京都市山科区の医療

高齢化で増えていくがん――地域に寄り添った包括的な医療が大切

写真:PIXTA

高齢化で増えていくがん――地域に寄り添った包括的な医療が大切

がんは、京都府民の死亡原因の第1位となっています。また、一生のうち、がんにかかる割合は男性で6割以上、女性は5割以上といわれており、誰もが注意すべき病気です。がん登録*の集計結果によると、京都府のがん罹患数は2019年まで年々増加傾向にあり、2020年時点では20,493人となっています。がんは加齢により発生のリスクが高まることから、超高齢化社会を迎えている現代では今後も患者数は増加することが見込まれています。
がんは早期発見・早期治療により治療の負担を少なくでき、根治を目指せる可能性も高まります。早期発見のためには定期的に検診を受けることが大切ですが、京都市はがん検診の受診率が全国平均と比較してやや低くなっています(2022年時点)。高齢化が進行している山科区の医療機関においても地域住民の皆さんのニーズに応えるため、がん検診から、診断、治療、その後の生活のサポートまで包括的な医療提供体制の構築が必要とされています。

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がんの診断、治療などに関する情報を集めて整理、解析する仕組み。

京都市山科区の急性期医療と
がん治療を支える

洛和会音羽病院

“大切な人を紹介できる病院”を目指し切れ目ないがん治療を届ける

“大切な人を紹介できる病院”を目指し
切れ目ないがん治療を届ける

当院の柱は、急性期医療とがん治療、そして災害医療です。これらの中でも特に急性期医療とがん治療の両立に力を入れており、これまで以上に注力していく方針です。
当院は人口約13万人の京都市山科区に位置する総合病院です。がん治療に関して、京都市内は大学病院や京都市立病院などの医療提供体制が整っています。しかし、がん治療は継続的な通院が必要になるため、遠方の患者さんにとっては負担が大きい場合もあります。そこで当院は山科区の皆さんに寄り添いながら、患者さんが市内の遠方の病院へ行かずとも、住み慣れた地域で治療を完結できるように努力しています。敷地内には健診センターを併設しており、そこで異常が見つかった方を当院の各診療科で速やかに引き受け、診断、治療へとつなげています。進行がんの患者さんの緩和ケアにも対応しており、予防から治療、その後のケアまで切れ目のないがん治療を一貫して提供できる体制が強みです。洛和会ヘルスケアシステムのグループ全体としては、介護施設や訪問診療なども展開しており、治療だけでなく、その後の生活まで含めて包括的に患者さんをサポートできる体制を整えています。
当院は、“大切な人を紹介できる病院”をビジョンとしています。地域の皆さんから信頼され、「自分の大切な家族や友人が病気になったら、あの病院をすすめたい」と思っていただけるような存在になることを目指しています。何かお困りのことがあれば、ぜひ当院にご相談いただければ幸いです。

院長プロフィール

洛和会音羽病院における
肺がん・胃がん・前立腺がん・
大腸がんの治療

肺がんの治療

内科・外科のスムーズな連携で診断、治療を迅速に

肺がんの疑いで来院された場合、まずは胸部CTなどの画像検査で、がんの可能性がどのくらい高いかを確認します。可能性が高いと判断した場合は、がん細胞の有無を確認するための“病理診断”と、がんの進行度(ステージ)を調べる“病期診断”の2つを行う必要があります。肺がんは進行性の病気のため、迅速な診断と治療が大切です。病理診断の確定を待ってから病期診断に進むと患者さんをお待たせする時間が長くなってしまうため、当院では2つの診断を同時に進めることで、約1週間後には確定診断と今後の治療方針をご説明できる体制を整えています。

内科・外科のスムーズな連携で診断、治療を迅速に

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治療方針は、呼吸器内科と呼吸器外科、放射線治療科、腫瘍内科しゅようないかなどの医師たちによるカンファレンスで決定します。当院の呼吸器内科と呼吸器外科は、15年ほど前までは“呼吸器科”として1つの診療科でした。その頃から同じカンファレンスで議論を重ねてきており、現在も非常に風通しのよい関係が築かれています。連携は極めてスムーズで、たとえば、呼吸器内科の外来を受診された患者さんに外科での手術説明が必要になった場合には、手術を行う外科医がすぐに内科の外来へ向かい、そのままご説明することもあります。

体の負担が少ない胸腔鏡下手術、縮小手術に対応

手術は患者さんへの負担が少ない胸腔鏡下手術を積極的に行っています。開胸手術と比較して傷が小さく済むため、入院期間も短縮できます。手術方法の選択では、がんを治すことはもちろん、術後の生活も大切に考え、肺機能を可能な限り温存することを目指しています。

体の負担が少ない胸腔鏡下手術、縮小手術に対応

肺機能が十分に保たれている患者さんであれば、根治性が高いとされる肺葉切除を行います。しかし、ご高齢であったり、肺機能が低かったりすると、術後の生活が苦しくなってしまうリスクがあります。このような場合は、慎重に適応を見極めたうえでより切除範囲が少ない区域切除や部分切除といった縮小手術も行っています。

