インタビュー

認知症の進行を遅らせる-認知症をあきらめないために

認知症の進行を遅らせる-認知症をあきらめないために
繁田 雅弘 先生

東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授/東京慈恵会医科大学附属病院 精神神経科 診療部長

繁田 雅弘 先生

治療で進行を遅らせることができるといっても、いずれ認知症が進めば最後には何もできなくなってしまうのではないか―ていねいに説明すればするほど、認知症は悪くなっていくものだと悲観的になる方もいらっしゃいます。認知症になっても希望を持って自分らしく暮らすためには、進行を遅らせることがいかに重要かを知ることが大切です。首都大学東京 大学院 人間健康科学研究科教授の繁田雅弘先生にお話をうかがいました。

認知症の進行を遅らせることの重要性

認知症の進行

このグラフでは縦軸が認知症の症状の進行を、そして横軸が時間の経過を表しています。何も治療をしなかった場合が一番左のグレーのラインです。軽度の期間も1〜2年と短く、急速に悪くなってしまいます。20〜30年前には、ほぼこのような経過をたどっていました。しかし、2000年から認知症のケアに介護保険が使えるようになり、認知症ケア学会も設立されるなど、現在は受けられるケアの質が充実してきました。良いケアを受けることができれば、図の水色の部分まで進行を遅らせることも可能であると考えます。

また、良い環境調整ができれば、さらに紫色の部分まで改善することができます。環境調整では、本人ができることはなるべく自分でやってもらい、できないことは初めからさせないようにします。失敗をすることによる屈辱感や挫折感が、負のフィードバックとなって本人のやる気を失わせてしまうからです。これに加えて、薬物療法でご本人の状態に合った薬剤を使って効果が出れば黄色の部分まで良くすることができますし、さらにリハビリテーションによって緑色の部分まで持っていくことができるということを示したのが上のグラフです。

図の中で進行の程度が「軽度」の部分に着目していただくと、何もしなかった場合に比べて倍以上に期間が延びていることが分かります。これは決して不可能なことではありません。一方、どのような経過をたどっても最後には悪くなってしまうのだと思う方もいるでしょう。しかし、人生はこのグラフの最後まで続くわけではありません。もし症状が軽度〜中等度のあたりで寿命を迎えるとしたら、認知症によって失うものはかなり少ないのです。

高血圧や糖尿病も同じことが言えるのではないでしょうか。高血圧と診断されたら、脳卒中や心筋梗塞を心配するよりも、まず血圧を下げようと考えるはずです。糖尿病になった人がみな最後には失明して腎臓透析を受け、足の壊死を起こすなどとは考えないでしょう。認知症と聞いただけで、自分では何もできず介護のお世話になり、言葉も何もわからない状態で最期を迎えると考えるのはおかしな話です。

認知症の治療が生命予後を改善する、つまり余命が長くなるということはあまりありません。良いケアや治療を受け、デイサービスで頑張ったとしても、認知症で苦しむ時間をいたずらに長引かせるという心配はないのです。同じ時間を生きるのであれば、その中で軽度の状態をできるだけ長く維持し、希望のある時間を過ごすほうが良いはずです。最期には急激に悪くなったとしても、それが限られた短い期間のことであれば、それは自然に寿命を迎える場合に近いのではないでしょうか。