堺市の医療
連携体制の構築し、救急から慢性期までの循環器疾患の診療を担う
堺市では、医療機関や消防局が密接に連携することにより、緊急性を要する患者さんを速やかに救急搬送できる体制が整っています。2013年1月には大阪府において救急搬送データを収集し分析するORIONというシステムの運用が開始されました。ORIONの導入によって、患者さんの緊急度に応じて適切に搬送先を選定できる仕組みづくりが行われています。医師や救命救急士などが集まる症例検討会が定期的に開催されており、患者さんを適切に搬送し、適切な治療提供につなげられたかを検証し話し合っています。
また、緊急性の高いものから長期治療が必要な循環器疾患に対応するために、地域の医療機関が連携・分担しながら地域の患者さんを支えています。今後、堺市では循環器疾患の患者さんの生活の質の向上や再発予防などにつながる心臓リハビリテーションに注力していく方針です。
堺市の医療を支える
ベルランド総合病院
“待たせない・断らない医療”を目指した受け入れ体制
当院のモットーは“待たせない・断らない医療”です。私が当院の循環器内科部長として着任して13年、院長に就任してからは4年になりますが、このモットーを実践すべく、多くのスタッフが尽力して日々の診療に努めています。特に循環器疾患は、受診が1日遅れるだけで容体が急変することも多くあります。そのため、緊急度に応じて循環器内科や救病救命部、総合内科などの診療科が連携して迅速に対応しています。地域のクリニックからのハートコール(当院と地域の循環器クリニックの医師との直通電話)の体制も整っています。
緊急を要する循環器疾患は命に関わることがあります。胸の痛みや動悸、めまいといった症状が急に現れた場合など、気になる症状が出た際には一度当院にご相談ください。
片岡 亨 先生のインタビュー記事
ベルランド総合病院の
循環器診療
大動脈瘤の診療
“破裂を防ぐこと”が治療の目標
大動脈瘤(大動脈という動脈がこぶのように膨らんだ状態)は、早期にはほとんどの場合で症状がありません。しかし、こぶが大きくなり破裂すると命に関わるため、定期的に健康診断や人間ドックを受け、早期発見につなげることが重要です。
大動脈瘤の治療目標は“破裂を防ぐこと”です。大動脈瘤の大きさや状態によっては必要としない場合もありますが、根治するための治療は手術となります。手術方法には、“人工血管置換術”と、“ステントグラフト内挿術”があります。“人工血管置換術”は開胸して大動脈瘤を切除し、人工血管に置き換える手術です。動脈瘤を切除するため基本的に再発することはありませんが、胸を大きく切開するため体への負担が大きく、高齢の方や基礎疾患がある方にはリスクの高い手術となります。“ステントグラフト内挿術”はカテーテルという細い管を用いてステントグラフトという人工血管を大動脈瘤の中に留置する治療です。脚の付け根を小さく切開する以外に傷ができないため、体の負担が少なく済み、早期回復が見込めます。人工血管置換術が難しい患者さんにはメリットが大きい治療といえますが、大動脈瘤を残すことになるため、長期的な治療成績を踏まえてどの治療がよいかを判断することが重要となります。当院では人工血管置換術とステントグラフト内挿術を組み合わせたハイブリッド治療にも対応しており、どちらかの手術だけでは治療が難しい患者さんへの治療のご提供も可能です。よりよい治療を選択していただけるよう、メリットと注意点を丁寧にご説明させていただきます。
大動脈瘤センターを開設し、チームで患者さんをサポート
当院では2022年10月に大動脈瘤センターを開設し、心臓血管外科と循環器内科が連携して治療にあたっています。また、心臓血管学会専門医認定機構認定の腹部と胸部の大動脈瘤に対する指導医が在籍しており、安全にステントグラフト内挿術が実施できる体制が整備されていることも強みです。研鑽を重ねる医師や看護師など多くのスタッフが関わり、チーム力を発揮して治療にあたっています。また術後は患者さんに少しでも早期回復していただけるよう、看護師や管理栄養士、リハビリテーションのスタッフなどが連携して対応しています。特に高齢の患者さんはいかに早期離床・早期退院を目指せるかが大切になりますので、多職種のスタッフが情報を共有しながらきめ細やかにサポートしています。
