三島医療圏・豊能医療圏の
がん医療
大阪府のなかでも医療提供体制が
充実している三島・豊能医療圏
大阪府の三島医療圏(高槻市、茨木市、摂津市、島本町)は約76万人、豊能医療圏(豊中市、池田市、吹田市、箕面市、豊能町、能勢町)は約105万人が暮らす地域です(2020年統計)。どちらの地域も日本全体と同様に今後人口減少が進むと見込まれていますが、住民の高齢化に伴い、がん患者さんの数は増えていく見通しです。
がん治療の3本柱は手術、薬物療法、放射線治療であり、そのうち放射線治療は体への負担が少なく、がんの種類などによっては手術と同等の効果が期待できます。大阪府は全国的にみても放射線治療の充実度が高く、放射線治療を専門とする医師も多くいます。大阪府内の中でも特に三島医療圏・豊能医療圏は医療体制が充実しているとされており、がん治療や放射線治療の体制はある程度整っている地域といえるでしょう。高齢化が進むなか、同地域は引き続き医療提供体制の維持に努めていくことが求められます。
三島医療圏のがん医療を支える
彩都友紘会病院
“なるべく切らないがん治療”に注力
彩都友紘会病院は、2007年にがん治療に重点を置く病院として開設されました。特に、放射線治療や薬物療法、ハイパーサーミア(温熱療法)などの“切らないがん治療”を積極的に行っています。2024年現在、当院の放射線科では2台の放射線治療装置を備えており、患者さん一人ひとりに合わせて使い分けています。2024年3月には“関西放射線治療センター”を設置し、放射線治療専門医*に外来で相談ができる“放射線治療相談外来**”を設置しました。「がんと診断されたが手術以外の方法はないか」「放射線治療の方法や副作用について詳しく知りたい」など、どのようなご相談も受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
彩都友紘会病院で行う
前立腺がん・食道がん・肺がん・
肝臓がんの放射線治療
前立腺がんの根治的放射線治療
患者さんの希望や人生観を考慮しながらよりよい治療法を一緒に考える
近年の医療の進歩により、早期の前立腺がんであれば放射線治療で根治が目指せるようになりました。前立腺がんの根治治療は放射線治療のほかに外科手術があり、両者の治療成績はほぼ同等であるとされています。医学的な観点のみでは治療法の選択が難しいケースが多いため、当院では患者さんご自身の希望や人生観、ライフスタイルなどを重要な判断基準とし、患者さんと対話しながら治療方針を決定しています。たとえば、体にメスを入れたくない方にとっては放射線治療が適していると思いますし、短期間でがんを取り除きたいなら外科手術を選んだほうが希望に沿った治療になるでしょう。
また、放射線治療と外科手術では起こり得るリスクが異なります。外科手術では性機能にかかわる神経を傷つけてしまうリスクがあったり、放射線治療では膀胱炎や血便などの副作用が生じたりすることがあります。リスクについてしっかりとご説明するのはもちろん、疑問や不安が解消できるまでご説明しますので、ご自身が納得できる治療法を一緒に選んでいきましょう。
痛みを伴う処置を行わずに副作用の低減を図る
前立腺がんの放射線治療では、副作用低減を図るために“ハイドロゲル”という物質を前立腺と直腸の間に注入して、放射線から直腸や膀胱を保護する処置を行うことがあります。副作用の低減に有用な処置ではありますが、全身麻酔または腰椎麻酔をかけたうえで、肛門と陰嚢の間の会陰部から穿刺(針を刺すこと)して行うため、痛みなどの身体的な負担がかかります。まれでありますが、穿刺時に出血や感染が生じることもあります。放射線治療は“痛くない”ことがせっかくの大きなメリットですので、痛みを伴う処置はなるべくしたくないという思いで、当院ではハイドロゲルによる処置は行っていません。
その代わり、当院では治療前に正確なシミュレーションを行い、その再現性を高めることで副作用の低減に努めています。治療前のシミュレーションでは、CT・MRI検査に基づき、直腸・膀胱といった周辺臓器に当たる放射線量が許容範囲にとどまるよう綿密な計算を行います。ただし、直腸・膀胱は便や尿によって膨らむため、治療当日もシミュレーション時と同じ状態になるとは限りません。そこで当院では、食事の時間や飲水量を細かく調整するなどして患者さんの状態がシミュレーション時と可能な限り同じになるように調整しています。再現性が不十分な場合には、少し時間を置いたり、水を飲んでいただいたりなどしてさらに微調整を図ります。
