いわき市の医療

医師不足が深刻ないわき強固な地域ネットワークで市民の健康を守る

医師不足が深刻ないわき
強固な地域ネットワークで市民の健康を守る

いわき市は約32万人が暮らす中核市でありながら(2024年時点)、以前より深刻な医師不足が続いてきました。人口10万人あたりの医師数は、全国に62ある中核市のうち、いわき市は59位です(2022年調査)。医療機関の数も十分とはいえず、三次救急*を担う医療機関は1施設しかありません。また、いわき市は面積が非常に広いために救急搬送に時間がかかるなど、救急医療の課題も抱えています。さらに、いわき市には市民の健康状態がよくないという問題もあります。高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を持っている方が多く、脳卒中や心疾患での死亡数も全国平均に比べて高い状態です。課題の多いいわき市ですが、各医療機関、行政、医師会間での連携体制がとても良好であるという特徴があります。この強固なネットワークを生かしながら、地域一丸となっていわき市の医療をよりよくしていくための取り組みを進めています。

三次救急:複数の診療科が関与する必要があり、命に関わる重篤な患者を対象とする救急医療。

いわき市の医療を支える
福島労災病院

総合的ながん診療の提供や救急医療を担う

総合的ながん診療の提供や
救急医療を担う

福島労災病院は地域の中核病院としていわき市の医療を支えています。当院の大きな強みはがん診療で、薬物療法、手術、放射線治療などの幅広い治療を扱っているほか、がんに伴う痛みや心の苦痛に寄り添う緩和ケアも提供しています。がん患者さんに対する“治療と就労の両立支援”にも力を入れており、総合的ながん診療を実現しています。また、二次救急*を担う病院として市内全域から救急患者さんを受け入れています。地域の診療所やクリニックとは良好な連携が取れており、地域の皆さまから信頼していただいていると自負しております。もしも何か不調を感じたら我慢することなく、まず地域の診療所やクリニックの先生に相談していただくか、当院に直接お越しいただいても構いません**。ぜひお気軽に受診してください。

二次救急:入院や手術を必要とする重症患者を対象とする救急医療。

紹介状をお持ちでない場合には、初診時に保険外併用療養費(選定療養費)として7,700円が必要です(2024年時点)。

院長プロフィール

福島労災病院の
大腸がん、肺がん、
心筋梗塞、脳卒中の治療

大腸がんの治療

個々の希望に合わせて大腸内視鏡検査の苦痛軽減に努める

大腸がんを早期に発見するためには、大腸がん検診などで便潜血検査を受けることが大切です。しかし、いわき市はがん検診の受診率が低く、進行して何らかの症状が出てからようやく診断に至るケースが多くあります。また、便潜血検査で陽性(+)と判定されても「大腸内視鏡検査は痛くて苦しそう」などの理由で詳しい検査を受けずに放置されている方も少なくありません。当院ではこうした理由による診断の遅れを避けるために、鎮痛薬を投与したり、過去に大腸内視鏡検査を受けて苦しかったという方には細径さいけい内視鏡(通常よりも細くて柔らかい内視鏡)を使用したりして検査を抵抗なく受けられるように対応しています。それでも大腸内視鏡検査が難しい場合には、大腸CT検査も積極的に施行しています。色素内視鏡検査や拡大内視鏡検査、超音波内視鏡検査(EUS)などを用いながら正確な診断を行い、適切な治療につなげることを心がけています。

個々の希望に合わせて大腸内視鏡検査の苦痛軽減に努める

大腸がんの診療では、内科と外科が密に連携することでスムーズかつ適切に対応できる体制を整えています。たとえば、大腸がんが疑われる患者さんが受診された際、どのように治療を進めていくのがよいかを医師同士が気軽に相談し合えるので、緊急の場合も受診当日にある程度の治療の方向性を決めることができます。医師や看護師は親切な人が多く、風通しがよい雰囲気があることは当院の大きな特徴だと思います。また、週に1度合同カンファレンスを開催し、一人ひとりの患者さんの治療方針について時間をかけてじっくりと検討しています。

患者さんや家族の希望や不安に寄り添いながら治療を進める

大腸がんの手術は、進行例では基本的に開腹手術を行いますが、がんや患者さんの状態から可能と判断した場合には腹腔鏡下手術ふくくうきょうかしゅじゅつを実施しています。腹腔鏡下手術とはお腹に複数の小さな穴を開けて行う手術で、開腹手術に比べて傷が小さく痛みも少ない利点があります。手術の際は、がんの根治を目指しながら、細心の注意を払い丁寧な手術を行うことを心がけています。また、当院では執刀した外科医が術後も患者さんの治療に主治医として関わり続けており、術後の再発を防ぐために行う補助化学療法、再発が起こってしまった場合の化学療法、苦痛を和らげるための緩和ケアも担当しています。

