減圧症(げんあつしょう)とは、スキューバダイビング後など水の中に潜った後で起こる病気であり、ときに生命の危険を及ぼす場合があります。非常に危険な病気であるため、一般の方も減圧症に関する知識を得ておくことが大切です。ハーバード大学医学部外科学講座研究員の近藤豊先生にお話し頂きました。
減圧症とは、スキューバダイビング後に発生する 「潜水病」のことを指します。「潜水病」は潜水に関わる病気と解釈され、その定義が曖昧であることから、医学的には減圧症という用語が通常使用されます。
ちなみに、減圧症は潜水中にしばしば発生する「動脈ガス塞栓症」と混同されがちですが、動脈ガス塞栓症は減圧症と発生機序が異なるため、別の疾患と考えられています。減圧症と動脈ガス塞栓症を併せて呼びたい場合には「減圧障害」という用語が使用されます。
減圧症の発症頻度は、レジャーダイバーが0.01~0.019%、職業ダイバーが0.095%、米国海軍の職業ダイバーが0.03%といわれています。(Vann RD, Butler FK, Mitchell SJ, Moon RE: Decompression illness. Lancet 2011; 377(9760): 153-164.より)
誤解している方も多いのですが、実は減圧症は潜水している最中ではなく、その多くが潜水終了直前や潜水後に起こります。
ダイビングを終えるため、海面に上がる・もしくは陸に上がろうとすると、体の周囲圧が下がります。このことによって、体内に蓄積された窒素が気泡として出現してしまいます。このような仕組みにより、減圧症が起こるのです。
窒素の気泡は主に血管内や関節内に形成されます。そのまま気泡が体内に残ってしまうと、関節痛、頭痛、全身倦怠感、めまい、吐き気などの症状が現れます。また重症の減圧症では痙攣や下半身の麻痺等を起こすこともあります。
一般の方は、主にレジャーでのスキューバダイビング後に罹患する可能性が高いでしょう。スキューバダイビングではタンク中の圧縮空気を吸うので、空気中の窒素が体内に蓄積されます。そのため、長時間の潜水は体内で窒素が大量蓄積される要因となります。
一方、通常の素潜りでは減圧症を起こすことはほとんどありません。一般の方の場合、素潜りで水深の深いところまで長時間潜るというケースはあまりないからです。しかしながら、素潜りの場合には、空気を肺に押し込めすぎると肺が過膨張し、肺胞破裂や気胸等を起こすことがあるので注意が必要となります。(これらは水深が浅いところでも発生します)
実際に私が治療した減圧症の患者さんには、軽症から重症まで様々な方がいらっしゃいます。
軽症例で多いのは「べンズ」と呼ばれる、四肢関節の痛みを主な症状とした減圧症です。ベンズで症状が軽快しない場合には高気圧酸素療法を実施します。
最重症例では体外式人工心肺装置を用いて治療したこともありますが、重症例では一般的に血圧が低下し、呼吸状態が悪くなります。
減圧症を発症しないための注意点としては、ダイビング前日や当日の飲酒を控えるということが挙げられます。私の経験上、飲酒の関係した症例ではより重症化する印象を持ちます。もし自分が「減圧症かもしれない」と感じたら速やかに医療機関を受診しましょう。
また、ダイビングの最中は体の負担になるような潜水を避け「適度に休憩を挟む」「水分を摂る」といったことを心がけてください。
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