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帯状疱疹後神経痛に対する治療の選択肢――自身で痛みをコントロールできる“脊髄刺激療法”とは

帯状疱疹後神経痛に対する治療の選択肢――自身で痛みをコントロールできる“脊髄刺激療法”とは
平松 利章 先生

医療法人ひらまつ病院 副理事長/中央手術部 部長

平松 利章 先生

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帯状疱疹(たいじょうほうしん)の後遺症としてもっとも頻度が高いものに、帯状疱疹後神経痛があります。痛みの程度には個人差がありますが、日常生活に支障が出るほどの症状が現れる場合もあります。今回は帯状疱疹後神経痛の概要と治療選択肢について、ひらまつ病院 麻酔科 中央手術部部長である平松 利章(ひらまつ としあき)先生(麻酔科標榜医)にお話を伺いました。

帯状疱疹による皮膚の症状が治ったにもかかわらず、継続的に続く痛みを帯状疱疹後神経痛といいます。帯状疱疹はウイルス感染によって発症し、皮膚や神経に炎症が起こります。炎症による神経の損傷が残り、痛みが生じるようになった状態が帯状疱疹後神経痛です。高齢の方や帯状疱疹の症状が重かった方などは、帯状疱疹後神経痛になりやすいといわれています。

痛みの感じ方には個人差があり、多彩です。特徴的なのは軽く触っただけでも刺激を感じるアロディニアと呼ばれる症状で、焼けるような痛み・締め付けるような痛み・ズキンズキンと(うず)くような痛みが現れ、日常生活に支障をきたすこともあります。

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イラスト:PIXTA

治療については鎮痛薬などの服用が基本となりますが、夜寝られなかったり、食事が取れなかったりするほど激しい痛みがある患者さんには神経ブロック注射を行うこともあります。神経ブロック注射とは、局所麻酔薬やステロイドなどにより痛みの伝達を遮断し、一定期間痛みを軽減することを目的として行う治療法です。

帯状疱疹後神経痛に特化した治療法は確立されておらず、あくまで生活に支障を来さない程度に痛みを緩和する治療を行います。

薬物療法やブロック注射を行っても残る痛みに対しては、脊髄刺激療法(せきずいしげきりょうほう)(SCS)という選択肢があります。海外では40年前から行われており、日本では1992年に保険適用となった治療法です。なお、服用している薬がある場合は相談が必要ですが、治療不可となるような特定の病気はありません。

私たちは皮膚など刺激を受けた部分で「痛い」と感じているのではなく、受けた刺激は電気信号として末梢神経(まっしょうしんけい)から脊髄(背骨の中を通る太い神経)を通り、脳に届くという経路をたどっています。脊髄刺激療法とは、この痛みが伝わる経路に微弱な電流を流して痛みが伝わりにくくする治療法です。

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脊髄刺激療法のイメージ(本植え込みをした場合)

脊髄刺激療法では、硬膜外腔(こうまくがいくう)(脊髄を覆う硬膜の外側にあるスペース)に、背中からリードという導線を挿入します。加えて、お尻や腰など目立たない部分にジェネレーターという小さな刺激装置を植え込んでリードと接続し、電気刺激を送ります。

リードを挿入する際に医師が電気刺激の流れ方や強さを調節しますが、お渡しするコントローラーを使えば患者さんご自身で簡単に調節することが可能です。痛みが強いときは電気刺激を強めにしたり、使用しない場合は電源を切ったりすることもできます。なお、電気刺激と聞くと痛い治療を想像される方もいるかもしれませんが、流すのは弱い電流であり、「“トントン”と軽くマッサージをされているような感覚*」とおっしゃる患者さんが多いです。

*感じ方には個人差があります。

脊髄刺激療法では、効果を見極めるためのトライアル期間が設けられています。トライアルではリードのみを挿入し、電気刺激は体外から与えます。トライアルを行って痛みの軽減が実感できた場合は、ジェネレーターの植え込み(本植え込み)へと進むのが基本的な流れです。

なお、帯状疱疹後神経痛の患者さんは、発症して早い段階で対応できればトライアルの刺激のみで痛みが軽減する場合もあります。電気刺激をせずとも痛みが和らいでいる状態が続く場合は、トライアルのみで治療は終了し、リードを抜去します。*

