大阪市北区の医療
高齢化社会における
救急対応の重要性と当院の役割
当院は大阪市の玄関口である大阪梅田のターミナルに隣接した立地にあり、中心となる診療圏は北区、そして淀川を跨いで淀川区、西淀川区、豊中市南部で圏域の人口は約40万人ほどです(令和6年11月1日現在)。当院では以前より心血管系疾患の治療、特にカテーテルと呼ばれる細い管を用いて行う血管内治療に取り組んでまいりました。北区内では7つの病院でカテーテル治療を受けることが可能ですが、急性心筋梗塞などのより緊急度の高い心血管疾患に24時間対応可能なのは5つの病院に限られています(2024年11月時点)。
社会の高齢化が進むなかで、心血管系は勿論のこと脳血管系に関連する緊急疾患も増加しています。これらは予測できず突然発生しできる限り早期の治療を要するため、消防救急隊からの搬送要請を迅速に受け対応することが重要です。当院では24時間365日直通電話にて常に専門のスタッフが対応、オンコール医師2名が待機し24時間安心して緊急の治療を受けていただける体制を整えています。一方でこの充実した体制を維持するには医師の拘束時間は必然的に長くならざるを得ません。これからも地域の急性期医療を支えるべく、働き方改革により医療現場が直面する大きな変革の中、安心できる救急医療体制を提供し続けることが当院の重要なミッションと考えています。
大阪市北区の医療に貢献する
大阪府済生会中津病院
急性期医療体制の強化のため、脳・心・血管治療センターを開設
近年、心筋梗塞だけでなく脳梗塞へのカテーテルによる血管内治療への緊急対応の増加を背景に、当院ではより充実した診療体制を構築するため、2024年2月に脳・心・血管治療センターを開設しました。これまで症例数の増加に応じるべく、単体の血管造影室を空きスペースをみつけ増設してきたため、導線の離れた場所にある複数の血管造影室が同時稼働する状況となっていました。このためスタッフの配置が分散、資機材をそれぞれの場所に準備せざるを得ないなど多くの課題をかかえていました。
そこでセンター開設に際し、別々に配置されていた3つの治療スペースを1フロアを専有する広いスペースに再構築、1室はハイブリッド手術室とし、他の2室はそれぞれ心臓専用バイプレーン血管造影装置と脳血管治療を想定したバイプレーン血管造影装置へと更新しました。センター化によりこれまで分散していた配置を1箇所に集約することで医師やスタッフの業務効率が大幅に改善、いたずらに勤務時間を長引かせることなく緊急の患者さんへの対応力を強化することが可能となりました。更新した血管造影装置にはAIなど新しい技術が注がれており精度の高い画像を従来より放射線線量を抑えつつ描出、造影剤使用量も削減が可能となり患者さんへの負担(侵襲)軽減は勿論のこと、センターで働く医療従事者に対しても低侵襲な環境作りに取り組んでいます。さらに当センターでは今後カテーテル治療が大きな役割を果たしていくであろう、心臓弁膜症、不整脈、手や足の血管の治療に対応できる体制を整えています。
急性期病院としての体制を強化するなかで、このセンターの最も重要な役割は質の高い救急医療を提供することだと考えています。より多くの救急患者さんを迅速に受け入れ、大阪北エリアの救急医療により貢献することを目指してまいります。
プロフィール
大阪府済生会中津病院で行う
心疾患・血管疾患・脳疾患の診療
狭心症の治療
狭心症の症状と注意すべき兆候
狭心症は、胸が締め付けられるような圧迫感を伴う症状が特徴です。2つのタイプがあり、「労作性狭心症」と呼ばれるタイプの狭心症は、心臓に血液を供給する冠動脈が動脈硬化で狭くなり、心筋(心臓の筋肉)に十分な血流が供給されなくなる病気です。心臓が多くの血流を必要とする際に心筋が酸素不足に陥るため、階段を上るなどの動作中に症状が現れるのが一般的です。一方で「異型狭心症」というタイプは、血管が一時的にけいれんすることで発症し、夜間や早朝の安静時に胸の痛みで目が覚めるのが特徴です。
特に、動作中に起こる労作性狭心症は安静にすると治まるため軽視されがちですが、そのまま放置すると心筋梗塞につながることもあります。胸の締め付け感があれば、「おかしいな」とまず認識することが重要です。
