鼻の奥から食道の入り口までの範囲を咽頭といいます。咽頭は上から順に上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれており、食道に近い下咽頭にがんができたものが下咽頭がんです。下咽頭に限らずがんは、進行するほど治る可能性が低くなってしまうため、自身で予防や早期発見に取り組むことが大切です。
では、下咽頭がんは何が原因で発症するのでしょうか。また、予防や早期発見のためできることには何があるのでしょうか。
下咽頭は飲食物や空気の通り道であることから、発がん性のあるお酒やたばこが誘発因子の1つと考えられ、お酒をよく飲む人やたばこをよく吸う人ほど下咽頭がんにかかりやすくなるといわれています。
また、飲酒に関してはフラッシャー(飲酒によって顔が赤くなる人)が継続的に飲酒することによって、発がんする可能性が高まることが分かっています。
下咽頭がん全体においては50~70歳代の人に好発し、女性よりも男性に多い傾向があります。これは、長年にわたる飲酒や喫煙による慢性刺激が関与し、また飲酒や喫煙の習慣が男性に多いことが理由と考えられています。
ただし、下咽頭はさらに細かく梨状陥凹、輪状後部、咽頭後壁に分かれており、このうち輪状後部に発生するがんは女性に多く発症しています。
輪状後部にできるがんは、貧血の一種である鉄欠乏性貧血(鉄不足による貧血)との関連が指摘されています。しかし、鉄欠乏性貧血そのものが、がんの発生に影響しているわけではありません。鉄欠乏性貧血を伴うプランマービンソン症候群という病気によって、がんが発生しやすくなります。
プランマービンソン症候群では、動悸や息切れ、めまい、体のだるさなどの鉄欠乏性貧血の症状に加えて、舌炎、嚥下困難(飲食物をうまく飲み込めない)が現れます。発症頻度はまれですが、40歳代以降の女性に好発することから、プランマービンソン症候群による輪状後部のがんは女性に多くみられるとされています。
前述の通り下咽頭がんの主な原因が飲酒と喫煙であることから、過度の飲酒や喫煙を控えることが予防につながるといわれています。
また、がんの早期発見を目的として各市町村でがん検診が行われていますが、下咽頭がんについては現在、がん検診が実施されていません(2020年12月時点)。そのため、早期発見のためには任意で受けられる人間ドックなどを定期的に受けるとよいでしょう。
初期のうちは自覚症状がみられないことがありますが、患者によっては咽頭の違和感や咽頭痛、血痰(血が混じった痰)などの症状が現れる場合があります。さらに、進行すると嚥下困難、呼吸困難も現れます。このような気になる症状があれば、早めに耳鼻咽喉科の受診を検討するようにしましょう。
飲酒や喫煙は咽頭がんだけでなく、口腔がんや食道がん、肺がんなど、飲食物や空気の通り道となる部位のがん発生に強く関わっているため、過度な飲酒や喫煙を控えることは多くのがんの予防につながります。特にお酒をよく飲む人やヘビースモーカーの人は、飲酒や喫煙の習慣を見直すとよいでしょう。また、早い段階で発見できるよう定期的に人間ドックなどの検診を受けたり、気になる症状がある場合は早めに病院を受診したりするようにしましょう。
埼玉県立がんセンター 頭頸部外科 科長兼部長
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