連載慢性期医療の今、未来

高齢化を支える慢性期病院を救う手立てとなるか―“慢性期DPC”の可能性

公開日

2022年10月11日

更新日

2022年10月11日

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2022年10月11日

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 “患者さんを療養させるための医療”というイメージがいまだ根強い慢性期医療。しかし、高齢化が進むにつれてその役割は拡大し、日々数多くの慢性期病院が重症者の治療にあたっています。にもかかわらず、慢性期病院の努力に対する評価は十分ではなく、制度の見直しが叫ばれています。そこで着目されているのが、急性期入院医療に導入された診療報酬制度「DPC(診断群分類別包括評価)制度」です。慢性期医療にDPC制度を取り入れることでどのような利点が考えられるでしょうか。一方で、導入の課題とは――。厚生労働省の診療報酬調査専門組織(DPC評価分科会)の分科会長も務めた、日本病院団体協議会議長、小山信彌先生(東邦大学 名誉教授)に、慢性期入院医療へのDPC制度導入について伺います。

※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム」によるものです。

医療の透明化をもたらした「DPC制度」

DPC制度は、病名や手術、処置の組み合わせに応じた「診断群分類」によって、1日あたりの診療報酬点数が決まる包括支払い制度です。1日あたりの診療報酬の中に、入院基本料、検査・投薬・注射費用などが含まれます(包括評価部分*)。一方、手術やリハビリテーション、一部の高額な処置は1つ1つ別に算定されます(出来高評価部分)。

*包括評価部分は、1日あたりの点数×入院日数×医療機関ごとに設定された係数(医療機関別係数)で算出される。

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DPC制度は2003年に急性期入院医療を対象として誕生しました。DPC制度で診断名はコードによって全国統一され、DPC対象病院は診療データの提出が義務付けられました。診療データはDPCデータとして公開され、誰でも閲覧することができます。こうして各病院の診療内容が全て「見える化」されたことには、非常に大きな意味があったと感じています。公開されたデータを見れば、病気ごとの平均在院日数、診療内容、費用が分かるので、それと比較しながら自分たちの病院は適正な診療ができているのかを考えられるようになったのです。

DPC制度が始まる以前は、たとえば同じ病気でも、病院によって入院期間に大きな差がありましたが、現在ではほぼ同じ期間に集約されてきています。つまり、医療の透明性が確保され、いわゆる“標準的治療”がみえてきた結果といえます。これはDPC制度がもたらした最大のメリットでしょう。

また診断群分類ごとの診療報酬点数や医療機関ごとの係数は、全国のDPC対象病院から集まった診療実績データに基づき、より現実に沿った形でアップデートされていきます。つまり、患者さんにとって適した医療を提供していれば、それが自ずと報酬として評価される仕組みなのです。

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慢性期病院の努力も評価されるべし―DPCの可能性

DPC制度がもたらした医療の透明性確保とそれに基づいた適正な評価を、今多くの慢性期病院が望んでいます。そして、重症患者さんの治療や緊急対応、在宅復帰に向けたケアや支援に積極的に取り組む慢性期病院の努力を、適切に評価しようという動きがあります。

たとえば、慢性期医療を担う「療養病棟」の入院基本料は、医療区分*とADL区分**に基づいて決まりますが、その算定方法が合理的ではないという意見があります。医療区分1にも実は重症者が多く含まれているにもかかわらず、その医療提供が十分に評価されていないなどの理由です。

*医療区分:入院患者の病気や状態、必要な医療処置によって1〜3に区分される。定義上、区分2・3には重症例が多く含まれ、区分1は医療区分2・3に該当しないものと定義されている。
**ADL区分:生活における必要支援の度合いで1〜3に区分される。数字が大きいほど、より支援を要する状態。

そこで日本慢性期医療協会は、慢性期入院医療の診療報酬制度をDPC制度に準じて設定する「慢性期DPC」の実現を訴えています。DPC制度のように、各病院の診療実績データに基づいた適切な診療報酬点数を設定することができれば、患者さんを第一に考え、懸命に努力してきた病院や医療者が報われることにつながります。厚生労働省もそれを望んでいるのです。今後はますます、本当の意味で医療を行っている施設しか生き残れない時代が来るでしょう。患者さんにきちんと医療を提供した病院が、それに応じた正しい評価を受けることは、急性期・慢性期にかかわらず本来あるべき理想的な形です。

慢性期病院の取り組みがきちんと評価されるようになれば、重症管理や緊急対応を担おうとする慢性期病院、医療従事者はより増加するでしょう。たとえば「急性期治療は終了したが人工呼吸器はまだ外せない」といった患者さんを進んで引き受けてくれる慢性期病院が増えれば、急性期病院は本来の仕事により集中することができます。慢性期病院が2次救急*の手前、いわば“1.5次救急”くらいまでを担えれば、急性憎悪時におけるスムーズな転棟や病院間におけるシームレスな連携にもつながると期待しています。

*2次救急:手術や入院が必要な症状の重い救急患者に対応すること。

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課題は慢性期医療における「多様性」の評価

ただし慢性期医療に、そのまま急性期医療と同じDPC制度を適用するというわけにはいきません。その大きな理由は「慢性期病院における入院期間の長さ」です。慢性期病院では入院期間が1〜2カ月と長期に及ぶため、その間に別の病気を発症することが往々にして起こり、治療内容も複雑化する傾向にあります。そのため、急性期医療のDPC制度と同じように、1つの疾患名に基づいて診療報酬を決めるのは無理があります。

そうした意味では、慢性期医療でDPC制度のようなシステムが構築されるとしても、「DPC」ではなく別の名称がよいかもしれません。主となる病気よりも併存疾患のほうに高額な費用がかかる可能性も高いため、副傷病名の付け方で点数をカバーできれば、ある程度の形はでき上がってくるのではないでしょうか。

また慢性期病院では、急性期病院に比べて亡くなる方の数が圧倒的に多いです。医療者の労力や費用面で大きな負担がかかる終末期や死亡時の対応についても、適切に評価されることを望みます。さらに患者さんの急変時における緊急対応、在宅復帰に向けたケアを係数で上乗せするなど、多様性のある慢性期医療の特徴を加味した、きめ細やかな制度設計が求められるでしょう。

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