子宮体がんは、子宮内膜から発生するがんです。子宮内膜組織診で子宮体がんと診断された場合、速やかに治療をする必要があります。今回は、子宮体がんの治療-それぞれの適応と再発リスクについて法について山形大学医学部産科婦人科教授である永瀬智先生に伺いました。
子宮体がんは、手術で子宮と卵巣・卵管を摘出することでほぼ完治するため、基本的に手術療法を行います。手術療法の後に再発リスクに応じて、追加治療を行うことがあります。放射線治療を行うことは日本ではまれで、追加治療を行う場合は、抗がん剤治療を行います。
妊娠を望む患者さんに対しては、適応は限られますが、ホルモン療法で子宮を残す治療もあります。
子宮全摘出+両側付属器(卵巣・卵管)摘出術(+リンパ節郭清)
手術不可能な患者さん以外は、基本的に手術療法が第一選択です。術式の基本は、子宮全摘出と両側付属器(卵巣・卵管)摘出術です。術前のMRIなどで、筋層浸潤が浅い、高分化型の子宮体がん(比較的おとなしい子宮体がん)の場合は、この手術を行います。
リンパ節を取るかどうかは、術前のMRIなどで決定する場合や、手術中の病理検査で決定する場合があります。リンパ節郭清は、もう少し病変が広がっている(筋層浸潤が深い、リンパ節腫大がある)ときに行います。骨盤リンパ節だけとる場合、傍大動脈リンパ節までとる場合など、施設により基準が異なることがあります。インターネットの情報で混乱される方もいるかもしれませんが、ご自身にとって最適な治療を選ぶ際には、主治医と話し合い、疑問や不安を解消することが大切です。
ホルモン療法の適用は、今後妊娠を希望する方、40歳以下の方、悪性度が低い方(組織型が高分化型類内膜がん)、筋層浸潤のない方です。
ホルモン療法は、半年間治療をしなければいけないため、もし半年間のホルモン療法が効かなかった場合、がんが進行してしまうリスクがあります。初回治療の際に子宮を取っていれば完全に治っていたはずなのに、時間が経って病気が進んでしまったということもあるので注意が必要です。
ホルモン療法で完全にがんが消失した割合は約50%、出産まで至ったのは約35%でした。しかし、ホルモン療法は再発しやすく、1回治っても治療終了後に約35%が再発しています。(子宮体がん治療ガイドライン2013年版より)
子宮体がんが治ったタイミングでうまく妊娠すればよいのですが、妊娠しないとまた再発してしまう場合があります。
血栓症(血の塊ができやすくなる)や肝機能障害などの副作用もありますが、1番のリスクは、ホルモン療法が効かなかった場合にがんが進行してしまうことです。
子宮体がんでは、初回治療に放射線療法はすすめていません。子宮摘出後に再発を予防するために放射線療法を行うことはありますが、日本ではまれです。(米国では、放射線治療が一般的に行われています。)
手術ができない方(体力が落ちていてできない、心臓に重い疾患がある場合など)、または、子宮を摘出したあとに再発の危険が中リスクの方に放射線治療をする場合がありますが、日本において手術後に追加治療が必要なときは、抗がん剤治療をすることが多いです。高リスクの患者さんには、放射線治療より抗がん剤療法のほうが有効です。
摘出した子宮や卵巣、リンパ節を顕微鏡で評価して、再発リスク因子の有無に応じて、低リスク、中リスク、高リスクに分け、中リスク以上の場合には化学療法(抗がん剤治療)を追加します。抗がん剤は、3週間ごとに、3〜6回行います。
薬剤の組み合わせは、シスプラチンとドキソルビシン塩酸塩(アドリアマイシン)、あるいはパクリタキセル(またはドセタキセル水和物)とカルボプラチンの組み合わせが多いです。再発高リスク群に対しては、放射線療法に比べて無増悪期間(がんの再発がなく、状態が落ち着いている期間)と全生存期間の延長をもたらす効果があります。
副作用は、吐き気・髪の毛が抜ける・手が痺れる・関節の痛みなどがあります。
また、パクリタキセルは、服用している間に手のしびれや(正座後に足の痺れる感覚に近い)、手に膜がかかっているような感覚がでることがあります。
いずれも抗がん剤の服用が終われば、時間をかけて副作用は治っていきます。
不正出血があった場合、まずは病院を受診し、きちんと診断を受けることが大事です。検査などに不安もあると思いますが、万が一のため病院に行ってください。
子宮体がんは、婦人科のがんのなかでは予後がよく、治りやすいがんなので、子宮体がんと診断されても、あまり心配しすぎないでください。
子宮体がんの初回治療は基本的に手術です。手術は怖いと感じる方も多いと思いますが、やはり早めの治療が重要です。診断を受けたらできるだけ早めに治療を開始しましょう。
繰り返しになりますが、不正出血があれば速やかに子宮体がんの検査を受けてください。不安もあると思いますが、私たちがサポートします。
山形大学医学部附属病院 産科婦人科 教授
山形大学医学部附属病院 産科婦人科 教授
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医・理事・災害対策・復興委員会委員長・婦人科腫瘍委員会副委員長・用語集・用語解説集改訂委員会副委員長日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医・常務理事・ガイドライン委員会委員長・査読委員日本産婦人科手術学会 理事婦人科悪性腫瘍研究機構 理事日本臨床細胞学会 細胞診専門医・評議員日本婦人科がん検診学会 評議員日本女性医学学会 女性ヘルスケア専門医・暫定指導医・代議員日本産科婦人科内視鏡学会 会員日本癌学会 会員日本癌治療学会 会員
現在、山形大学医学部産婦人科の教授を務め、子宮体がんなどの婦人科悪性腫瘍の手術や研究を行う。また、治療成績向上のため、子宮体がんをはじめ婦人科がんの各ガイドライン作成に携わっている。
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