検査と治療~血液検査の項目や治療方針について~

診察から検査、治療までの流れ

診察(問診、触診、視診)

自覚症状や病歴などに対する問診が行われます。家族歴や既往歴、日常生活でヨウ素(ヨード)を取り過ぎていないかなども確認します。甲状腺を疑う代表的な症状は以下になりますが、その程度や現れ方は患者さんによって異なります。

・気力が出ない
・疲れやすい状態が続く
・まぶたがむくむ
・寒がりになる
・体重の増加
・動作が遅くなる
嗜眠しみん(強い刺激を与えないと覚醒しない状態)
・記憶力の低下
・便秘
嗄声させい(かすれ声 )

また、医師が甲状腺の形を観察したり直接触ったりして、甲状腺の腫れ方・大きさ・痛みの有無などをチェックします。このとき甲状腺の状態をより詳しく確認するために、後ろ側に屈む姿勢や嚥下えんげをしていただくことがあります。

血液検査で甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンを測定

診察によって甲状腺機能低下症が疑われたら採血を行い、甲状腺機能低下症の診断に必要である遊離型甲状腺ホルモン(FT3・FT4)と、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血中濃度を測ります。また、甲状腺機能低下症の原因の大半を占める橋本病の診断を行うために、必要に応じて抗サイログロブリン抗体(TgAb)や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)といった甲状腺自己抗体*を測定する場合があります。

*自己抗体:自分自身の細胞に対し産生され、自らを攻撃する抗体。

FT3・FT4

甲状腺機能の状態を調べるために必須の項目です。血中の甲状腺ホルモンであるT3とT4は、全身の新陳代謝を活発にする役割があります。血中の甲状腺ホルモンのほとんどは、タンパク質と結合しており、タンパク質と結合していない遊離型のFT3・FT4が作用を示します。このため、甲状腺機能の検査では一般的にFT3とFT4が測定されます。甲状腺機能低下症ではこれらの値が減少し、甲状腺機能亢進症では上昇します。

TSH

脳の下垂体で産生・分泌されるホルモンで、甲状腺ホルモンの分泌を促進して体内の甲状腺ホルモン濃度をコントロールする役割があります。甲状腺自体に原因がある原発性甲状腺機能低下症ではこの値が上昇しますが、脳に原因がある中枢性甲状腺機能低下症では低下します。また、基準範囲内に収まっていることもあります。
FT4やFT3の値が正常範囲内であるにもかかわらずTSHの値が高かった場合は、軽度の機能低下状態である“潜在性甲状腺機能低下症”と診断されます。

TgAb

サイログロブリンというタンパクへの自己抗体であり、原発性甲状腺機能低下症の原因としてもっとも頻度が高い橋本病(慢性甲状腺炎)の患者さんの多くが陽性になります。

TPOAb

甲状腺ペルオキシダーゼという酵素への自己抗体で、橋本病患者さんは陽性になることがあります。
このように、TgAb・TPOAbは橋本病の患者さんの多くが陽性となり診断に用いられます。

その他の検査

病態によっては、超音波検査や下垂体ホルモンの分泌を評価する下垂体負荷試験、CT・MRIによる画像検査、細胞診(細胞を採取し、顕微鏡下で調べる検査方法)を行うことがあります。

甲状腺機能低下症の治療はどのように選択される?

治療の基本は甲状腺ホルモン剤の内服

甲状腺機能低下症によるさまざまな症状は、体に足りていない甲状腺ホルモンを補うことにより改善が期待できます。
ただし、橋本病などが原因となる原発性甲状腺機能低下症は、その症状が一時的なタイプ(一過性)か、続くタイプ(永続性)であるかをあらかじめ見極めてから薬物療法の適応を判断します。
一過性の甲状腺機能低下症は自然に回復することが多いため、原則的には甲状腺ホルモン剤の服用は必要ありません。これに対して永続性の甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモン剤の服用による治療が必要になります。甲状腺ホルモン剤は、最初は少量からスタートして少しずつ内服量を増やしていきます。
また、一部のサプリメントや薬剤は甲状腺ホルモン剤の腸からの吸収や作用に影響を及ぼすものもあるため、ほかの病気の治療をしている患者さんの場合は内服量や間隔を調整することがあります。

妊娠希望の女性や妊娠中、出産後の治療について

妊娠を望む場合は軽度でも妊娠前から治療を

甲状腺機能低下症で妊娠を希望する患者さんは、軽度であっても妊娠前から甲状腺機能を正常に保つことが非常に大切です。
甲状腺機能低下症は流産や早産、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離じょういたいばんそうきはくり、貧血、分娩後異常出血、帝王切開などのリスクを高めますが、治療を行うことでそのリスクを軽減することができます。

妊娠中は主治医と相談しながら薬の調整を行う

妊娠中は服用量の管理・調整と甲状腺機能の定期検査が欠かせないため、妊娠が分かったらまずは主治医に相談しましょう。甲状腺ホルモン剤の服用を自己判断で中止しないことが大切です。

産後は定期検査による体調管理を継続

出産後に必要な甲状腺ホルモン量は妊娠前と同等に戻るため、甲状腺ホルモン剤の服用量も妊娠前の量まで減らします。妊娠前の甲状腺機能低下症がごく軽度であった場合や妊娠の途中から服用が必要になった場合など、患者さんの状態によっては出産後に甲状腺ホルモン剤の服用を中止することもあります。また、一部の患者さんは出産後に甲状腺ホルモンの値が変動し、甲状腺機能異常による症状の増悪がみられます。生まれた赤ちゃんの世話で大変な時期でもあり「育児で疲れているせい」「出産からの回復が遅れているだけ」などと誤解されがちですが、病気が悪化している可能性があるので、放置せず産後も定期的な受診と甲状腺機能の検査を心がけましょう。

経過~甲状腺機能をコントロールできれば通常の生活が送れる~

甲状腺機能が正常に保てていれば、症状はほとんど現れず日常生活に支障もありません。ただし、ほとんどの甲状腺機能低下症の原因となる橋本病は完治しないため、薬物療法を根気よく継続して甲状腺機能をコントロールしながら病気とうまく付き合っていく必要があります。定期的に甲状腺機能をチェックし、自分自身の体調に応じて治療を続けていきましょう。
また、体調が落ち着いてきたからといって薬を自己判断で中止すると、まれではあるものの重症化して粘液水腫性昏睡ねんえきすいしゅせいこんすいなどの重篤な合併症を引き起こすことがあります。薬について不安なことがある場合も決して自己中断せず、必ず主治医に相談してください。

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監修医紹介
伊藤病院 内科 部長
渡邊 奈津子 先生
出典:
*1 一般社団法人 日本内分泌学会(http://www.j-endo.jp/