循環器疾患・脳疾患の診療

診療科間が連携する包括的なサポートが不可欠に

写真:PIXTA

診療科間が連携する
包括的なサポートが不可欠に

高齢化に伴って、がん・脳疾患・心疾患を抱える高齢の患者さんが増加しています。近年の診断・治療手段の高度化・複雑化に加えて、基礎疾患のある患者さんに対する全身管理、退院後のQOL向上などの観点から、今や単一診療科のみでの治療が困難な時代になりつつあります。このため、各病院では診療科間の連携を強化し、看護師、臨床検査技師、医療ソーシャルワーカーなど各スタッフを含めたチームによる診療を進める動きがあります。このような患者さんへの包括的なサポート体制は、質の高い医療を提供し続けるために、より一層必要なものとなっていくでしょう。

救急体制と集学的治療で地域医療を支える
大阪赤十字病院

24時間365日の救急体制と診療センター化でQOL向上に貢献

24時間365日の救急体制と診療センター化でQOL向上に貢献

当院は、1909年に日本赤十字社大阪支部病院として創立して以来、地域の医療を支えてまいりました。近年は、がん診療や24時間365日対応の救命救急、周産期母子医療など、急性期病院としての役割も果たしています。現在、当院が積極的に進めているのは診療センター化です。診断・治療が高度化・複雑化するなか、よりよい治療を提供するためには、複数の診療科や各部門のスタッフが連携し、チーム一体となって診療にあたることが非常に大切です。がん治療や急性期治療に対応すべく、当院では“肺がん・胸部疾患センター”、“脳腫瘍のうしゅようセンター”、“脳卒中センター”、“心臓血管センター”などを設置しています。各センターは疾患領域別となっており、1つの窓口で包括的に診療にあたります。各センターはスタッフに気軽に相談できる体制も整っていますので、不安な症状がありましたら主治医の先生から紹介をいただき、ぜひご来院ください。

大阪赤十字病院における
脳腫瘍・脳梗塞・
狭心症・肺がんの治療

脳腫瘍の治療

複数の治療法を組み合わせて脳腫瘍に立ち向かう

早期治療で元の生活を取り戻せる可能性も

当院は、集学的治療*の実践によって治療効果をより高めるべく、2023年9月に脳腫瘍センターを開設しました。たとえば、転移性脳腫瘍では、多くの場合で抗がん薬の効果が得られにくく、これまでは手術と放射線治療以外には有効な治療が少ない状況でした。しかし、近年では分子標的薬**による治療が有効であることが分かってきています。ただし、分子標的薬を用いた治療は脳神経外科だけでは対応できません。もしも肺がんからの脳転移ということであれば、呼吸器内科や腫瘍内科と連携することで初めて成り立つ治療になります。そこで脳腫瘍センターを開設したことにより、診療科の垣根が低くなり、こうした治療の際にも迅速かつスムーズな対応が実現しました。

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複数の治療法を組み合わせる治療のこと。

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がん細胞に存在する特定の分子のみを標的にする薬。

さまざまな角度から正確な診断に努め、必要な治療を見極める

さまざまな角度から正確な診断に努め、必要な治療を見極める

写真:PIXTA

脳腫瘍の診断においては、神経学的検査(意識、運動・感覚機能、言語などの評価)のほか、画像検査(CT、MRI、RI検査や血管撮影検査)などを実施し、最終的に手術で摘出して病理検査で確定診断を行います。
脳腫瘍の画像診断は難しい面がありますが、当センターには脳神経外科の全医師のほか、日本医学放射線学会が認定する放射線診断専門医も多数在籍しています。一つひとつの症例をそれぞれの専門的な視点から診ることで正確な診断ができるように努めています。このほかにも脳神経内科、小児科、放射線治療科、腫瘍内科、緩和ケア科の代表各1名が脳腫瘍センターの構成員として在籍していますので、治療の際にも多くの診療科の知見を結集できることも当センターの強みです。
脳腫瘍と聞くと、不治の病といったイメージを持たれる方もいらっしゃるかと思いますが、決してそうではありません。全てのケースで手術が必要というわけでもありませんし、良性腫瘍であればそもそも治療が必要ないケースもよくあります。手術が必要かもしれないと紹介されてきた患者さんでも、当院での診断の結果、年1回の経過観察で済む方もいらっしゃいます。検査の結果、症状がなく良性と思われる場合は「手術の必要はありません」とはっきり患者さんにお伝えしています。不安を感じすぎずに、まずはご相談にいらしていただければと思います。
治療においては、手術および化学療法、放射線療法を行います。手術は患者さんの安全と後遺症が出ないことを第一に、治療法を理解し、しっかりと納得いただいたうえで進めてまいります。各科の医師らが力を合わせて幅広い治療選択肢をご提案いたしますので、脳腫瘍、あるいはその疑いがあると言われたら、主治医の先生の紹介をいただいて、お気軽に当センターを受診ください。

