インタビュー

認知症と薬-薬の効果は?

認知症と薬-薬の効果は?
上田 諭 先生

戸田中央総合病院メンタルヘルス科 元部長

上田 諭 先生

この記事の最終更新は2015年11月10日です。

認知症を治療するとなると、まず「薬」からと思われる方も多いのではないでしょうか。しかし認知症の治療で用いられる抗認知症薬には一時的な進行抑制の効果が認められているものの、薬だけで治療することは難しい場合が多いのです。今回は認知症と薬の効果について、日本医科大学 精神神経科 講師の上田諭先生にお話しいただきました。

現在、アルツハイマー病に対する抗認知症薬は4種類あり、これは大きく2種類に分かれます。先に発売された3種類の薬は、作用機序(薬が効くしくみ)が同じであるため併用することはできません。最後に発売された薬は他の3つと作用機序が異なるので先行薬との併用ができます。

抗認知症薬を処方する多くの先生は、まず先発の3種類のうちのひとつを処方し最大用量まで使用します。その薬の効果が落ちてきたら、次に併用ができる薬を処方しそれも最大用量まで使用します。しかし多くの場合、誰にでも期待できるような大きな効果はありません。添付文書にも記載されていますが、抗認知症薬は認知症を治すのではなく「みかけの症状の進行を抑制する」効果があるのみです。病気そのものの進行を抑える効果は認められていません。効果がなくなれば元の状態に戻るということです。抗認知症薬によって症状(いらつき・興奮・意欲の低下など)が抑えられる場合もありますが、一時的なものと考えています。

認知症薬を使用する場合は副作用も考慮に入れる必要があります。先発の3種類には、食欲が落ちたりお通じがゆるくなるなどの消化器系の症状が出る場合があります。さらに、興奮を引き起こす原因となる可能性があります。残りの1種類は、眠気やふらつきなどが副作用として現れる可能性があります。

記事1(認知症は「治さなくていい」。治る認知症は一部だけ)で述べたように、抗認知症薬は認知症を治す特効薬ではありません。しかし、多くのご家族が治ることを期待します。徐々に進行する認知症では、「薬の効果が出ている」ことは「症状が変わらない」ことを意味するのですが、これを理解するのは非常に難しいことです。

さらに、「症状が悪化していない」ことが薬による効果なのか、ご本人の症状がもともとそのような進行をたどるものだったのか、抗認知症薬の効果の判定は難しい場面もあります。もちろん効果がある場合もありますので、抗認知症薬は副作用や効果判定についてしっかり理解し、検討した上で使用しなければいけません。

興奮して暴力や暴言が目立つなどの症状を一時的にでも抑えたい場合は、抗精神病薬を処方する場合があります。
しかしこの場合も、その症状の根本的な原因を考えるのが先です。ご本人の体調が悪い場合もありますし、すでに服用している薬の中に興奮させる成分が入っている場合もあります。原因を考えずに症状を抑えるためだけに抗精神病薬を処方することはすべきではありません。

多くの認知症の症状(妄想や暴言・暴力など)が認知症そのものによって引き起こされているという誤った認識が、「治療=薬」という思考につながってしまっているのかもしれません。しかし、まずは症状の原因をしっかり考えた上で薬を使用するかを決めることが重要です。生活を本人にとってより楽しく生き生きできるものにすることで、なくなる原因がたくさんあります。
繰り返しとなりますが、治療の基本は「自己肯定感」の回復なのです。(記事2「認知症の治療-認知症の方との接し方」で詳しく説明します。)

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