痛みを伴う処置は必要とならないものの、こうした微調整を行うには患者さんのご協力が必要となります。やや大変な思いをさせてしまうかもしれませんが、少しでも気持ちよく治療を受けていただけるように精一杯努めますので、私たちと一緒に頑張っていただければと思います。
前立腺がんの放射線治療を希望するならぜひ相談を
前立腺がんは、早期に発見して治療を行えば十分に治る可能性のあるがんです。先に述べたとおり、放射線治療が適応となる前立腺がんであれば、手術と同等の治療効果が得られるケースが多いため、ご希望などに応じて治療法を選択することとなります。そうとはいえ、決断には大きな不安が伴うと思いますので、そのような時にはぜひ私たちを頼ってください。お話を聞いていただくだけでも構いませんので、ぜひ放射線治療相談外来までお問い合わせください。
食道がんの放射線治療
がんを集中的に照射するIMRTを実施
早期の食道がんであれば、内視鏡治療や外科手術、放射線治療で根治を目指すことが可能です。また、手術前にがんを小さくする必要がある場合や、手術をしたものの再発し、もう一度手術を行うのが難しい場合には、薬物療法と組み合わせて放射線治療を行うこともあります。基本的には他の治療と併用する形で放射線治療を行いますが、高齢であったり持病があったりなどして、手術や抗がん薬に耐え得るだけの体力がない方に対しては、放射線治療単独での治療を行うこともあります。
当院では、食道がんへの放射線治療に“強度変調放射線治療(IMRT)”という方法を用いています。IMRTとは、放射線に強弱をつけることで周辺の正常組織への照射を抑えながら、がんに対して集中的に照射できる方法です。食道の周りには肺や心臓、脊髄といった重要な臓器や神経が存在します。これらに放射線の影響が及ぶと、肺炎や心膜炎、心のう水貯留、足のしびれ・麻痺などの副作用が起こり得るため、これらをいかに防ぐかが重要です。当院ではIMRTの技術を駆使しながら、正常臓器にできるだけ影響が及ばないように治療を行っています。
再発の場合も諦めずに治療法を検討
一昔前までは放射線治療後の再照射は難しいと考えられていましたが、最近ではIMRTなどの技術が登場し、照射精度が向上したことで再照射できるケースが増えてきています。当院でも再照射によって治療効果が期待できると判断した場合には、患者さんの状態やご希望に応じて、再照射を積極的に検討しています。その際は、前回の放射線治療時の線量分布図と今回(再照射前)のシミュレーションの線量分布図を重ね合わせて計算するなどして、正常臓器への照射が最小限になるようにしています。
当院には食道がんの術後に再発し、治療の相談に来院される方が多くいらっしゃいます。食道がんの術後は一度に食べられる量が制限されるなど、大変な思いをしている患者さんが多くいらっしゃいます。そのなかで食道がんが再発した場合、余計に気持ちが落ち込んでしまうのは当然だと思います。しかし、再発した食道がんであっても放射線治療ができる可能性があります。もし治療法に悩まれている場合には、ぜひ当院を受診ください。決して諦めることなく、一人ひとりの方に適した治療法を一緒に考えてまいります。再発した場合でも希望を捨てずにまずはご相談ください。
肺がんの放射線治療
早期の肺がんなら放射線治療で根治が目指せる
早期肺がんにおける治療は手術が第一選択ですが、年齢や全身の状態などの理由で手術ができない、あるいは手術を希望されない場合には放射線治療で根治を目指すことが可能です。進行した肺がんでは、がんの進行抑制や症状緩和などを目的として薬物療法と組み合わせながら放射線治療を行うこともあります。当院では、“定位放射線治療(STI)”という方法で肺がんの放射線治療を行っています。これはがんに対して高線量の放射線を集中的に照射する方法で、“ピンポイント照射”とも呼ばれています。