解説医師プロフィール

脳梗塞の治療

診療各科が緊密に連携し、チーム力で命を救う

診療各科が緊密に連携し、チーム力で命を救う

当院では脳卒中センターを2023年9月に設置し、それまで別々に治療にあたっていた脳神経内科と脳神経外科に加えて、救急科、リハビリテーション科なども包括したチーム医療体制を確立しました。
これにより、脳神経内科あるいは脳神経外科単独では難しかった治療が可能となりました。またさらに治療方針の相談や手術を依頼する際などの場面でスタッフ間のコミュニケーションが円滑になり、より迅速に連携できるようになっています。
脳卒中は、大きく分けて血管が詰まる脳梗塞のうこうそくと、血管が破れる脳出血があります。脳梗塞の場合、時間の経過とともに脳細胞が死んでしまうため、できる限り早く詰まった血管を再開通させる必要があります。治療は血管に詰まっている血栓を薬で溶かす方法や、カテーテルを使って血栓を取り除く方法があります。いずれも時間との勝負であり、発症してから治療開始までの時間が短いほど症状が回復でき、後遺症も抑えられる可能性が高くなります。
こうした急性期治療に対する当センターの強みは、ホットライン体制が“24時間365日”整っていることです。救急隊や近隣の医療機関からの連絡が効率的に医師に届くようになっており、患者さんが病院に到着するまでの時間をできる限り短くできるようにしています。また、救急科、CT・MRIなどの画像診断部門、カテーテルの治療室が同一フロアに配置され、短い動線で移動できるため、患者さんの到着後も遅滞なく治療を開始できます。

診療各科が緊密に連携し、チーム力で命を救う

治療の際は、SCUという専門病床で急性期治療や血圧管理を行います。術後は手足の麻痺や言葉の発出が悪くなるといった神経症状を見逃さず、悪化があればすぐに追加の治療を行うことが大切です。当院SCUでは患者さん3人に対して看護師が1人という体制をとっており、小さな症状も見逃さないように看護しています。
また、早期離床に向けたリハビリテーションにも力を入れています。高齢の方の場合は、身体的な問題がないのに心理的な不安から安静期間(入院期間)を長くとってしまうと、体を動かす機会が減り、予後の悪化につながります。SCUでは日本脳卒中学会認定の脳卒中専門医をはじめとした専門のスタッフが対応することで、患者さんにとって無理のない範囲で早めにリハビリテーションを始められるようにしています。

脳梗塞を疑う症状があればためらわずに救急車を呼ぶことが大切

脳梗塞を疑う症状があればためらわずに救急車を呼ぶことが大切

脳梗塞は、強い痛みや苦しさが現れにくいことから、特に夜中などには救急車を呼ぶタイミングが遅れるケースが多々あります。
脳梗塞には「FAST」と呼ばれる標語があり、3つの症状と発症時刻(Face=顔の麻痺、Arm=腕の麻痺、Speech=言葉の障害、Time=発症時刻)に注意することが大事とされています。手足の麻痺など脳梗塞を疑う症状があれば、「様子を見て朝になってから……」などと考えず、迷わず救急車を呼んでください。まれにしばらく様子を見ているうちに麻痺が治ることもありますが、一過性脳虚血発作といって脳梗塞の前兆となる病態の可能性があるので、その場合でもすぐに救急車を呼んで受診されることが大事です。当センターでは各科の医師、スタッフの綿密な連携の下で迅速な治療を実践し、一人でも多くの方の救命につなげられるようこれからも努めてまいります。

