インタビュー

世界アルツハイマーデーに向けてアルツハイマー型認知症を考える―患者さんとご家族に対する繁田雅弘先生の思い

世界アルツハイマーデーに向けてアルツハイマー型認知症を考える―患者さんとご家族に対する繁田雅弘先生の思い
繁田 雅弘 先生

東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授/東京慈恵会医科大学附属病院 精神神経科 診療部長

繁田 雅弘 先生

NPネットワーク研究会

NPネットワーク研究会

毎年9月21日は「世界アルツハイマーデー」です。

首都大学東京大学院人間健康科学研究科教授の繁田雅弘先生は、「これからのアルツハイマー型認知症医療は、今までは問題なしとされてきたような軽症の患者さんとご家族の思いに応える医療でありたい」と仰います。世界アルツハイマーデーに向けて、繁田雅弘先生の思いを伺いました。

1980年代にはアルツハイマー型認知症の患者さんの家族は「犠牲者」とされてきた

1980年代、アルツハイマー型認知症の患者さんのご家族は認知症の「犠牲者」とされ、「介護負担の軽減」という視点からのアプローチばかりが行われていました。しかし、最近のご家族の意識は、そうした考え方ばかりではありません。特に、精神的な強い症状もなく、外来での受診・治療に目立った支障のない方々については(今までは支援の対象にあまりなっていませんでしたが)、ご家族から「アルツハイマー型認知症の患者さんも家族の一員であることに変わりはない」「アルツハイマー型認知症のケアをしてみて新しい発見があった」といった声を聞く機会が増えました。また、「アルツハイマー型認知症になってみて、今まで想像しなかったような幸せがみつかった」という患者さんの声もあります。

そうした声を聞くと、ご家族の中には、よい意味で運命を共にする共同体のような気持ちになって、介護の充実感や達成感を感じつつ、形は変わっても幸せがあると実感されている方々がおられることが分かります。

日本のアルツハイマー型認知症対策は「予防」が注目されるが、それ以上に「発症後の支援」が重要

多くの研究者や臨床家は、アルツハイマー型認知症の「予防」に非常に熱心です。最近のアルツハイマー型認知症予防への傾倒は、ややもすると世間からアルツハイマー型認知症を排除する姿勢を強化しかねません。勿論、アルツハイマー型認知症の予防は重要ですが、それはあくまでもアルツハイマー型認知症を発症していない方のための方策です。

すでに日本では多くの方がアルツハイマー型認知症を発症しており、今後新たな予防法や治療薬が出てきたとしても、それらが確立する間にもアルツハイマー型認知症の患者さんはさらに増え続けます。ですから、一般の方々も認知症というものに向き合い、予防ばかりでなく、認知症および認知症の方、その方のご家族と共に暮らすことを考えていかなければなりません。

認知症という病気の予防への取り組みにばかり一般の方々の関心が向いてしまい、病気や病気の方、ご家族と向き合うことが疎かになってはいけないと考えます。

アルツハイマー型認知症に対する偏見―アルツハイマー型認知症患者は本当に「何もわからない」のか?

「アルツハイマー型認知症」という言葉にはどうしても拭い去れない先入観や偏見があります。

多くの方はアルツハイマー型認知症と聞いて「何もわからなくなった状態」とイメージされるのではないでしょうか。

アルツハイマー型認知症の進行のスピードは様々で、全ての患者さんが重症化するところまで進行するわけではありません。進行を遅らせているうち、軽度や中等度の段階で寿命を全うされる方も増えてきました。しかし、アルツハイマー型認知症の場合は、重症の段階に進行するというイメージが強調され過ぎています。

今後の一番の課題は、こうしたアルツハイマー型認知症に対するイメージや先入観を改善していくことだと考えています。

アルツハイマー型認知症は「怖い病気」ではない―適切な治療をすれば普通に生活できる

アルツハイマー型認知症の場合、最近は適切な治療やケアが行えれば1~2年で進行が目立つようなケースはなくなりつつあります(万が一1~2年で急激に状態が悪化した場合は、適切なケアや投薬がきちんとされているか再検討する必要があります)。しかし、多くの方はアルツハイマー型認知症に対してネガティブなイメージを持ち、アルツハイマー型認知症に気付いても、診断されること自体に恐怖感があって、受診をためらうのです。しかし、アルツハイマー型認知症の早期診断は絶望のサインではありません。ご本人がご自身の状態に気づいて、医療や介護サービスをうまく利用すれば希望を持った生活が可能です。

実際に、私の外来にいらっしゃる患者さんのうち4~5人に1人はご自身の意志で受診され、前向きに治療を続けています。とりわけ一人暮らしで、かつご自身で認知症を心配して受診される方は治療に前向きであり、ご家族から「早く病院に行かないとひどいことになる」と説得されて受診した患者さんと比べると、治療に対して積極的です。また、そのような方は「自分がしっかりしないといけない」という切迫感がありますが、それだけでなく同時に希望も持っていらっしゃいます。

認知症に自分で気づいて、自ら受診する人がもっと増えてほしいと願います。

医療従事者がアルツハイマー型認知症を正しく理解する必要がある

アルツハイマー型認知症はきちんと治療をすれば、より軽症で、独居の方は独居のままで長く暮らしていけるという事実は、とくに医療従事者へ広く伝えていくべきだと考えますし、一般の方々にも知っていただきたいと思います。