肺は呼吸と連動して大きく動くため、肺がんをピンポイントに狙い撃つために当院ではさまざまな工夫を行っています。CT検査では、肺が動いて画像がぼやけないように呼吸を止めていただくことが多いですが、当院では放射線治療の治療計画を立てる際に行うCTでは、がんや周りの臓器の動きを治療計画に反映させるため、あえて呼吸を止めずにCTを行います。さらに、深く息を吸った状態で止めた画像と、吐いた状態で止めた画像も別々に撮影します。これらの画像をコンピューターで解析して呼吸中のがんの動きをシミュレーションし、がんの動く範囲を狙って放射線を照射しています。
肺の周囲にある正常な組織は放射線による影響を受けやすいため、副作用への対策も念入りに行っています。たとえば、肺の中でも特に副作用の出やすい位置にがんがある場合には、1回に照射する放射線の量を減らして、その分回数を増やします。さらに、多方向から放射線の強弱をつけて照射する“強度変調放射線治療(IMRT)”や、呼吸のタイミングに合わせて照射する“呼吸同期照射”といった方法も用いることで、肺の正常な組織に照射される放射線の量を抑えています。
早期肺がんで手術ができない・手術を希望しない場合はぜひご相談を
早期肺がんの治療の第一選択は手術ですが、放射線治療でも根治が目指せるようになってきています。早期に発見できれば治療の選択肢が広がりますので、健診(検診)を欠かさずに受けていただきたいと思います。また、肺がんと指摘されて治療法に悩んでいる方はぜひ当院までご相談ください。
肝臓がんの放射線治療
手術やカテーテル治療が難しい肝臓がんにも適応可能な放射線治療
肝臓がんの治療には、手術、カテーテル治療(肝動脈化学塞栓療法)、ラジオ波焼灼療法、薬物療法、放射線治療といった選択肢があります。これらの中から、がんの進行度や位置、大きさ、肝臓や全身の状態などさまざまな条件から治療法を検討していきます。早期の肝臓がんでは手術やカテーテル治療が標準治療となりますが、何らかの理由でこれらの治療が難しい場合には放射線治療が適応となります。たとえば、肝硬変が進行していると、手術で肝臓を切除してしまうと肝機能が維持できなくなります。また、がんの位置によっては、体の外から肝臓に針を刺して行うラジオ波焼灼療法を行う際に、針を刺す経路に肺などの臓器が入ってしまうケースがあります。このように標準治療では安全性が担保できないと判断した場合に、放射線治療という治療の選択肢をご提示できる可能性があるのです。
強度変調放射線治療(IMRT)なども活用し副作用リスクの低減に努める
肝臓は放射線による影響を受けやすい臓器です。そのため放射線治療の効果が期待できると同時に、正常な組織・細胞にも影響が及びやすく、副作用にはいっそうの留意が必要です。また、がんの位置によっては肺や消化管など肝臓の周りの臓器にも副作用が生じます。副作用を低減させるには、正常な組織にできるだけ放射線が当たらないよう、治療前の精密なシミュレーションが欠かせません。呼吸の影響によるがんの位置の動きを加味することも重要です。当院では 高線量の放射線を集中的に照射する“定位放射線治療(STI)”を用いながら、放射線に強弱をつけて照射する“強度変調放射線治療(IMRT)”を活用することで、副作用の低減に努めています。また、1回あたりの放射線量を減らしてその分治療回数を増やすこともあります。呼吸によるがんの動きが大きい場合には、呼吸に合わせてがんが一定の範囲に入ったときだけ放射線を照射する“呼吸同期照射”という方法を用います。
また、肝臓に隣接している胃や十二指腸などの消化管は食事によって位置が動いたり大きさが変わったりします。そのため当院では食後3時間以上経ってから放射線治療を行い、消化器の位置や大きさがシミュレーション時とできるだけ変わらないように工夫しています。
患者さんとともに、諦めず前向きに治療を続けていきたい
肝臓がんは肝硬変がベースになっていることが多く再発しやすいことから、治療に根気のいるがんです。気落ちしてしまうこともあるかもしれませんが、1回1回の治療に対して力を尽くし、それを繰り返して少しずつ制御していくことが重要です。肝臓がんにはさまざまな治療法があり、現在では肝臓がんのリスクとなるB型肝炎やC型肝炎を治す方法も普及しています。私たちも患者さんにとってよりよい治療方法を考えてまいりますので、ぜひ諦めずに一緒に治療を続けましょう。
- 公開日:2024年8月27日