患者さんや家族の希望や不安に寄り添いながら治療を進める

地域柄、当院は高齢の患者さんが多く、患者さんやご家族から「手術に耐えられるのだろうか……」という不安をよく聞きます。そのため、本当に手術を行うべきかどうかを含めて、手術以外の選択肢もご提案しながらどのような治療を行っていくのがよいのか、患者さんやご家族ときちんと話し合うようにしています。一人ひとりの希望や不安に寄り添いながら治療方針を一緒に考えていきたいと思いますので、ぜひお気軽にご相談ください。

解説医師プロフィール

肺がんの治療

無症状のうちに発見して治療を始めることが重要

肺がんは早期では自覚症状がほとんどなく、咳やたんなどの症状がみられるときには進行している可能性の高いがんです。進行した場合、手術でがんを取り除くことが難しくなるため、早期発見のためには検診がとても重要です。しかし、いわき市は肺がん検診の受診率が低いうえに、検診で異常があっても放置されている方が多くいらっしゃいます。また、肺がんは喫煙者(特に男性)に多いイメージをお持ちの方が多いと思いますが、最近では喫煙歴のない女性の肺がんも増えてきています。「自分は大丈夫」と思わずに、年に1度は胸部X線検査を受ける機会をつくるようにしましょう。

無症状のうちに発見して治療を始めることが重要

小さな傷で済む胸腔鏡手術を実施

肺がんの治療では、手術、薬物療法、放射線治療を組み合わせて行う“集学的治療”が主流となってきています。当院でも、その時点での最新の診療ガイドラインに基づきながら、集学的治療を行っています。手術ができる場合には、時期を見極めながらタイミングよく手術を行うことを心がけています。
当院では体に負担の少ない胸腔鏡手術きょうくうきょうしゅじゅつを積極的に行っています。数cmほどの穴をいくつか開けるだけで済むため、胸を大きく切開する開胸手術に比べて肋骨ろっこつや筋肉の損傷を抑えることができます。痛みが少ないので術後の回復が早く、当院では翌日から食事と歩行を開始いただいています。また、呼吸機能の損失を抑えることができることも大きなメリットです。

小さな傷で済む胸腔鏡手術を実施小さな傷で済む胸腔鏡手術を実施

胸腔鏡手術後の傷あと

多くの選択肢の中から納得のいく治療を一緒に考える

肺がんは近年飛躍的に治療法が進歩してきており、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など新しい薬剤も増えてきています。そのため、手術が難しいと言われた場合でも希望を捨てないでほしいと思います。
当院では、治療の選択肢を余すことなく患者さんやご家族に伝えるようにしていますが、選択肢が多いために、結局どうすればよいのか分からなくなってしまう方も多くいらっしゃいます。「ほかの先生の意見も聞いてみたい」という希望があれば、大学病院やがんセンターなどもご紹介しています。“自分や自分の家族が病気になったときに受けたい医療を”をモットーに全力を尽くしますので、納得のいく治療法について一緒に考えていきましょう。

解説医師プロフィール

心筋梗塞の治療

カテーテル治療可能な市内の数少ない施設として24時間対応

心筋梗塞しんきんこうそくとは、何らかの原因で冠動脈がふさがれてしまい、心筋が壊死えしを起こした状態を指します。心筋梗塞を起こしたら、できるだけ早くカテーテル治療を行うことが重要ですが、いわき市内でカテーテル治療ができる病院は、隣接するいわき市医療センターと当院の2施設しかありません(2024年時点)。そのため当院では24時間オンコール*体制を整えることで、いつでも心筋梗塞の患者さんに対応できるようにしています。また、いわき市は面積が広く、搬送に30分〜1時間かかるケースもあるため、搬入後は時間を無駄にしないように速やかに治療を行うことを心がけています。

24時間オンコール:緊急対応に備えて通常の勤務時間とは別に院外で待機していること。

カテーテル治療可能な市内の数少ない施設として24時間対応

心臓リハビリテーションで機能改善を図る

当院では、心筋梗塞後や心不全など、あらゆる原因で心臓の機能が低下している患者さんに対する心臓リハビリテーション(以下、リハビリ)に力を入れています。退院後は週に1度の外来集団リハビリで、自転車エルゴメーター(自転車こぎの運動をする器具)を用いた運動などを行っています。リハビリ前後には診察を行い、患者さんの状態をよく見ながらリハビリを実施しています。心臓リハビリは薬物療法に匹敵するほどの効果があるとの報告もあり、実際に患者さんを見ているとリハビリ前よりもADL(日常生活動作)の改善がみられる方もいらっしゃいます。また、よいリフレッシュの場にもなるようで、週に1度のリハビリを楽しみに来られる患者さんも多いです。

