インタビュー

地域特性や施設の強みを生かした認知症支援とは

地域特性や施設の強みを生かした認知症支援とは
平川 博之 先生

医療法人社団博朋会 ひらかわクリニック 理事長/院長、医療法人社団光生会 平川病院(南多摩医...

平川 博之 先生

この記事の最終更新は2016年12月29日です。

東京都医師会・医療福祉担当の平川博之理事は、南多摩医療圏の認知症疾患医療センターである平川病院の理事長として地域医療にも日々関わっておられます。東京都においては、認知症支援の拠点となる施設がそれぞれの強みや地域特性を生かし、垣根を越えて連携していくことが重要であるといいます。東京都医師会の平川博之理事に引き続きお話をうかがいました。

地域における認知症医療の「最後の砦」である認知症疾患医療センターには、いくつかの異なるタイプがあります。記事1「東京都の認知症施策と東京都医師会の役割」でお話したいわゆる地域拠点型の中にも、本体が大学病院や総合病院である場合もあれば精神科単科の病院もあります。診療科目も神経内科、高齢医学(老年医学)科、精神科等と様々です。私はいろいろなタイプの疾患センター施設があってもよいと考えます。

都内には認知症に対応できる数多くの病院があります。ですから、医療過疎の地方と異なり、区市町村ごとに認知症疾患医療センターが指定されているからといって、センターにこだわる必要はないと思います。臨機応変に地域の医療機関を活用すべきです。同様に個々の認知症疾患医療センターに苦手な分野があれば、疾患センター同士や医療機関が連携し補完しあえばよいと思います。

大学病院や総合病院に設置された認知症疾患医療センターは、画像検査機器等が充実していることから鑑別診断や確定診断に強みがあります。また、診療科目も揃っていますので、認知症だけではなく、合併症のある患者さんにも幅広く対応することが可能です。たとえば高齢者に多い大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)なども院内の整形外科と連携して手術できますし、循環器や呼吸器等の疾患などについても同様です。

精神疾患を専門に診ている単科の精神科病院の強みは、重度のBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれる認知症の行動・心理症状があっても入院受け入れが可能ということです。認知症による興奮や衝動行為、大声や暴力、夜間徘徊など、一般病院や介護施設等で処遇が困難な方々を精神科病院に設置された認知症疾患医療センターは数多く受け入れています。また、単科ですから組織としての統一が取りやすく。例えばアウトリーチチームを編成時や、研修会等を開催時際の応援スタッフの召集等にも柔軟に対応できます。また、精神科病院の中にも身体合併症への対応に力を入れている病院もあります。

南多摩医療圏地域拠点型認知症疾患医療センターであり、私が理事長を務める平川病院は、単科の精神病院です。平川病院では、センターの指定を受ける前から身体合併症の治療に力を入れており、精神科病棟の他に内科病棟があり、内科医も常駐しています。また、精神科病院では、その性質上作業療法科はあってもリハビリテーション科があるところは稀です。

平川病院では最も高いリハビリテーションの施設基準を取得し、PT(Physical Therapist:理学療法士)やOT(Occupational Therapist:作業療法士)、ST(Speech-Language-Hearing Therapist:言語聴覚士)等のリハビリスタッフが20名ほど勤務しています。ここで培われた経験は、認知症疾患医療センターの運営にも大いに生かされています。たとえば、認知症の方が大腿骨頸部骨折を起こした場合、家族の中には、骨折治療をして歩けるようになるとまた転倒し、同じことを繰り返すので、むしろ寝たきりの方が安全で介護しやすいと考えておられる方もいます。

確かに、そのようなお考えに陥られるご家族の心情はわからなくありませんし、転倒を繰り返すことは好ましくありません。しかし、私どもとしては、ご本人が動きたいという希望を持っておられるのであれば、できる限りのことをしていきたいと考えています。ですから、連携している整形外科病院で骨折の手術を受けていただき、術後は速やかに当院に受け入れて積極的に歩行のリハビリテーションを行っています。歩行能力の回復だけでなく、転びにくい足腰を作り上げていくことも目標です。

また、認知症の方が「がん」にかかることもあり、たとえば、喉頭がんの手術後で経口摂取ができなくなり、経管栄養など様々な対応が必要になることもあります。しかし、強い拒絶や暴力があり一般病院で対応できないというケースもあります。そうした、認知症本体の治療・身体管理・生命維持等が必要な方を平川病院の認知症疾患医療センター部門では積極的に受け入れています。

平川病院は八王子市の郊外にあり、公共交通のアクセスが決してよいと言えません。車であれば圏央道八王子西インターから2分もかからないで、インターに最も近い病院のひとつだとは思いますが、公共交通機関を利用するには不便な場所です。しかし、診断をつけていただける病院は市内にいくつもありますから、そちらを受診していただき、先に述べたような当院ならではの機能を生かすことが存在の意味と考えています。このように認知症疾患医療センターは、それぞれの特色を生かすべきであると思います。

医療者同士の会話

東京都医師会では、これまでもかかりつけ医機能の充実と多職種協働を推進してきました。代表的なものを紹介します。

1) 在宅医等相互支援体制構築事業

24時間、365日で在宅療養を支える診療体制の確立。区市町村医師会に委託し、東京都医師会は事業の全般の管理運営、好事例等の報告会等を主催しています。 

(2) 在宅療養推進基盤整備事業

①多職種ネットワーク構築事業(ICTシステムの導入)