高度な技術と経験を積んだ医師による治療体制
労作性狭心症では、安静時に心電図の異常がみられないことが一般的です。そのため、発作中の症状を確認するために、心電図を取りながらベルトコンベアの上を歩く心肺運動負荷試験を行い、発作を意図的に引き起こして心電図の変化を確認します。しかし、この方法にはリスクがあるため、近年では心電図と同期させてCT検査を行う冠動脈CT検査を行うことが増えています。また、当院にはには狭心症を含めた虚血性心疾患を専門とする医師が複数おり、冠動脈CTのみならず、冠動脈CTだけでは判断が難しい心筋への血流量や心筋の機能を視覚的に捉えるための画像診断法である心筋シンチグラフィを駆使して適切な診断に努めています。
労作性狭心症の治療はまず薬で症状のコントロールを目指しますが、薬だけでは狭くなった血管を広げることはできません。症状が続く場合にはカテーテル治療が必要になります。カテーテル治療では、バルーン(風船状の器具)で血管を広げ、ステント(金属の筒)を使って血管を広げることで血流の改善を図ります。
労作性狭心症の治療は、現在ではほとんどがカテーテル治療で行える時代になっています。しかし、冠動脈の狭窄が複数あり、カテーテル治療中に状態が急変するリスクがある場合は、冠動脈バイパス手術が行われることがあります。冠動脈バイパス手術とは、体の別の箇所から採取した血管を狭窄部分につなげ、血液の迂回路を作る治療です。
当院の強みは、経験を積んだ医師が在籍し、専門的な技術で治療にあたっている点です。例えば、冠動脈内を観察する冠動脈イメージング技術を駆使し、血管の形状を確認しながら治療を行っています。また、カテーテル治療を専門とする医師が在籍しており、心筋梗塞の患者さんにも24時間365日迅速に対応できる体制を構築しています。
心筋梗塞の予防につなげるためにも早期受診を
狭心症は生活習慣病が原因となることが多く、高血圧や糖尿病、コレステロール値の高さが発症につながる可能性があります。予防にはこれらの病気をしっかりと管理し、また喫煙も避けることが重要です。また、胸の締め付け感などは、放置しないことも大切です。たとえ休めば治まったとしても、病気のサインの可能性がありますので、違和感があった場合には早めに受診することが大切です。狭心症の早期治療が心筋梗塞の予防につながります。
閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)の治療
閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)とは
閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)は、動脈硬化によって血管が狭くなり、下肢の血流が悪化する病気です。歩くと腰や太もも、ふくらはぎに痛みやだるさを感じたり、足の指にしびれを感じたりするため、歩き続けるのが難しくなることがあります。進行すると、傷ができても治りにくくなり、指が黒く変色して壊死などを起こす重症虚血肢につながる恐れもある病気です。特に50歳以上の男性に多くみられる病気で、肥満、高血圧、糖尿病、喫煙などが主な原因とされています。
閉塞性動脈硬化症の診断には、上腕と足の血圧を同時に測定するABI検査が有用です。通常、足の血圧は上腕よりも高いため、足の血圧を上腕の血圧で割った値(ABI)が1以上であれば正常です。反対に、1未満であると血管が狭くなっていることを示しており、0.9を下回ると何らかの虚血があることが疑われ、閉塞性動脈硬化症の可能性が高いことが示唆されます。必要に応じて、動脈超音波検査やCT検査、最終的にはカテーテルを用いた血管造影検査も行い、詳細な診断を行います。
閉塞性動脈硬化症の治療の2つの柱
閉塞性動脈硬化症の治療法は大きく分けて2つあります。1つ目は、足の血管の詰まりを改善したり、血流を確保したりする治療です。カテーテルを使って血管の内側から治す血管内治療が主流ですが、場合によっては、新たな血液の迂回路を作るバイパス手術といった外科的治療も行われます。