心臓リハビリテーションで機能改善を図る

さまざまなスタッフが介入し適切なケアやアドバイスを行う

当院では医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線科技師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、MSW(医療ソーシャルワーカー)などの多職種が連携しながら、患者さんの治療やケアにあたっています。多職種が患者さんに関わることで、各専門家の視点から適切なケアやアドバイスをすることができます。たとえば、食事指導が必要な患者さんの場合、医師は「塩分を控えましょうね」で終わってしまうところを、管理栄養士であれば患者さんの嗜好などに合わせて具体的な食事内容を提案することができます。規模がそれほど大きくない病院だからこそ、スタッフ同士のコミュニケーションが取れていると感じています。
最近は高齢者の方だけでなく、40〜50歳代の若い方の心筋梗塞が増えてきています。以前に感じたことのないような冷や汗や脂汗を伴う激しい胸の痛みがあり、それが長い時間続くようであれば心筋梗塞を疑いますので、すぐに救急要請をしてください。また心筋梗塞では肩や歯に痛みが生じることもあります。何か異変を感じたらすぐに受診するようにしましょう。

さまざまなスタッフが介入し適切なケアやアドバイスを行う
解説医師プロフィール

脳卒中の治療

一次脳卒中センターとして24時間緊急治療に対応

当院はいわき市内に3施設しかない一次脳卒中センター*の1つとして、24時間体制で脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の緊急治療に対応しています(2024年時点)。脳梗塞を発症した場合、血栓けっせんを薬剤で溶かすt-PA療法(発症後4.5時間以内に実施)やカテーテルによる血栓回収療法を行うことが重要です。当院は市内でこうした緊急治療に対応できる数少ない施設として、迅速に治療ができる体制を整えています。また、脳出血やくも膜下出血においても、血腫けっしゅ除去術などの緊急手術をすぐに開始できる体制が整っています。
脳卒中の治療は時間との勝負です。発症後いかに適切かつ素早く治療を行うかによって、その後の生活が大きく左右されます。そのため、もしも脳卒中を疑うような症状があればすぐに病院を受診するようにしましょう。意識がはっきりしない、激しい頭痛や嘔吐がある、突然うまく喋れなくなる、片側の顔や手足が急に動かなくなる――などの症状を認めたら、ためらわずに救急要請してください。

一次脳卒中センター:地域からの要請に対して24時間365日体制で脳卒中の患者を受け入れ、急性期脳卒中診療担当医師が、患者搬入後可及的速やかに診療(t-PA静注療法を含む)を開始できる施設のこと。一般社団法人 日本脳卒中学会が認める要件を満たした場合に認定される。

開頭せずに行う低侵襲手術にも対応

開頭せずに行う低侵襲手術にも対応

当院には日本脳神経外科学会認定の脳神経外科専門医が在籍し、脳卒中のほか脳腫瘍のうしゅよう、顔面けいれんなどの脳神経疾患全般の治療を行っています。内視鏡を使った低侵襲手術ていしんしゅうしゅじゅつも得意としており、脳出血ではほとんどの場合、頭を切開することなく小さな穴を開けて行う方法で血腫除去術を行っています。
当院だけではどうしても対応が難しい症例は、福島県立医科大学と連携を取ることで必要な治療を患者さんに提供できる体制を整えています。たとえば、くも膜下出血に対する血管内治療(コイル塞栓術そくせんじゅつ)*は、大学から医師に来ていただき当院で治療を実施しています。大学病院で治療をしたほうがよいと判断した患者さんについては、速やかにご紹介するようにしています。

血管内治療(コイル塞栓術):出血の原因となっている動脈瘤にコイルを詰める治療法。

開頭せずに行う低侵襲手術にも対応

脳卒中は治療をして終わりではなく、機能回復のためのリハビリテーション(以下、リハビリ)を行ったり、再発予防のために適切な内服を続けたりする必要があります。当院ではさまざまな職種のスタッフが円滑にコミュニケーションを取りながら、治療の継続をサポートしています。リハビリには理学療養士、作業療法士、言語聴覚士が関わり、専門的なリハビリを提供できる体制を整えています。また、いわき市は病院間での連携体制がよいこともあり、当院で治療が完了した後の回復期リハビリテーション病院や慢性期病院への転院もスムーズに行うことができています。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年6月28日
病院ホームページを見る