解説医師プロフィール

狭心症の治療

ハートチームとして連携し、患者さんに必要な治療を見極める

ハートチームとして連携し、患者さんに必要な治療を見極める

写真:PIXTA

心臓血管センターの強みは、循環器内科・外科の医師だけではなく看護師や理学療法士、薬剤師など、多職種のスタッフが“ハートチーム”として一体となって診療にあたっていることです。
外来では循環器内科と心臓血管外科の診察室を近くに配置しており、密にコミュニケーションを取りながら、患者さんの症状に応じてどちらが診察するかをタイムリーに判断しています。また、カンファレンスを通じて、それぞれの科の観点から意見を出し合い、ふさわしいと思われる治療法を決定しています。さらに、総合病院の特長を生かし、心疾患以外の持病がある患者さんに対応するために他科との連携も密にしています。
入院時には患者さんが病気以外の面でストレスや不安を感じることがないように、病棟や看護スタッフをなるべく変えないように配慮しています。たとえば、急性期治療後は術後に症状が落ち着いた後も急変リスクがあります。このような場合でも治療時から担当した看護師が、そのまま継続して看護に入り、不安なことはいつでも相談できる環境を整えています。また、患者さんを見守る流れを途切れないようにすることで、ささいな変化も見逃さないよう努めています。

安全性に配慮しつつ、できるだけ負担のない検査・治療を追求

安全性に配慮しつつ、できるだけ負担のない検査・治療を追求

狭心症は急を要さない慢性のものと、急性のものがあります。慢性の場合は“患者さんにとって本当に必要な検査だけを行い、治療の必要性をきちんと説明したうえで可能な限り体に負担の少ない治療をする”というのが当センターの基本スタンスです。
具体的には、検査では“FFR-CT”という解析を活用しています。これはCTで撮影した画像を使って、冠動脈を流れる血液をコンピュータでシミュレーションできるものです。これによりカテーテルを挿入することなく、血流低下が治療に値するレベルかどうかを判定できるので、カテーテル治療が必要なのか、薬物療法で経過をみるべきなのかを体に負担をかけずに判断できます。
慢性狭心症について、一般的に医師の立場からは「危険です」と言うよりも「カテーテル治療や手術はすぐには必要ありません」と伝えるほうが難しいとされています。しかし、そこをきちんと見極め、患者さんに余計な不安を与えたり、過剰な検査で負担をおかけしたりしないようにすることも、日本循環器学会認定の循環器専門医がそろう当センターの役割と考えています。

安全性に配慮しつつ、できるだけ負担のない検査・治療を追求

治療方針の決定の際には、看護師をはじめとするスタッフから、病気だけではなく、患者さんの生活状況などの情報を多角的に集めています。たとえば、冠動脈バイパス手術(狭窄・閉塞した部分より先に血管を縫い付ける手術)では、3本ある心臓の血管に治療が必要な場合、3本すべてに血管の迂回路(バイパス)をつくることが理想的な治療になります。しかし、バイパスの本数が増えれば増えるほど体に対する侵襲は大きくなるため、一人暮らしの高齢の方などの場合は、病気の完治を目指すことによりかえって体のコンディションが損なわれ、生活に支障が出てしまうこともあります。事前の情報から退院後の生活までを想定し、病気に対しての最大限の手術を行うのか、生活していくうえで必要最小限の手術のみを行うのかを検討をします。
なお、手術の際には周りの方々のサポートも必要になります。説明の際には可能な限りご家族の方にも来ていただき、治療を受けることのメリットやデメリットを丁寧にお伝えします。患者さんを支える方にも治療内容をご理解いただいたうえで、治療を進めていくのでご安心ください。急性の狭心症に関しては24時間365日、いつでも対応できる体制を整えています。心臓に関して少しでも気になる症状があれば、お近くのクリニックの先生を通じて気軽に当センターまでご相談いただければと思います。

