手術を受ける前には血液検査や尿検査を行いますが、元々何か問題があるような場合、これらの検査は有用です。例えば、血液凝固に問題がある場合、手術の際に大量出血を起こす危険性があるかどうかを検査により判断できます。しかし、危険性の低い手術であれば、ほとんどの場合術前検査は必要ありません。本記事ではその理由を解説します。
多くの健康な人が、術前に血液検査を受けていますが、その結果によって手術が変更されたり、安全性が増したりするなどという事はまずありません。
例えば眼、ヘルニア、皮膚の手術や乳癌生検など危険性の低い手術では、検査は特に必要ありません。なぜなら、これらを含む多くの手術は、合併症のリスクが非常に低いからです。
血液や尿検査は極めて安全な検査ですが、本来は正常であるにもかかわらず一定の割合で誤った異常値(偽陽性)が出ることがあります。そのため、検査結果で不要な心配が生まれ、さらに検査を重ねて不必要に手術を延期してしまうことにつながりかねません。例えば、検査を受けたことによって、その後さらに追加の再検査、超音波検査、生検、放射線を使ったX線やCTといった検査が行われることが多々あります。
医学的必要性に欠ける場合、保険の種類によっては検査費用に対する補償を受けることができない場合もあります。その場合、自己負担となりますが、HealthcareBlueBook.com.によると、一般的な術前検査費用として約137ドル(日本円で約15000円)かかりるようです。
直近に同様の検査を行ったにもかかわらず、術前に再検査を勧められることもあります。一般的にこのような検査は不要で、重複して費用を払うことになります。
体調不良や病気に罹っている場合、または病歴から検査の必要性があると考えられる場合に限り有用な情報が得られます。下記にその例を示します。
・出血に影響するような疾患がある場合、血液が正常に凝固するか判断を行う必要があります。また、あざがよくできる、抗血栓剤を服用している、以前に手術や歯科処置等で血が止まりにくかった経験がある、もしくは家族の中に出血傾向を持つ人がいるなどの場合は、血液検査を受ける必要があります。
・糖尿病に罹患している場合は、糖尿病がコントロールされているかを確認するために検査を行う必要があります。
・妊娠可能年齢に達している場合は、妊娠検査を行うことがあります。
心臓、肺、脳などの大手術の前には臨床検査を受けることがあります。
検査を受けることで、術中や術後における状態をより正確に把握することができます。問題点がしっかりとコントロールされるまで手術を延期したり、術式や麻酔法を変更したりすることもあります。
医師または病院の術前スタッフが検査を行い、病歴を再度見直すことになります。
・検査がオーダーされたら、その理由を尋ねましょう
・4か月から6ヶ月前の検査結果を医師に確認してもらいましょう。通常、健康状態が変化していない場合は同様の検査を繰り返す必要はありません。
・サプリメント、医薬品、ビタミン剤の名前と服用量をすべてリストアップして持っていきましょう。
・検査が終わった後でも新たな症状がでている場合には報告しましょう。
このような順序を踏むことにより、より安全に手術を行うことができるのです。
手術日に禁煙を行うことは非常に重要です。禁煙の実施が早ければ早いほど、合併症の危険性は低くなります。禁煙が難しければ医師に相談してみましょう。
●自己血輸血ができるか尋ねる
術前に自己血を保存しておくことができます。輸血が必要な際に、自分の血液を使用することで、感染や有害反応の危険性が低くなります。
●痛み止めについて尋ねる
アスピリンを含む抗血栓剤を中止するべきかどうか医師に聞いてみましょう。アセトアミノフェンを使用したくなることがあるかもしれません。イブプロフェンやナプロキセンは、出血を引き起こす可能性があるので使用を避ける方がよいでしょう。
●手伝いをお願いする
病院への送り迎えや泊まり込みでの付き添い、介護やリハビリについてなどを周囲の人にお願いしましょう。
●荷造りをする
以下の物を持っていきましょう。
・保険証
・入れ歯、コンタクト、眼鏡などのケース
・ちょっとした娯楽品(例えば音楽プレーヤーやヘッドフォン、写真や部屋着など)
ただし、貴金属や貴重品の持ち込みは避けましょう。
※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。
翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 大阪医科大学医学部医学科 前田広太郎
監修:和足孝之、徳田安春先生
群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長
島根大学 卒後臨床研修センター
日本内科学会 認定内科医
日本有数の急性期病院で総合内科医として幅広く重症患者を診療した経験から、複数疾患を持つ高齢者が増加し続ける今後の日本の医療で必要なものは”ジェネラルマインド”であると訴え続けている。総合診療の領域で現在有名となっている東京城東病院・総合内科では、当初1人だけで勤務する立ち上げ業務から開始、同院総合内科が現在の地位を築く礎を作った。その後、2015年度より旅行医学・臨床熱帯医学を修めるためにタイの名門 マヒドン大学臨床熱帯医学大学院へ。そして、2016年より島根大学卒後臨床研修センターに在籍。全世界に通用する日本の医療を目指して、Choosing Wisely翻訳プロジェクトに参画。
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