2つ目は薬物療法です。閉塞性動脈硬化症は重度の動脈硬化が原因で発症するため、心筋梗塞や脳梗塞といったほかの心血管疾患のリスクや死亡率が高いことが分かっています。そのため足の血管の治療だけでなく、心血管疾患のリスク確認をしながら、コレステロール値を下げたり、血液をサラサラにしたりする薬を使ったりしてこれらの病気を予防します。この2つの治療を同時に行うことが閉塞性動脈硬化症の治療の要となります。
治療では、麻酔を施して針を刺し、血管内を広げる処置を行いますが、特に足先の治療時には強い痛みが生じることがあります。近年、神経節ブロック療法を用いることで治療中の痛みを可能な限り取り除く方法が注目されており、当院でもこの方法を用いています。また、当院では造影剤の使用による腎臓への負担を減らす工夫をしていることも特徴です。血管内超音波検査を駆使するほか、高性能な血管造影装置も活用し、造影剤使用量を減らしつつも視認性を保った治療を行っています。このように当院は患者さんの痛みや負担を最小限に抑え、安全かつ迅速に行うことを目指しています。新しい治療法や機器も積極的に取り入れながら、さらに治療の成功率を高められるよう引き続き努めてまいります。
早期発見で動脈硬化リスクの軽減を
すでに述べたように、閉塞性動脈硬化症は動脈硬化が原因となります。そのため、健康診断を受け、動脈硬化につながりやすい高血圧や脂質異常症、糖尿病などを早期発見・治療することが予防につながります。閉塞性動脈硬化は、治療すれば症状が改善するケースが多いので、ぜひ怖がらずに検査を受けていただきたいです。放置すると足に傷ができたときに壊死や、壊死状態がさらに悪化して組織が腐敗した状態に陥る壊疽が起こり、足を失う危険性もあります。歩いたときの腰・足の痛みやだるさ、しびれといった違和感などがあれば、年齢のせいと我慢せずに早めの受診が大切です。
大動脈弁狭窄症の治療
弁の劣化による症状
大動脈弁狭窄症は、心臓と大動脈を隔てる弁が劣化してうまく開かなくなる病気で、心臓弁膜症の1つです。弁の劣化の主な原因は加齢性の変化で、この弁が開きにくくなると心臓から血液を十分に送り出すことができなくなり、体全体への血液の供給が少なくなります。結果として、失神やふらつき、胸の痛み、息切れなどの症状が現れます。また、心臓へと返ってくる血液が鬱滞する(滞った状態になる)ことで、肺にも影響が及び息苦しさが出現したり、体のむくみが生じたりすることがあります。これらの症状は高齢者に多くみられ、年齢のせいと誤解されがちです。また、「階段を上るとしんどいからもう数年間も上っていないよ」といったように、知らず知らずの間に症状が出現するような動作を避けた生活を送ることが習慣づいており、症状の自覚がないということもあります。実際には心臓弁膜症による症状や日常生活の制限である可能性があるため、少しでも気になる症状がある場合は循環器内科を受診することをおすすめします。
年齢やリスクに応じた治療の選択
大動脈弁狭窄症では特徴的な心雑音がするため、聴診が非常に有用です。また、大動脈弁狭窄症が重症になると心臓にかかる負荷の大きさを示すBNPが上昇することから、血液検査もスクリーニング検査として使われます。確定診断や重症度分類には、心エコー検査が重要です。
大動脈弁狭窄症にはおおまかに3つの治療方法があります。1つ目は、心臓を切開して劣化した大動脈弁を切り取り、人工弁に置き換える外科的大動脈弁置換術です。2つ目は薬物治療ですが、根本的な治療ではなく、症状を緩和することが主な目的の治療法になります。3つ目が、胸や心臓を切開することなく、カテーテルで人工弁を植え込むことができる「経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)」になります。TAVIには様々なアクセスがありますが、多くの症例では足の動脈からカテーテルを挿入し、劣化した弁を人工弁に取り替える方法で行います。従来の外科手術より低侵襲で、術後の経過に問題なければ手術翌日に歩行可能であり、高齢の患者さんにおいても退院後にすぐに日常生活に戻りやすいという利点があります。