ICT等を活用した多職種間の情報共有システム構築を区市町村医師会に委託し、東東京都医師会は事業全般の管理運営、好事例等の報告会を主催しています。

②多職種連携連絡会(連絡会・普及啓発)

東京都からの委託を受け、東京都医師会がリーダーシップをとり、都内の地域包括ケアシステムに関与する職能団体、事業者、家族会等に参加を呼び掛けました。

・東京都歯科医師会
・東京都薬剤師会
・東京都看護協会
・東京訪問看護ステーション協議会
・東京都介護支援専門員研究協議会
・東京社会福祉士会
・東京都介護福祉士会
・東京都理学療法士協会
・東京都作業療法士会
・東京都言語聴覚士会
・東京都栄養士会
・東京都医療社会事業協会
・東京都病院協会
・東京都老人保健施設協会
・全国有料老人ホーム協会
・東京都社会福祉協議会
認知症の人と家族の会東京都支部
・東京都老人クラブ連合会

などが参加しています。昨年度は、それぞれの職種の紹介、地域包括ケアシステムの中で果たしている機能等を取りまとめた都民向け冊子の発行。合同研修会を開催しました。

(3) 在宅療養地域リーダー研修

地域の在宅療養を推進していく力量を持つ、かかりつけ医を育成していく事業。在宅療養地域リーダーに求められるものは、①多職種連携の大切さを理解する②地域リーダーとしての役割を理解する③多職種連携研修会を開催する④在宅医療へのかかりつけ医の参画を呼び掛ける⑤病院医療職の「地域」に対する理解と意識を高める⑥医療と介護の相互理解の啓発⑦地域ケア会議を多職種連携・協働の場として活用。これらの推進により、地域における医療と介護の一体化を促進するというものです。

既にお気付きと思いますが、在宅療養の推進、病院・診療所・介護施設間の連携、多職種連携等の事業は、まさに地域で暮らす認知症者を支えるためには不可欠のものです。早急に区市町村単位でその地域の特性を生かした安心できる仕組みを作っていかなければなりません。

この中でも多職種間の連携は基本中の基本です。

しかし、多職種連携を構築する際、医師の敷居が高く、気軽に相談ができないという声を耳にします。誤解されていることも多いのですが、決して良いことではありません。かかりつけ医の集まる会合のたびに私は、「先生方がご自分のクリニックで通院患者さんを診察できるのは、訪問看護職や介護職、介護サービス事業者が先生方の患者さんを地域で24時間365日懸命に支えてくださっているおかげですよ。ですから、そういった地域のケアマネジャー、看護・介護事業者等の皆さんを大切にしてください。」と訴えています。

一方、医師側にも変化が出てきています。東京都医師会が主催する多職種によるグループワーク形式の研修会にも、積極的に医師が参加し、熱心に忌憚ない意見の交換をされている様子が見られます。多職種連携には上も下もありません。ため口をきくとまではいきませんが、とてもいい雰囲気です。実際、医師が診察室で患者さんに接する時間はごく短いものですが、介護職の方はそれよりもはるかに長い時間を共に過ごされています。そこで得られた情報は医療者にとって貴重なものです。連携を深めてその情報を有効活用していきたいものです。

最後に、地域の資源は無尽蔵ではありません。限られた資源を有効に活用するためには、たとえば、認知症の方に対してどのレベルまでの医療を提供していくのか、とても難しい課題でありますが、医療者・患者さん・ご家族も含めてお互いに勉強し、議論を深めながら解決の道を作っていかなければならないと思います。

住み慣れた町で親しい人たちに囲まれて認知症の方が暮らし続けていくためには、専門機関や専門家達が踏ん張るだけではとてもその願いはかないません。市民一人ひとりが、認知症を正しく理解して、自分の周りの認知症の方をもうちょっと気にしていただき、自分がして欲しいことを手助けしてあげる。そんなことの積み重ねが大切だと思います。東京都医師会としてもそういった市民活動をこれからも支援できればと思っています。

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  • 医療法人社団博朋会 ひらかわクリニック 理事長/院長、医療法人社団光生会 平川病院(南多摩医療圏認知症疾患医療センター) 理事長

    平川 博之 先生

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  • 医療法人社団博朋会 ひらかわクリニック 理事長/院長、医療法人社団光生会 平川病院(南多摩医療圏認知症疾患医療センター) 理事長

    平川 博之 先生

    公益社団法人日本精神神経科診療所協会の副会長、一般社団法人東京精神神経科診療所協会会長を長年にわたって務め、現在も厚労省の精神保健医療分野の各種調査研究事業やプロジェクトにも参画、研究報告や政策提言を行っている。1995年に老健施設ハートランドぐらんぱぐらんま開設後は、高齢者医療福祉、介護保険の分野も手掛け、公益社団全国老人保健施設協会では研修委員長として活躍。常務理事を経て現在は同協会の筆頭副会長。一般社団法人東京都老人保健施設協会会長。精神科医療、高齢医療福祉分野での実績が評価され2013年に厚生労働大臣表彰。2012年からは公益社団法人東京都医師会理事。東京都認知症対策推進会議委員、東京都認知症疾患医療センター選考委員、東京都介護保険審査会委員など20以上の東京都の委員会、審議会の委員を務めている。厚生労働省関係としては、現在医師需給分科会構成員、看護師需給分科会構成員、外国人介護人材受け入れの在り方に関する検討会委員。

    平川 博之 先生の所属医療機関

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