

中咽頭がんは“中咽頭”と呼ばれる部位にできるがんで、空気や飲食物の通り道である“咽頭”にできるがんの1つです。近年患者数は増加傾向にあり、特に若い世代の発症が増えているといわれています。
では、中咽頭がんはどのような病気なのでしょうか。本記事では中咽頭がんの発症原因や症状、診断までの流れを説明します。
中咽頭は口の上部の奥にある柔らかい軟口蓋から、両脇の扁桃、さらに舌の付け根にあたる舌根、さらに喉のつき当たりの壁である後壁からなります。空気や飲食物の通り道である“咽頭”の中間部分にあたり、中咽頭の上部は上咽頭に、下部は下咽頭につながっています。中咽頭がんがもっとも多いのは扁桃であり、次に舌根、軟口蓋、後壁の順に続きます。
日本国内で中咽頭がんと診断される人数は、2014年のデータで1年間に約1,800人です。日本人で頻度が高い胃がんの発症者数が年間約130,000人であることを踏まえると、中咽頭がんにかかる人の割合は少なく、比較的珍しいがんの1つといえるでしょう。
男女別では女性よりも男性のほうが多く、その差は5倍近くに上るともいわれています。
発症しやすい年代は50~60歳代の中年層ですが、最近では若い世代でも増えてきているといわれています。
中咽頭がんの原因として考えられているのは、ウイルス感染と飲酒・喫煙といった生活習慣です。
中咽頭がんの発症には、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関わっているといわれています。ヒトパピローマウイルスは皮膚や粘膜の表面に存在し、ヒトからヒトへ接触感染するウイルスです。ヒトパピローマウイルス自体は、誰もが一生のうちに一度はかかるといわれているウイルスであるものの、一部の型は高リスク型と呼ばれ、子宮頸がんや中咽頭がんなどの発症に関わっているといわれています。
近年ではほとんどがこのタイプのものです。性行為の多様化により高リスク型のヒトパピローマウイルスの感染が若い世代を中心に広がり、若い世代での中咽頭がん増加の原因の1つであると考えられています。
飲酒と喫煙は中咽頭がんの発症に強い関わりがあると考えられており、量が多く頻度が高いほど発症のリスクが増加することが知られています。特に、飲酒で顔が赤くなる人は飲酒を継続することで中咽頭がんを発症しやすくなることが分かっています。
初期の中咽頭がんの代表的な症状は、物を飲み込む時の違和感や喉の異物感・違和感などです。これらの症状は軽いことが多く、明らかな自覚症状がないこともあるでしょう。
中咽頭がんは進行するにつれて、喉の痛みや飲み込みにくい、喋りにくい、などの症状が強くなり、さらに進行すると出血や呼吸困難などがみられることもあります。
中咽頭は口の中の奥の部分にあるため、口を開けて見える位置にがんができることもあります。また、喉の奥が腫れたことをきっかけに中咽頭がんの発症につながることもあります。
しかし、必ずしも見える位置に中咽頭がんができるとは限らず、深い位置にがんができる場合もあるため、医学的知識のない方が見ただけではがんの有無を判断することは難しいといえるでしょう。
日常的な喉の違和感や食事の際の違和感、飲み込みにくさなどがある場合は、耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。特に症状が長い間続く場合や、激しい痛み、息苦しさがある場合はなるべく早く受診するようにしましょう。
また、喉の痛みがなく、首の周りのしこりだけが現れることもあります。
中咽頭は目に見える位置にありますが、がんができていても見た目の変化が現れないこともありますので、見た目に異変がないからといって受診を中断することはしないようにしましょう。
中咽頭がんの検査では、中咽頭の見た目の確認(視診)と中咽頭や首のリンパ節の触感の確認(触診)により、がんができているかを推測します。
視診では喉頭鏡や内視鏡と呼ばれる器具を使って咽頭の状態を確認します。また、中咽頭に近い食道や胃の様子を調べることもあります。触診では口から手を入れて、がんが疑われる部分の感触を直接調べる検査を行います。また、首のリンパ節への転移の有無を調べるために、首の周りのしこりを調べる検査も行います。
上記の検査により中咽頭がんが疑われた場合は、生検や画像検査などにより確定診断を行います。生検はがんが疑われる組織の一部を採取して、顕微鏡で組織を調べる検査です。画像検査にはCT検査やMRI検査、エコー検査などがあり、それぞれX線や磁力、超音波を利用して体の内部の様子を観察します。
国立研究開発法人 国立がん研究センターのデータによると2007~2009年に診断を受けた患者を対象にした中咽頭がんの全体の5年生存率は約56.3%といわれています。治療の効果には個人差があるものの、早期のがんであるほど生存率は高くなる傾向にあります。
初期の中咽頭がんは明らかな痛みがないこともあるため、痛みがないからといって安心せず、気になる症状がある場合は耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
東京科学大学 医学部 頭頸部外科学講座 教授
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