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ロボット支援下仙骨腟固定術による子宮脱の治療――今後の課題と展望

ロボット支援下仙骨腟固定術による子宮脱の治療――今後の課題と展望
川村 尚子 先生

JAとりで総合医療センター 泌尿器科 部長

川村 尚子 先生

目次
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子宮脱の治療で行われる手術の1種に仙骨腟固定術があります。開腹、腹腔鏡下に加え、近年ではロボット支援下での手術も実施されるようになりました。JAとりで総合医療センターでは、主に茨城県内で手術を希望される子宮脱の患者さんに対し、外来診療やロボット支援下仙骨腟固定術を積極的に行っています。

今回は、同センター 泌尿器科 部長の川村 尚子(かわむら なおこ)先生に子宮脱におけるロボット支援下仙骨腟固定術の詳細と、子宮脱の治療のこれからについてお話を伺いました。

子宮脱のロボット支援下仙骨腟固定術は、基本的に年齢制限はありません。開腹手術を複数回受けていない方、かつ手術に耐えられる基礎体力がある方であれば、幅広い患者さんに対して適応となる手術法です。再発した症例に対しても適応可能ですし、当院では80歳を過ぎて手術を受けた方もいらっしゃいます。

これに対して適応とならないのは、緑内障の方や未破裂脳動脈瘤(みはれつのうどうみゃくりゅう)がある方です。ロボット支援下仙骨腟固定術は頭の位置を25度くらい下げた状態で手術を行うという特徴があるため、頭や脳に圧がかかって病気が悪化する可能性があります。

当院では、術前検査として内診や、お腹の中の状態を確認するためのCT、MRI撮影を行います。また、婦人科臓器に関わる治療のため、婦人科がんの可能性がないかを調べる検査を産婦人科に依頼しています。

加えて、排尿の頻度や膀胱の容量が手術の前後で変化がないことを確認するための排尿日記の記録をつけていただき、1日の排尿回数や1回の排尿量を調べます。排尿日記は可能な範囲で、外来で手術を相談されている期間内に1回お願いしています。

また、手術に向けた準備として、ペッサリー療法(子宮が落ちてこないよう腟にリング状の医療機器を装着する治療法)を行っている方は手術の2週間以上前に外していただきます。ペッサリーによって腟壁が荒れていることが多く、手術前に腟の状態を回復させるためです。

当院でロボット支援下仙骨腟固定術を行う場合、5~6日間程度の入院となります。手術時間はおよそ3~4時間かかることが見込まれます。

ただし、手術を行った後に腟だけ外に出てきてしまう“腟断端脱”が起こって再発した症例の再手術の場合は、お腹の中で癒着している部分を剥離(はくり)する時間が加わるため、手術時間が長くなる傾向があります。

子宮脱の治療には、産婦人科との連携が欠かせません。術前検査として婦人科がんのチェックを依頼しますし、一人ひとりの患者さんの状態に応じて、メッシュを使った手術のほうが適しているのか、または使わないほうがよいのかといった治療選択も、診療科をまたいで相談しています。泌尿器科医である私から「この方の治療ではメッシュを使わない手術のほうがよいので産婦人科で手術をご検討ください」と言うこともあれば、「メッシュを使った手術のほうが適しているので泌尿器科で手術をお願いします」と依頼を受けることもあります。

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写真:PIXTA

茨城県内にお住まいでこの手術を受けたいとお考えになり、ご近所の方に紹介されて当院を受診する患者さんもいらっしゃるので、この地域で子宮脱の治療に携われていることには意義があると思っています。

当院では、患者さんにはロボット支援下仙骨腟固定術だけでなく全ての手術法を説明して、それぞれの方法について予想される結果などをお話ししています。手術をしても再発する可能性があることも隠さずお伝えして、納得したうえで手術を受けていただくようにしています。

当院での治療をすすめるだけでなく、患者さんの希望する治療法によっては県外の他施設を紹介することもあります。手術は一生に何度もあることではないので、近場だけでなく県外にもさまざまな選択肢があると知っていただくこと、当院ではできないことを説明することも私たち医療者の役目だと考えています。色々な情報を知ったうえで、手術を受ける時期なども含めて納得いくまで考えてから治療を受けてほしいと思います。

子宮脱の治療は、手術をして終了ではありません。当院では、術後1か月程度は極端に重いものを持つこと、便秘のためにトイレにこもるなど腹圧がかかる行動を避けるようにお伝えしています。そのほかは普段どおりの日常生活を送って問題ありません。

また、仙骨腟固定術は従来の手術法よりも再発が少ないといわれていますが、再発する可能性はゼロではなく、再び子宮脱が起こる方はいらっしゃいます。術後に尿漏れが目立つようになる方もいます。これは骨盤内臓器脱によって元々あった尿漏れの症状が抑えられていた方が、子宮脱を治療したことで、隠れていた尿漏れが再び起こるようになるためです。特に重症の方は術後に尿漏れが酷くなることがあります。当院の場合、術後に尿漏れが起こってから半年経過しても改善しない患者さんには、尿漏れの手術を追加で行う場合もあります。

2020年の保険適用を機に、さまざまな施設がロボット支援下仙骨腟固定術を導入しました。今後もさらに多くの施設で実施可能になっていくでしょう。その分、これから経験を積んでいく段階の医師が手術を行う機会も増えることが予想されますが、手術を行う医師は“数年単位で術後の経過も含めてきちんと診る”という気持ちを持つべきだと考えています。

昔行われた膀胱がん大腸がんなどの手術で靱帯(じんたい)が傷つき、術後合併症として子宮脱が起こる場合もあります。手術の際に「周辺組織が多少傷ついたとしても、がんを治して命が助かることが最優先」という意識が医療者側にあったためかもしれません。しかし、命が助かることと日常生活に支障が出ることは別の問題ではないでしょうか。術後の患者さんの生活を考えた予防医学的な医療の考え方が、医師の共通認識としてもっと広まることが大切ではないかと思います。

また、子宮脱が起こっても「恥ずかしい」「何科にかかったらよいか分からない」と受診控えをして、なかなか病院にいらっしゃらない方が多い現状があります。そのような患者さんに子宮脱の情報を伝え、適切な受診につなげられるように誘導することも、医療者の役目ではないでしょうか。

子宮脱は命に関わる病気ではありません。顔にしわができるのと同じく、年齢を重ねて筋肉が緩んだために起こる現象であり、誰にでも起こる可能性があります。周囲の人にはなかなか相談しづらい病気なので、自分以外に同じ症状がみられる方を見つけることは難しいですが、恐らく患者さんが思っているよりも子宮脱になっている人は多いはずです。

「こんなことが起こったから相談したい」といった気持ちでも構いません。日常生活を快適に送るためにも、気軽に近隣の泌尿器科または産婦人科を受診していただきたいと思います。

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