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2018年診療報酬改定から地域医療構想を考える〜良質な医療構築に向けて

2018年診療報酬改定から地域医療構想を考える〜良質な医療構築に向けて
島 弘志 先生

社会医療法人雪の聖母会 聖マリア病院 常務理事、病院長

島 弘志 先生

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この記事の最終更新は2018年04月16日です。

日本では人口構造や疾病構造の変化に伴い、医療へのニーズが大きく変化しています。これを受けて、各病院は自分たちが提供する医療の方向性について真剣に向き合わなくてはならない局面を迎えています。

本記事では、中央社会保険医療協議会(中医協)の委員を務める、一般社団法人日本病院会副会長 島弘志先生(聖マリア病院院長)に、2018年度診療報酬改定や地域医療構想の観点から、病院のあるべき姿やこれからの日本の医療についてお話を伺いました。

高齢化が急速に進む日本では、2025年に団塊の世代(1947〜1949年頃のベビーブームに生まれた世代)が75歳を超え、さらなる高齢化社会を迎えようとしています。

それと同時に、病院に求められる医療も大きく変化すると予想されます。たとえば、急性期の医療よりも、高齢者を中心とした回復期や慢性期の医療に対するニーズが高まることなどです。

これを受け、2018年度の診療報酬改定は、ニーズに合わせて医療の方向性を少しずつ変えていくことに主点を置いた内容になっています。特に7対1入院基本料と10対1入院基本料が「急性期一般入院料(1〜7)」に再編・統合(注)されたことは、これからの入院医療制度の変化を表したものとなりました。つまり、これからは7対1の看護配置が今ほど必要ではなくなってくることが示唆されています。

改定後の急性期一般入院料にも7対1の看護配置による算定基準は残っています。しかし、将来的には看護配置や患者さんの重症度ではなく、多職種協働のチーム医療が実現できているかなどで入院基本料を評価する仕組みを作る必要があるでしょう。

確かに医師や看護師がいないと医療はできませんが、より質の高い医療を提供するためには、薬剤師や管理栄養士、リハビリスタッフなど、それぞれの専門職が患者さんの社会復帰に向けて協働する必要があります。

2018年度診療報酬改定はあくまでも経過段階であり、これから変化する医療ニーズに合わせてさらに医療をあるべき姿に近づけていく必要があります。

(注)一般病棟入院基本料…患者さんに対する看護師の人数(看護配置)、また患者さんの重症度や必要とする医療・看護の内容(重症度、医療・看護必要度)などによって算定される入院基本料。7人(10人)の患者さんに対して1人の看護師が配置されることを7対1(10対1)とよぶ。
2018年度診療報酬改定では、名称変更や重症度、医療・看護必要度の見直しなどが行われた。

病院

将来的に医療をあるべき姿に変えていくためには、病院が本来果たすべき使命を意識し直すことが重要です。

病院がやるべきことは、まず地域住民に対して良質な医療を提供することです。そして、良質な医療を提供するためには、しっかりとした経営基盤があることが重要です。

つまり、これら2つが病院の使命であり両輪なのであって、アンバランスが生じると前進することができません。

どのような事業にもいえることですが、事業は継続して初めて社会貢献をすることができます。病院が地域住民に信頼され選ばれるような病院になるためには、「良質な医療提供」と「健全経営」という使命を忘れずに、努力を続ける必要があります。

病院がこのような使命を課せられているなかで、地域医療構想(注)は「変化する医療ニーズのなかで、それぞれの病院が今と同じ医療を提供し続けていたら、存続できなくなる可能性が高い」という、いわば警告ともいえるでしょう。

日本では、少子高齢化が進むにつれて疾病構造も大きく変化しており、高齢者特有の病気に対する医療ニーズが高まっています。また、総人口の減少に伴って、今ほどの医療のボリュームが必要ではなくなっていると考えられ、実際に全国の病床数は年々減ってきています。

さらには、平均在院日数(入院患者さんの平均の入院期間)が全国的にどんどん短くなっています。これは、効率的な医療ができている証拠でもあるのですが、人口が減少傾向にあるなかで平均在院日数が短くなると、当然病床利用率は低下してしまいます。すると、最終的には使われないベッドが増え(空床化現象)、病院の経営は非常に厳しい状態に陥る可能性もあります。