解説医師プロフィール

肺がんの治療

がん治療の複雑化に対応しつつ、スタッフが一体となって患者さんに寄り添う

がん治療の複雑化に対応しつつ、スタッフが一体となって患者さんに寄り添う

当院は2025年2月に肺がん・胸部疾患センターを開設しました。その背景には、近年の肺がん治療の複雑化があります。近年の肺がん治療では、がんの遺伝子やタンパク質を調べ、がんの性質に合った薬を使用して治療を進めていきます。そのためバイオマーカー(遺伝子やタンパク質)検査によってがんの性質をきちんと調べることが重要です。こうした検査・診断は呼吸器内科だけでなく腫瘍内科などとの連携が不可欠です。加えて当センターでは、進行性の肺がんが疑われる場合でも、放射線診断科と連携し速やかに検査を行える体制を整えています。また、細径気管支鏡や細径超音波プローブを用いた生検、気管支鏡と超音波が一体となった超音波気管支鏡なども活用し、診断確定率を上げるように努めています。

がん治療の複雑化に対応しつつ、スタッフが一体となって患者さんに寄り添う

治療においては、患者さんの病気の進行度によって、外科的治療と内科的治療の大きく2つに分かれますが、近年は治療効果を高めるため、それらをまたぐような治療(集学的治療)もあります。手術の前後に抗がん薬や放射線などの治療を組み合わせるため、呼吸器内科・外科、腫瘍内科、放射線治療科が、治療方針の決定の段階から連携していく必要が出てきているのです。
センターの治療を支えているのは医師だけではありません。肺がんの場合、受診されたときにはがんが進行していることも少なくないため、診断がついたときにショックを受けたり不安に思われたりする患者さんもいらっしゃいます。当院には日本看護協会認定のがん看護専門看護師がいますので、患者さんに寄り添いながら、精神的なサポートもさせていただいています。また、入院した際に薬についての質問があれば薬剤師が対応するなど、センターには疑問や不安を気軽に相談できるスタッフがそろっていますので、患者さんにとっては心強い体制となっていることと思います。

できるだけ体のダメージが少なく、かつ可能性をあきらめない治療を行う

できるだけ体のダメージが少なく、かつ可能性をあきらめない治療を行う

写真:PIXTA

当院では20年以上前から身体への負担の少ない胸腔鏡下手術きょうくうきょうかしゅじゅつを開始しており、それ以来、患者さんの状態に合った術式を考え、できるだけ身体の機能を低下させない手術のノウハウを蓄積してきました。さらに2019年からは手術用のロボットであるダヴィンチXiを使用したロボット支援胸腔鏡下手術も導入しています。
また、近年は高血圧や糖尿病、肺気腫、間質性肺炎などの併存疾患のある患者さん、あるいは過去に脳梗塞や心筋梗塞を経験されている患者さんが多くいらっしゃいます。これらの患者さんは、手術による身体機能の低下が併存疾患を悪化させたりQOLを低下させたりすることがあり、全員一律の手術をすることはできません。患者さんの状態に合わせて、必要ならば標準的な肺葉切除ではなく、より小さい範囲の切除にとどめることで機能を温存する“縮小手術”を取り入れ、手術後のQOLをできる限り損なわないようにしています。

できるだけ体のダメージが少なく、かつ可能性をあきらめない治療を行う

当センターでは抗がん薬や放射線による治療により腫瘍が縮小したタイミングで手術に移る“サルベージ手術”も行っています。これは呼吸器内科と放射線治療科の協力があって初めてできる治療になります。抗がん薬や放射線の治療の途中で、外科の医師が診察したり、カルテをチェックしたりして逐一情報を共有しながら、手術ができるかどうかを慎重に見極めます。センターとして定期的なカンファレンスもありますが、お互いの医局が同じフロアで背中合わせになっていますので、日々のディスカッションも活発です。治療ガイドラインに沿いながらも、患者さんのためにチーム一丸となってギリギリまであらゆる可能性を追求して治療方針を決めているところも、当センターの強みです。また、呼吸器内科で行う免疫療法*で起こる内分泌系の副作用に対しても、速やかに他科に診療を依頼できる体制を整えています。
当センターでは難しい症例に対してもちゃんと糸口を見つけて、治療につなげていけるよう努めています。困ったときにはお近くのクリニックの先生にご紹介いただいて、ぜひ当センターにご相談ください。

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免疫チェックポイント阻害薬を使った治療。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2025年6月16日
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