大動脈弁狭窄症の治療は軽症であれば経過観察や薬物療法を行うことがありますが、重症と判断された場合は外科的大動脈弁置換術やTAVIなどの手術が検討されます。現在の日本のガイドラインにおいては、75歳未満の方は外科手術、80歳以上の方はTAVIが推奨されていますが、当院においては、多職種スタッフによって編成されたハートチーム内で個々の患者さんのリスクや希望を詳細に共有したうえで、それぞれに適した治療法を決定しています。大動脈弁狭窄症は無治療であれば、一般的ながんよりも生存率は低い非常に予後の悪い病気です。一方で手術には一定のリスクがあります。当院においては、大動脈弁狭窄症という病気について十分に説明し、考えられる治療方法とそれぞれのメリットやデメリットを共有し、ご本人やご家族とコミュニケーションを重ねて、どのような治療を行うかを決定していくことを心がけています。
安心して治療を受けていただくために
息切れやふらつきなど、少しでも気になる症状があれば、早めに受診いただくことをおすすめします。また、大動脈弁狭窄症かもしれないと疑った場合、治療を受けるかどうかにかかわらず、ぜひ一度受診してください。症状や治療法について、丁寧にご説明させていただきます。高齢だからとあきらめず、より健康な状態で長く生きることができるよう、患者さんに合った治療方法について一緒に考えさせていただきます。
脳腫瘍の治療
発生部位や進行速度などにより異なる脳腫瘍の症状
脳腫瘍とは、頭蓋骨内にできる腫瘍の総称で、脳やその周囲の硬膜や神経などから発症します。良性と悪性に分けられ、その種類は150以上に及び、分類も非常に多岐にわたります。また年齢や性別を問わず発生し、高齢者や小児特有のものもあります。
脳腫瘍の症状は、腫瘍が発生した場所によって異なります。例えば、腫瘍が視神経の近くにできれば視覚異常が起こりますし、部位によっては、物忘れが目立つ、食事をとれなくなる、起きていられないなど認知症のような行動の変化などが現れることもあります。また、腫瘍の大きさや良性・悪性かによっても症状や進行度が異なる場合があります。そのため、医師は症状から腫瘍の位置を推測し、画像検査で確認します。
大学との連携や病院の強みを発揮した治療を提供
脳腫瘍の検査では、まず外来や救急で患者さんの症状について詳細に問診を行い、症状の経過を把握します。これにより脳腫瘍を疑ったら、主にCTやMRIなどの画像検査を実施します。必要に応じて、脳血管内カテーテル検査なども実施し、手術に必要な情報を集めます。ただし、稀な腫瘍などは手術で組織を取り出さないと最終診断ができない場合もあります。
脳腫瘍の治療は、悪性か良性かで異なります。悪性の脳腫瘍の場合、手術のほか、放射線治療、薬物療法が主な治療法となります。一方、良性脳腫瘍の多くは、手術で完全に摘出すれば再発することはほとんどありません。また脳腫瘍の手術には、腫瘍の位置に応じて、様々なアプローチ方法が適用されます。多くの腫瘍は頭蓋骨を切開する開頭術によって摘出しますが、腫瘍の部位によっては鼻の穴から内視鏡を使ってアプローチする経鼻内視鏡手術も可能であり、この方法は体への負担が少ないとされています。当院では多様な選択肢を備えており、患者さんに適した治療が施行可能です。
また、脳外科手術において重要な要素には、医師の手技とそれをサポートするほかのスタッフなどがあります。当院の脳神経内科、眼科や耳鼻科など他科のスタッフとの連携が可能なため、包括的な治療を行える点が強みです。
さらに大阪公立大学と連携することで専門的な治療の提供や医師の教育に努めています。大学スタッフが必要に応じて補完的に手術をサポートし、よりよい治療を提供できる体制を取っています。また大学での解剖実習や勉強会に参加し、スタッフや若手医師は自らの技術を磨いて専門性を高められるよう環境を整えています。
患者さんと共に安心できる未来を目指す
脳外科手術は数mm、場合によっては1mm以下の違いで結果が大きく変わるため、慎重な判断と高い手術技術が求められます。脳外科医として、患者さんの人生に直結する手術を行う際に強い責任感とプロ意識を持って一つ一つの手術に全力で向き合っています。脳の病気には怖くて難しいイメージがあるかもしれませんが、私たちは患者さんが「大丈夫」と思えるように、手術技術を最大限に発揮し、スタッフと協力しながら情熱をもって病気に立ち向かっています。安心できる未来を迎えられるよう、一緒に頑張りましょう。
- 公開日:2024年12月27日