残念ながら医療従事者の間でも一般の方々と同様、いまだにアルツハイマー型認知症に対してネガティブなイメージがあります。「アルツハイマー型認知症の方との会話は上手くできない、できたとしても忘れてしまう」とのイメージから、今後の治療方針や生活環境の希望(自宅で暮らせるか、施設に入りたいか)などを、ご家族と医療職、ケア職との間で決めてしまっています。医療従事者が否定的な態度を取れば、患者さんはますます何も答えられなくなってしまいます。

私たちが「認知症になっても自分の想いを伝えることができ、周囲がそれを受け止めることができるはず」と信じて認知症の方の話を聞く場合と、「どうせ認知症の方は自分のことを周囲に伝えられない。そもそも自分のことを考えたりできないのでは」と考えて聞く場合では、話し手(認知症の方)と聞き手(私たち)の関係に天と地ほどの差が生じるでしょう。

このように、「理解できることがきっとあるはずだ」と信じて聞き続ければ、認知症の方も伝えようとしてくれます。ですから医療従事者は患者さん自身の話を聞いて、できる限り患者さんの意見をくみ取るようにするという姿勢を取っていく必要があります。そうすれば、患者さんは気持ちを語ってくれるはずです。

アルツハイマー型認知症へのケアやリハビリテーションは本人が納得してできる内容を選択する

アルツハイマー型認知症への治療で大切なのは、患者さん自身が納得できる方法を発見することです。それに基づいて治療を行えば、残されている脳機能のうち、より多くを発揮できます。

例えば、薬物治療で薬を服用する場合は、副作用が少なく自分に合った薬を主治医やご家族と一緒にみつけていく必要があります。リハビリテーションの方法も同様です。強引にリハビリテーションや脳トレーニングを行っても、その課題を遂行するための脳機能が行使されるだけで、リハビリとしての効果は限定的です。多少なりとも本人が興味を持って自主的に参加する活動にこそ、リハビリテーションとしての効果を期待できます。

そもそも本人が興味を持てない課題を行っても、進行を遅らせる効果が期待できるのか疑問です。実際、そのような場合の効果を確認したデータはありません。

一人の人間として活動するためには、「面白い」「幸せ」「友達と一緒に参加したい」などの楽しみをもつことが重要です。そのように感じられる対象に出会い、医療とケアを上手に利用すれば、認知症の症状が軽度なまま、より長くその人らしい人生を送ることができます。

周囲は患者さんにどう接すればいい? 

家族は必要なときだけ介入し、人生のそれまでの距離感で(物理的・心理的に)時間を共有することが望ましいです。距離感を測りにくいようなら、できるだけ距離をおいて暮らすことがよいでしょう。人生のそれまでの距離感以上に近づき過ぎないことが大切です。

病気を進行させないために、頭を使ったり体を動かしたりしたほうがよいという考えは間違ってはいません。ただしそれをご家族がやろうとすると、病気が進行するのではなないかという不安から、ご家族が患者さんを管理、監督する立場になってしまいます。

管理監督する意識が強くなると患者さん本人にストレスを与え、行動心理症状(うつ状態、妄想などの精神症状や、日常生活への適応を困難にする行動)を引き起こします。

私が医療機関で認知症の方やご家族をみていて感じるのは、何もしないために病気が進んでしまった事例よりも、ご本人に何らかの活動を強いた結果、ストレスが加わり、精神的に不安定になる事例のほうが圧倒的に多いということです。

難しいことではありますが、ご家族は認知症の方のそばにいつつ、しかし口は出さず(世間話などの以前と同じライフスタイルの付き合い方は大歓迎です)、「このままでは失敗してしまう」という様子が伺えたら、口を出さずに手を出して、ご家族が代わりにやってしまうことが理想です。

特に、それまで一緒にいることが少なかった(すなわち距離があった)ご家族が介護をするときは要注意です。今までは離れた存在だった家族が至近距離で介入することになりますが、それは一歩間違うと、患者さんのストレスを大きくするだけになってしまいます。

患者さんは「家族に迷惑をかけて申し訳ない」と感じ、言いたいことが言えず我慢している場合があります。一方でご家族は、いままで簡単にできていたことができなくなった本人の姿を受けいれることができず、「何とかして元気なときの姿に少しでも近づいてほしい」と願います。これらの互いの気遣いが緊張感を生みます。

認知症が進行するスピードは緩やかなものですが、簡単な日課ができなくなった姿に直面したり、緩やかながら進行していくという事実を受け入れたりすることはご家族にとって容易ではなく、それらを否認する気持ちもやむを得ないものです。

しかし否認する気持ちが強ければ強いほど、患者さんに「本人は嫌がっていないからと」いって“リハビリ”や“脳トレ”を強いることになってしまいます。ご家族の責任感から一生懸命介護しようとする気持ちが高まり、結果的に本人に負荷を与えてしまうのです。リハビリはできれば専門家の手に任せたほうがよいでしょう。

認知症の方は、それぞれ意思や想いをもっています。患者さんの気持ちを尊重して寄り添うのは容易なことではありませんが、それができるときに認知症の方は精神的に最も安定し、そのぶん病識も得られ、また最大限に能力を発揮できます。

世界アルツハイマーデーをきっかけに、アルツハイマー型認知症の方が自ら気付いて医療機関や相談機関を訪ね、その気持ちを家族が見守りつつ支えるような社会になることを願っています。

(関連記事:『認知症に対する先入観・偏見-本当の気持ちを聞けていますか』

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