビエンまたはそのジェネリック薬品)

●オキシブチニン等の過活動膀胱に対する薬(ジトロパンまたはそのジェネリック薬品)

●骨粗鬆症薬であるアレンドロネート(フォサマックスやそのジェネリック薬品)

●アルツハイマー病に対するドネペジル(アリセプトまたはそのジェネリック薬品)

口腔内ケアの予定を組む

義歯が噛みあわなかったり、歯肉が痛んだり、歯痛等があると食事が困難で辛いものになってしまいます。

ホスピスケアを考慮する

アルツハイマー病が進行しており、体重を維持するだけの飲食ができない場合は、ホスピスケアを受けることができます。ホスピスによって、最期の6か月間(※)の苦痛や疼痛を緩和することができます。(※アメリカの多くの施設では、ホスピスケアを受けられるのは余命6か月以内と診断された場合とされています。)

また、ホスピスケアは自宅でも受けることが可能です。費用に関しては、健康保険や個人保険である程度カバーできます。

計画を立てる

もし自分が会話することができなくなった場合に備え、どのようなケアを望み、自分の代わりに誰に意思決定をしてもらいたいかを前もって書面で示しておきましょう。

 

翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 学生メンバー・大阪医科大学 荘子万能 前田広太郎

監修:和足孝之、徳田安春先生