大動脈瘤があるかもしれないと言われた方の中には治療に対して恐怖心があり、どうしても前向きになれない方も少なくないでしょう。しかし大動脈瘤は破裂してしまうと命にかかわることがありますから、適切なタイミングで治療を受けることが非常に大切です。当院は個々の患者さんに適切な治療の提供はもちろん術後のサポート体制も整っていますので、一度ご相談にいらしていただければと思います。
大動脈弁狭窄症の診療
多職種によるハートチームが連携して治療にあたる
大動脈弁狭窄症は、大動脈の根元にある弁(大動脈弁)の開放が障害されて狭くなった状態をいいます。軽症の場合は内服薬で経過観察を行う場合もありますが、“大動脈弁置換術”という外科手術が治療の基本となります。大動脈弁を取り除いて人工弁に交換する方法ですが、胸を切開して一時的に心臓を止める必要があるため体への負担が大きく、高齢の方や合併症のある患者さんにはリスクが高い手術となります。そのため当院では大動脈弁置換術が難しい患者さんには、TAVI(TAVR)(経カテーテル大動脈弁留置術)という治療をご提案しています。TAVI(TAVR)とは、主に足の血管からカテーテルという細い管を挿入して人工弁に交換する方法です。開胸手術と比べて体への負担が少ない点がメリットです。手術後翌日から歩行訓練ができ、高齢の方のADL(日常生活を送るために必要な動作)を落とさずに済みます。
当院は循環器内科医や心臓血管外科医、看護師、医療機器を扱う専門職である臨床工学技士、麻酔科医*などの多職種からなる“ハートチーム”が一丸となり、日々の患者さんの診療にあたっています。特にTAVI(TAVR)の実施にあたっては多くのスタッフが緊密にコミュニケーションを取り、それぞれの専門性を発揮しています。また、治療方針の検討時からリハビリテーションのスタッフが関わっていることも当院の強みです。年齢や状態、治療後のADLなどを考慮し、一人ひとりの患者さんにとってよりよい治療の提供に努めています。
早期発見・早期治療のために超音波検査を受けてほしい
大動脈弁狭窄症は早期から中等症までは無症状であることも少なくなく、自覚症状がなく日常生活を送れている方もいます。徐々に進行していくことが多いため、年齢のせいだと思いそのままにしてしまう方も少なくありません。しかし「最近、歩くのが遅くなった」「休憩しながらでないと家事を続けるのがつらい」などと感じられたら、病気を疑って心臓の超音波検査を受けることをおすすめします。健康診断などで心臓の雑音を指摘された方は特に、そのまま放置せずに精密検査を受けましょう。重症の大動脈弁狭窄症になると、治療を行ったとしてもその後の日常生活に支障をきたしてしまうことも少なくありません。当院では15分程度で心臓の超音波検査ができますので、心配な症状がある方は一度検査を受けていただきたいと思います。
狭心症・末梢動脈疾患の診療
血管の状態を詳細に把握し、安全な治療につなげる
狭心症とは、心臓の冠動脈という血管が狭くなり、血流が低下している状態を指します。息切れや動悸、胸の違和感といった症状があると感じたらなるべく早く受診いただき、適切な治療を受けていただきたいと思います。
血管が狭くなる主な原因は動脈硬化です。動脈硬化は全身の病気ですので、心臓の動脈硬化がある場合には末梢動脈疾患(動脈硬化によって足の血流が悪化する病気)を合併しているケースも少なくありません。そのため当院では、狭心症の患者さんに対して丁寧に検査を行い、全身の動脈硬化の有無を調べることで適切な治療につなげています。また狭心症が疑われる場合、まず心臓カテーテル検査を実施する医療機関も多くありますが、当院ではFFRCT検査を実施しています。この検査では、まず冠動脈CTという造影剤を使った画像検査を行います。このCT画像をコンピューターで解析することで、冠動脈の狭窄(狭くなること)と血流を評価します。体に針を刺す必要がないため、非侵襲的(痛みを伴わない)かつ、より安全性の高い治療を目指すことができています。
