概要
胎児発育不全とは、何らかの理由で胎児の発育が障害され、実際の週数相当の発育ができない状態のことをいいます。全妊娠の約7%を占め、周産期合併症の罹患や周産期死亡のリスクを高めることが知られています。
胎児発育不全の原因には、母体由来、胎児由来、臍帯や胎盤由来などさまざまな因子があり、これらの因子が複雑に絡み合って胎児の発育を障害するものと考えられていますが、実際には明らかな原因が分からないケースもあります。
原因が明らかであり除去可能であれば可能な範囲で原因を取り除きますが、特定の治療方法は確立されておらず、多くのケースで安静に過ごしたり入院したりしながら経過をみます。
原因
原因としては、大きく分けて母体因子と胎児因子、胎児付属物(臍帯・胎盤)因子が挙げられます。
母体因子
妊娠高血圧症候群、やせ、体重増加不良のほか、喫煙、内科合併症(糖尿病、高血圧症、甲状腺疾患、腎疾患、自己免疫疾患、高リン脂質抗体症候群など)が挙げられます。
胎児因子
染色体異常やTORCH症候群と呼ばれる母体からの感染症が挙げられます。母体からの感染症の種類には、トキソプラズマ症、梅毒、B型肝炎、風疹、サイトメガロウイルス、単純性ヘルペスなどがあります。
胎児付属物因子
卵膜が重なって厚くなることで胎児面が狭くなる周郭胎盤や、母体からの血流不足で胎盤が壊死する胎盤梗塞のほか、絨毛血管腫、臍帯付着部異常(卵膜付着、臍帯辺縁)などが挙げられます。
症状
妊娠高血圧症候群が原因の場合には、胎児発育不全となるほか、高血圧やタンパク尿を認めます。妊娠34週までに発症する早発型の場合には重症化しやすく、けいれん発作や腎機能障害、HELLP症候群による上腹部痛や心窩部痛、吐き気、嘔吐などを起こすこともあります。
サイトメガロウイルスによる場合、初感染の方は重篤になりやすく、また胎児には胎児発育不全や、出生後には難聴や黄疸、小頭症、脳内(脳室周囲)石灰化、血小板減少など多様な症状がみられることがあります。出生時に無症状であっても、のちに発症する場合もあるため早期発見が大切です。
検査・診断
超音波検査で、胎児の頭部や腹囲、大腿骨の長さを基に“胎児推定体重”を算出します。同じ週数の胎児と比較して100人中7番目以下に相当する−1.5SD未満であることを基準に診断されます。
しかし、胎児推定体重はあくまで超音波による推定体重であり実際の体重との誤差もあるため、経時的な体重変化や羊水過少の有無などの所見も踏まえた総合的な診断が推奨されています。
治療
効果が認められた治療法はありません。一般的には可能な限り妊娠を継続し、胎児の発育を図るため、入院して胎児心拍数のモニタリングや超音波検査などが行われます。胎児の状態が悪化した場合には、妊娠継続から分娩へと方針を変更します。なお、自然分娩に耐える体力が胎児にないと予想される際は、負担軽減のため帝王切開が検討されます。
予防
禁煙やウイルス感染の予防、全身性疾患の予防が重要といえます。妊娠中の喫煙は胎児発育不全の原因になるため、喫煙していて妊娠に気付いた場合には直ちに禁煙しましょう。
妊娠が可能な年齢で風疹の抗体がない方は、ワクチン接種が推奨されています。妊娠初期の感染は胎児に障害を引き起こすことがあるため、事前に免疫をつけておくことが大切です。
サイトメガロウイルスの感染予防では、乳幼児との密接な接触を避けることが挙げられます。
またトキソプラズマは、肉を生で食べたり感染している猫の糞に触れたりすることで感染します。妊娠中は生肉を口にしないこと、猫との密接な接触を避けることが予防につながります。
このほか、妊娠高血圧症候群の予防には規則正しい生活が重要です。十分な睡眠や適度な運動を心がけるほか、塩分の取り過ぎに注意してバランスのよい食事を意識しましょう。
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