

咽頭とは鼻の奥から食道までの範囲を指します。上から上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれ、このうち中咽頭にがんが生じたものが“中咽頭がん”です。
主な原因は飲酒と喫煙ですが、ヒトパピローマウイルス(HPV)によって中咽頭がんが生じる場合もあります。中咽頭がんに限らず、全てのがんは進行するほど生存率が低くなるので、中咽頭がんについて正しく理解し、気になる症状がある場合は医師に相談するようにしましょう。
本記事では、中咽頭がんの原因や予防策について解説します。
中咽頭がんの原因の多くを占めるのが、飲酒と喫煙であるといわれています。
お酒、たばこにはどちらも発がん性があります。中咽頭は飲食物や空気の通り道であることから、お酒をよく飲む人、たばこをよく吸う人ほど発がんリスクが高まるとされています。
また、(お酒を飲んで顔が赤くなる人)は、アルコールの分解がうまくいかず、発がん性のアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすいために、継続的に飲酒することで発がんの可能性が高まることが分かっています。
なお、中咽頭がんは50~70歳代に好発しており、女性よりも男性に多い傾向があります。これは飲酒や喫煙による長年の慢性刺激が誘因になること、飲酒や喫煙の習慣が男性に多いことが理由と考えられています。
中咽頭がんの発症には、ヒトパピローマウイルスの関与も指摘されています。ヒトパピローマウイルスは、皮膚や粘膜の細胞を介してヒトからヒトへ接触感染するウイルスで、咽頭への感染は主に口腔性交(オーラルセックス)によるものです。
感染しても大抵は症状が出ないまま排除されますが、感染した状態が続くとがんを抑制する遺伝子のはたらきが失われ、これによってがんが発生すると考えられています。
ヒトパピローマウイルスは100を超える種類が存在し、一部の高リスク型(特に16型と18型)が中咽頭がんの発生に関与しているとされ、性交の多様化によって近年では中咽頭がんの発症者が比較的若い世代にも増えてきているといわれています。
また、子宮頸がん、腟がん、外陰がん、肛門がん、陰茎がんなどの発生にも関わっており、これらの部位においては主に腟性交や肛門性交(アナルセックス)によって感染します。
以上の原因から、お酒やたばこを控えることが有効な予防策となります。
飲酒と喫煙は中咽頭がんに限らず、上咽頭がん、下咽頭がん、口腔がん、食道がん、肺がんなど、さまざまな部位のがんで発がんリスクが高まるといわれています。そのため、がんの発生を予防するために、特にお酒をよく飲む人やヘビースモーカーの人は飲酒や喫煙の習慣を見直したほうがよいでしょう。
がんの早期発見を目的として各市町村ががん検診を実施していますが、中咽頭がんにおいては現在、がん検診は行われていません。したがって、早期発見のためには定期的に人間ドックを受けたり、気になる症状があれば早めに耳鼻咽喉科を受診したりすることが大切です。
中咽頭がんが初期のうちは自覚症状が現れないことがありますが、飲み込むときの違和感、咽頭痛、吐血、口を大きく開けにくい、舌が動かしにくい、声の変化、耳の痛み、口の奥、のど、首のしこりなどの症状がみられる場合もあります。
中咽頭がんは飲酒や喫煙による中咽頭への慢性刺激、ヒトパピローマウイルスの持続感染が原因と考えられています。飲酒と喫煙はどちらも発がん性があり、中咽頭がんに限らずさまざまながんの発生に関与しています。そのため、飲酒や喫煙を控えることが多くのがんの予防につながります。また、気になる症状があれば早めに病院を受診し、早期発見につなげることが大切です。
国立がん研究センター中央病院 頭頸部外科 医長
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