このような厳しい状況のなかで各病院が生き残るためには、地域医療構想にきちんと向き合わなければなりません。地域で常に話し合いの場を形成し「自分たちの地域には、この機能を持った病床がこれだけ必要だ」ということを議論し続け、各病院はそれに対応する必要があるでしょう。

(注)地域医療構想…高齢化がピークを迎える2025年に向けて、病床の機能分化を進めるために、各都道府県が医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)ごとに2025年の医療需要と必要病床数を予測し、定めるもの。

ただし、地域医療構想は二次医療圏(一般的な診療から入院治療までをカバーする区域)にある病院での話し合いを基本としていることから、なかなか議論がまとまりにくいとも考えています。というのも、必ずしも地域住民が二次医療圏のなかで医療を受けているわけではなく、二次医療圏を超えて医療を受ける方が多い現状があるためです。

ですから、本来はこのような現状も加味して地域医療構想を行うことが理想的です。しかし、医療体制を構築するためには、何らかをベースとしなければならないという問題もあります。そのため、今は二次医療圏単位で、できることからしっかりと議論していくことが大切であると考えます。

会議

地域医療構想の実現は容易ではありません。病院としての使命を果たし存続させるための努力、周囲の病院との調和、二次医療圏で話し合う難しさなど、クリアしなくてはいけない多くの命題があります。そのなかでも、地域医療構想を実現するためには、いくつかのことを念頭に置いておく必要があると考えています。

まずは、それぞれの病院が環境の変化に柔軟に対応できる組織であることです。

もともと急性期医療に力を注いできた病院でも、それが地域のニーズに見合わない場合には回復期や慢性期医療に転換せざるを得ないこともあるでしょう。

また、地域医療構想は、将来の人口構造や疾病構造のシミュレーションをもとに医療体制を整備していきますが、シミュレーションは単なる予測であって実際には大きく変わる可能性があります。たとえば、地域に大きな企業が誘致されて人口が急激に増えるかもしれませんし、あるいは大規模災害が起きて多くの人命を失うことにもなるかもしれません。

そのため、地域医療構想は情勢の変化に合わせて都度修正しながら行っていく必要があります。そして、各病院はそれに合わせて病床数の変更や病床機能の転換など、柔軟に対応していくことが大切です。

また、地域内に同じような病床機能を持つ病院があれば、それぞれで差別化した部分を持つことも重要です。たとえば、同じ急性期機能であっても、A病院は小児科、B病院は整形外科というように、得意分野の治療の振り分けを行うことです。

私が病院長を務める聖マリア病院がある久留米地域でも、各病院の診療実績データをもとに、病院ごとに診療科の住み分けを行う試みを始めています。

これから先、特に人口減少が進む地域では、同じ機能を持つ病院は2つと必要なくなってくるでしょう。地域住民に良質な医療を届けるためにも、そして病院が生き残り続けるためにも、地域のなかで診療科の集中と選択を進めていくことが重要です。

地域医療構想は、高齢化社会がピークを迎える2025年を想定して医療体制を構築していくものですが、私はその5年先、10年先も見据えるべきであると考えています。

2025年を目指して地域が協力した結果、2025年にジャストフィットした医療体制ができたとしても、その先の2030年にはおそらくまた違う課題が出てくることでしょう。

つまり、地域医療構想は医療が存続する限り、私たちに突きつけられ続ける命題なのです。ですから、地域の病院や介護施設、行政などが話し合いを継続していくことは非常に重要なことです。

島先生

現代の日本の医療は地域医療構想だけでなく、医師の地域偏在や診療科の偏在など、解決すべき多くの課題を抱えています。これらをすべて含めて、それぞれの病院は提供するべき医療のあり方と経営について考えなくてはならない時代に突入してきています。

2018年度の診療報酬改定では、医療をあるべき姿に作り変えていくために中長期的な考えで制度を整えたものとなりました。2年後に控える2020年度の診療報酬改定でも、入院基本料に関する考え方や算定基準が大きな柱になるのではないかと考えています。また、医療のニーズの変化とともに、不必要なものは淘汰していくなど、合理的な診療報酬に改定していく必要があるでしょう。2020年度診療報酬改定に向けて、よりよい日本の医療を構築するために邁進していきたいと思っています。

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