体の負担が少ない胸腔鏡下手術、縮小手術に対応

薬物療法は、肺癌診療ガイドラインに沿って従来の抗がん薬のほか、特定の遺伝子変異を持つがんに効果が期待できる“分子標的薬”や、人が本来持つ免疫の力を利用する“免疫チェックポイント阻害薬”などを患者さんの状況に合わせて選択しています。

地域に寄り添い病院全体で患者さんを支える

山科区や近隣にお住まいの方が、遠方の病院まで行かずとも、身近でアクセスのよい当院で内科的治療から手術まで、一貫した治療を受けられることが当院の価値だと考えています。当院で長く診療を続けている医師もいるので、地域の患者さんと“顔の見える関係”も築きやすくなっています。
治療の際には患者さんのご状況のほか、「髪の毛が抜ける治療は避けたい」「できるだけ家にいながら治療したい」といった大事にされていることまで丁寧にお伺いします。そのうえで、可能な限りご希望に沿えるよう、寄り添いながら治療計画を立てていきます。また当院は“がん相談センター”も設けており、病気のことだけでなく、お仕事や介護のことなど、療養生活全般に関する相談を受け付けています。治療はもちろん、社会的・精神的なサポートまで、病院全体で患者さんを支える仕組みが整っていますので、安心してご相談ください。

解説医師プロフィール

胃がんの治療

内科と外科が密に連携し内視鏡治療と手術の適応を見極める

内科と外科が密に連携し内視鏡治療と手術の適応を見極める

胃がんは、できるだけ早い段階で見つけることが非常に大切です。進行すると、お腹の中にがんが散らばったり(腹膜播種ふくまくはしゅ)、他の臓器に転移したりして、治療が難しくなることがあるためです。早期の場合は内視鏡による治療が可能で、もし手術が必要になったとしても、根治を目指せる可能性が高まります。当院では内科と外科の医師が密に連携することで、治療方針を迅速に決定し、手術が必要な患者さんをスムーズにつないでいく体制を整えています。

内科と外科が密に連携し内視鏡治療と手術の適応を見極める

当院では診断の正確性を高めるため、特殊な光で毛細血管の集まりを確認できる狭帯域光きょうたいいきこう観察やズーム機能がある拡大内視鏡を活用しています。手術が必要になるかは、主にがんの深達度、つまり、がんが胃の壁にどれくらい深く達しているかによって決まります。胃の壁はいくつかの層に分かれていますが、がんが粘膜の深い層にある“粘膜下層”よりも深く達している場合は、手術が基本的な治療となります。
がんが粘膜にとどまる早期の胃がんにはESD(内視鏡的粘膜下層剥離術ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)を行っています。内視鏡治療のメリットは外科手術と比較して入院が短く済むことです。

科の垣根を越えた多角的な視点で進行がんに向き合う

手術の場合、当院では、体に負担の少ない腹腔鏡下手術ふくくうきょうかしゅじゅつを積極的に行っています。お腹に穴を開け、そこからカメラや手術器具を入れて行う方法です。お腹を大きく切る開腹手術に比べて傷が小さく、術後の回復が早いという利点があります。

科の垣根を越えた多角的な視点で進行がんに向き合う

胃がんの治療は、外科や内科だけで完結するものではありません。当院では週に一度、消化器内科、消化器外科、放射線科、腫瘍内科、放射線治療科の医師たちで合同カンファレンスを開いています。各科の医師が、患者さん一人ひとりについて、それぞれの専門的な視点から意見を出し合います。
たとえば、以前は手術が難しいとされた進行がんでも、免疫チェックポイント阻害薬が効果を発揮し、手術が可能になることもあります。このような治療も、腫瘍内科と緊密に連携しているからこそ実現できるのです。また、術後に再発した場合でも、放射線治療科と協力して治療にあたるなど、あらゆる状況で科を越えたコミュニケーションを大切にしています。患者さんにとってよりよい治療を共に考え、方針を決めていくことができるのが私たちの強みです。

解説医師プロフィール

前立腺がんの治療

初期症状が少ないがん――早期発見のため検診の受診を

初期症状が少ないがん――早期発見のため検診の受診を

写真:PIXTA

前立腺がんは多くが前立腺の外側に発生するため、排尿症状や血尿といった自覚症状は進行してからでないと現れにくいです。ですので、症状がない段階でも検診などでPSA検査を受けることが早期発見の鍵となります。がんが前立腺内にとどまっている“限局がん”の段階で発見することができれば、手術や放射線治療といった根治性の高い治療の適応になります。検診でPSA値の異常を指摘された場合は、速やかに泌尿器科を受診し、精密検査を受けていただくことが非常に重要です。