再発防止につながるカテーテル治療を目指す
狭心症ならびに末梢動脈疾患の治療の基本は、生活習慣の見直しと薬物療法です。病気の原因となる動脈硬化の改善を目指します。それでも血流の改善がみられない狭心症の患者さんには心臓カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術:PCI)を検討します。末梢動脈疾患についても同様に、基本的な治療では症状が改善しない場合や足の傷の治りが遅い場合にはカテーテル治療(経皮的血管形成術)や外科手術を行います。
当院はPCIを546件、経皮的血管形成術(下肢以外も含む)を175 件実施しています(2023年1〜12月実績)。治療を安全に提供すべくさまざまな取り組みを行っていますが、再発の防止にも力を入れています。なかでもカテーテル治療において“エキシマレーザー”を用いている点が強みです。血栓やプラーク(血管内に蓄積したコレステロールの塊)を除去することにより、新たな血管閉塞の発生防止に努めています。また末梢動脈疾患の典型的な症状には間欠性跛行(しばらく歩くと足の痛みや疲労感などが生じるが、少し休むと症状が和らぐ)があり、糖尿病の方や透析をしている方は下肢の血流障害が多くみられます。こうした併存疾患のある患者さんに対しては形成外科や内分泌・代謝科と緊密に連携を取り、必要に応じてフットケアなどを受けていただきながら治療を進めています。不安な症状や治療に関するお悩みがある方は一度当院にご相談ください。
不整脈の診療
息切れやだるさ、足のむくみなどの症状がある方は受診を
不整脈は心臓の脈拍が不規則になる状態を指し、脈拍が遅くなる場合(徐脈)と速くなる場合(頻脈)があります。全ての不整脈において治療が必要になるわけではありませんが、息切れやだるさ、足のむくみといった自覚症状がある・心不全(心機能が低下して全身に血液を送ることができない状態)を引き起こしているといった場合には、薬物療法以外の治療を積極的に検討する必要があると考えています。徐脈の症状がある方にはペースメーカー治療を、頻脈の一種である心室細動を起こしている方・起こす可能性が高い方には植え込み型除細動器(ICD)による治療を行います。また、頻脈の中でも心房細動や心房粗動、発作性上室性頻拍、心室頻拍などの場合はカテーテルアブレーション(足の付け根などからカテーテルを血管に挿入して心臓まで進め、不整脈を起こしている部分を焼く治療法)も提供しています。
当院は“左脚ペーシング”というペースメーカーの植え込みを行っている点が強みです。左脚ペーシングは本来の心臓の動きに近づけることで、従来のペースメーカーよりも心機能が低下しにくいというメリットがあります。
遠隔モニタリングシステムによる管理のほか、デバイスの抜去にも対応
当院は迅速かつ適切に患者さんをサポートすべく、複数の職種のスタッフが連携しています。特にペースメーカーやICDといったデバイスの植え込み術では臨床工学技士のサポートが不可欠です。当院には、日本不整脈心電学会が認定する植込み型心臓不整脈デバイス認定士の資格を有する臨床工学技士ならびに看護師が在籍しています。そして患者さんが自宅に戻られてからもデバイスの管理を行い、異常を検出した際には速やかに医師と連携する体制が整えられています(遠隔モニタリングシステム)。
なお、ペースメーカーやICDによって感染や合併症などが起こった場合にはデバイスを抜去する必要がありますが、当院ではデバイスの抜去にも対応しています。当院のみならず他院で手術された患者さんの抜去も行っておりますので、必要な場合はかかりつけ医を通してご相談いただければ幸いです。
不整脈があっても必ず治療が必要になるわけではありません。しかし、少しでも不安な症状や気になることがあれば、それらを解消するためにもかかりつけ医を通してご相談いただきたいと思います。治療選択に際しては患者さんの意思を尊重し、治療後の生活もサポートしてまいりますので、お悩みのある方はぜひ一度当院を受診ください。
- 公開日:2024年10月22日