認知症のなかでももっとも多くの割合を占めるアルツハイマー病の予防については、音楽療法や回想療法など数々の方法が試されていますが、実際に確固たるエビデンス(医学的根拠)が証明されているものは少ないといえます。国際医療福祉大学神経内科の橋本律夫先生に認知症のリハビリについてお話をうかがいます。
アルツハイマー病の予防やリハビリとして確固たる医学的根拠があるものはほとんどないといわれていますが、唯一効果があると期待されているのは脳トレ(脳の機能を高めるトレーニング)のような「認知リハビリ」です。
ただし、このようなトレーニングは楽しんで行えることでより効果が高まると考えられます。現在の脳トレの多くは高い点数を獲得することを目的とする難しい問題で構成されているものもあるため、それがアルツハイマー病を抱える方や予防のために行う方の日常生活認知の面で助けになったり、生活の質の改善につながるのかは、まだまだ研究データを積み重ねる必要があるでしょう。
遊ぶネズミと遊ばないネズミを比較した実験があります。遺伝的には同じ種類ですが、一方は何もないケージ、もう一方は玩具を設置したケージで自由に遊べるような環境をつくり、えさを与えて老齢になるまで観察しました。すると、遊んだネズミの方が脳の萎縮が少なく老化の所見が少ないことが分かりました。これは、人間に当てはめて考えると「楽しい」と感じる経験や好奇心を持って何かを行うことが、脳の萎縮や老化の予防に効果があると推測できる結果といえます。
玩具で遊んだネズミは、何もないケージで過ごしたネズミよりはるかに運動量が多いということが分かっています。そのため、フィジカルエクササイズなどの研究も行われていますし、運動が認知症の根本治療(脳の変性そのもの)にどのくらい効果があるのかという科学的データも集まりつつあります。
さらにいえば、「楽しい運動」であればもっと効果が望めるのではないかと考えられます。もし運動を始める際には、ご本人が苦痛に感じるような方法は避け、無理がない方法や運動量(年齢や症状に応じて安全に行える程度)で、楽しく続けられるご自身に合った方法を見つけていただきたいと思います。
国際医療福祉大学 教授、国際医療福祉大学病院 神経難病部長
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