体の負担が少ないロボット支援下手術が第一選択に

体の負担が少ないロボット支援下手術が第一選択に

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前立腺がんの手術について、当院では現在、手術支援ロボット“ダヴィンチ”を使用した手術を第一選択として実施しています。ロボット支援下手術は、お腹に穴を開け、医師が遠隔でロボットアームを操作して行います。開腹手術と比較した場合の利点として、出血量が少ないことや傷が小さく術後の回復が早いことがあります。
また、腹腔鏡下手術と比較した利点として、ダヴィンチはズームアップした立体的な視野で手術ができるため、より精密な操作が可能です。これにより、がんの切除精度が向上するだけでなく、術後の尿失禁といった合併症のリスクを低減させることにもつながります。
当院の泌尿器科には5名の医師が在籍しており、全員がロボット手術の認定資格*を取得しています(2025年9月時点)。手術件数を積み重ねていき、チームとして質の高い医療を提供できる体制を目指しています。

体の負担が少ないロボット支援下手術が第一選択に

もちろん放射線治療など手術以外の治療も柔軟に対応しています。進行がんに対するホルモン療法については標準的な治療から、複数の薬剤を組み合わせた治療まで幅広く行っています。このように早期がんから進行がんまで、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせた治療を提供できるのが当院の特徴です。
さらに当院は迅速な院内連携も強みとしています。検査から治療まで、患者さんをお待たせすることなく、迅速に進めていくよう努めています。これは医師だけでなく、検査部門や手術室といった各部署のスタッフ同士が、うまく連携することで実現しています。特に緊急性が高い患者さんは、予定を調整して迅速に対応いたします。予約が取りにくい、検査まで時間がかかるといったご心配はなさらず、安心してご来院ください。排尿症状や健診での異常など、何か気になることがあれば、どうぞ気兼ねなくご相談いただければと思います。

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インテュイティブサージカル合同会社が認定する“da Vinci Surgical System コンソールサージャン・サーティフィケート”
解説医師プロフィール

大腸がんの治療

早期発見で根治が望めるがん――少しの体調の変化を見逃さず検査受診を

早期発見で根治が望めるがん――少しの体調の変化を見逃さず検査受診を

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大腸がんは早期発見することによって根治が望めるがんですので、早期に見つけてなるべく早く治療を開始することが大切です。まずは便潜血検査を含む検診を定期的に受けていただき、1回でも陽性反応が出た方は大腸内視鏡検査を受けていただくことが、ご自身の体を守る第一歩となります。特に“便に血が混じる”“便が細くなった”などの症状がある方は早めの受診が必要です。また、当院では内視鏡検査に抵抗がある方にも安心して検査を受けていただけるよう、鎮静薬を用いた苦痛の少ない内視鏡検査を行っています。また、女性医師による検査も対応可能です。検査に苦しいというイメージをお持ちの方も、ぜひ受診いただければと思います。大腸がんは早期に発見できれば決して怖いがんではありません。まずは少しの勇気をもって検査を受けていただければと思います。

ロボット支援による繊細な手術で体への負担を軽減

粘膜内にとどまっている早期のがんに対しては、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)という治療が可能です。内視鏡先端の電気メスで病変部分を切除するので手術と違い、お腹に傷をつけることがないほか、消化管の機能を損なうことが少ないことも特徴です。
当院では手術が必要になった場合でも、できるだけ患者さんの体への負担が少ない治療を心がけており、低侵襲ていしんしゅうな腹腔鏡下手術とロボット支援下手術を積極的に行っています。手術支援ロボット“ダヴィンチ”による手術は、特に直腸がんの場合に有用です。多関節機能や手ぶれ防止機能により、繊細な操作が可能となることで、骨盤内の深い場所でも神経を温存しながら取り残しのないがん切除を目指せます。

ロボット支援による繊細な手術で体への負担を軽減

写真:PIXTA

また、結腸がんに関しては、ダヴィンチを導入したことで腸管の吻合(つなぐこと)を体内で行うことが容易になりました。体の外で吻合するよりも傷が小さく済むので、術後の痛みや体への負担軽減が期待できます。当院の外科はスタッフ医師全員がロボット手術の認定資格*を取得しています(2025年11月時点)。手術件数を積み重ねていき、チームとして質の高い医療を提供できる体制を目指しています。
当院では人工肛門じんこうこうもん(ストーマ)を造設することになった患者さんに対しても、安心して生活を送っていただけるように“ストーマ外来”を開設しています。皮膚・排泄ケア認定看護師**が、ストーマの管理やケアに関する相談に丁寧に対応し、手術後の生活をしっかりと支えます。
他の臓器に転移がある大腸がんに対しても、私たちは決して諦めず、全力を尽くします。腫瘍内科と連携し、まずは抗がん薬治療で転移のコントロールを目指し、手術が可能になった段階でがんを切除するという“集学的治療”を積極的に行っています。このような治療方針は、週に一度のカンファレンスで、さまざまな科の専門家が集まり、患者さん一人ひとりにとって何がよりよい方法かを話し合うことで決定しています。
不安な症状があれば、決して1人で悩まずにご相談ください。私たちが、診断から治療、そしてその後の生活まで、患者さんに寄り添いながらサポートさせていただきます。

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インテュイティブサージカル合同会社が認定する“da Vinci Surgical System コンソールサージャン・サーティフィケート”
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皮膚・排泄ケア認定看護師:日本看護協会が認定
解説医師プロフィール
  • 公開日:2025年12月25日
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