*リードの抜去後に痛みが再び現れる可能性もあり、その場合は本植え込みを実施することになります。

薬物療法の場合、薬の効果が切れると再び痛みを感じますが、脊髄刺激療法(本植え込みを行った場合)ではリードとジェネレーターを埋め込んでいる限り、痛みを和らげる効果が持続します。基本的に薬物療法のように数時間で効果が切れるようなことはありません。

脊髄刺激療法は、患者さん自ら痛みのコントロールができるのが特徴です。実際の痛みやつらさは患者さん本人にしか分からず、薬の効き目や合う・合わないにも個人差があります。その点、脊髄刺激療法はトライアルで効果を試せる治療法であり、本植え込みをした場合は痛みに合わせて自身で簡単に電気刺激の強弱を調節可能です。

痛みが和らぐことで通院回数や服用する薬の種類を減らせる可能性があるため、QOL(生活の質)の向上が目指せます。個人差はありますが、帯状疱疹後神経痛でブロック注射をするため週に3回通院していた患者さんが脊髄刺激療法を行った後、内服薬のみで過ごせるようになったケースもありました。通院時にご家族が付き添っている場合、患者さんのみならずご家族の負担軽減にも役立ちます。

脊髄刺激療法は、痛みを軽減するための治療法です。痛みをゼロにする治療ではなく、あくまでも生活に支障がない程度に“痛みを和らげること”を目標として行う治療であることをご理解いただく必要があります。

リードを埋め込む際に血腫(けっしゅ)と呼ばれる血の塊ができる可能性があります。また、皮膚の表面を傷つけるので感染症も起こり得ます。そのほか、激しい運動などにより挿入したリードの位置が変わった場合は、再手術を検討することになります。

当科では慢性的な痛みに悩む患者さんと「これからどのように治療を進めていきたいか」というお話をしながら、脊髄刺激療法を行う提案をして、実施を決定します。

当科では、まず診察を行って腰のX線とMRIを撮ります。脊髄刺激療法の適応となるかどうかを判断し、実施が決定した場合は採血や心電図などの一般的な手術前の検査を行います。手術前日に入院をしていただき、トライアル当日は局所麻酔下で30分程度の手術を行います。手術後は1~2週間程度リハビリテーションでいろいろな動きをしていただき、痛みの軽減が実感できるかどうかを確認していただきます。

本植え込みは局所麻酔+鎮静下で行い、所要時間は1時間半前後です。基本的にほとんど眠った状態で行いますが、患部の状態によっては電気刺激の位置を確認するために手術中に少し目を覚ましていただくこともあります。

本植え込み後は1週間ほど経過観察し、問題がなければ退院となります。退院後は月1回程度の頻度で受診をしていただき、機器の動作確認や電気刺激の調節を行います。通院頻度に関しては、特に問題がなければ間隔を空けられるようになります。

植え込みをした直後はジェネレーターの位置が変わることがあるので、6週間ほどは大きく手を上げるなどの動作は避けていただいています。それ以外に気を付けていただくことは特にありません。飛行機の搭乗や携帯電話の使用も制限はなく、ジェネレーターの電源を切ればMRI検査*も可能です。当科では充電式の機器を使用しているので、電池交換をする必要もありません。

*MRI検査時には植え込み後に渡される脊髄刺激療法手帳などを提示し、適合性を確認する必要があります。

脊髄刺激療法は保険が適用される手術であり高額療養費制度を利用すると、費用の負担は自己負担限度額までとなります*。たとえば70歳以上で現役並み所得者(月収28万円以上、課税所得145万円以上など窓口負担3割の方)の場合、自己負担限度額は44,400円、70歳未満で53万円以上の月収がある方の場合、83,400円となります。

*別途加入している公的医療保険への申請が必要となります。

慢性的な痛みに悩まれている方に、脊髄刺激療法というものを知っていただきたいです。脊髄刺激療法はトライアルを実施してみないと実際の効果は不明な部分がありますが、手術という言葉から連想されるような、体に大きな負担がかかる治療ではありません。

帯状疱疹後神経痛における脊髄刺激療法は、発症してから早く開始するとトライアルのみで改善することもあります。手術という言葉で敬遠しすぎず、選択肢の1つとしてまずはお話だけでも聞いていただければと思います。

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  • 医療法人ひらまつ病院 副理事長/中央手術部 部長

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