横須賀・三浦医療圏の医療

写真:PIXTA
県内2番目の高齢化地域として、急性期・回復期・慢性期の病床不足が課題
横須賀・三浦医療圏は、神奈川県の南東部に位置する横須賀市、鎌倉市、逗子市、三浦市、葉山町の4市1町で構成されています。人口のうち、65歳以上の方の割合は32.50%(全国平均28.60%・2020年)と高く、県西地域(小田原市、箱根町、湯河原町など)に次いで高齢化が進んでいる地域です。
医療圏内の地域連携が充実している一方、急性期、回復期、慢性期の病床不足が課題となっています。また、患者さんの医療機関利用状況を見ると、横浜市南部地域への流出が多くなっており、地域で医療を完結できるよう、医療体制の強化が求められているといえるでしょう。
専門的な心疾患治療に加え、地域の幅広い医療ニーズに対応する
葉山ハートセンター

医療体制と大規模改修で、緊急外科手術とさらに高精度の治療が可能に
当院は、2000年に心臓病治療を専門とする病院として開設して以来、とりわけ成人心臓外科手術と不整脈治療の分野で地域医療に貢献してまいりました。不整脈治療においては治療法の開発にも注力しており、佐竹 修太郎先生(不整脈センター長)を中心とする当院の研究チームが東レ株式会社とともに“ホットバルーンアブレーション”(カテーテル治療の1つ)を開発しました。
また、地域のニーズにお応えする形で、内科や外科、脳神経外科、救急総合診療科、婦人科などの診療科も開設してまいりました。近年では常駐外科医を増員して外科の緊急手術体制を整えたほか、2025年5月以降は手術室を3室体制にする予定です。さらに、地域の高齢化にも対応するため、回復期リハビリテーション病棟などの開設も計画しています。
当院の建物は “心臓を蘇らせる場所であるとともに生きる歓びも取り戻せる場所”を目指したデザインとなっており、グッドデザイン賞(建築・環境デザイン部門2000年)も受賞しました。また相模湾と江の島、富士山を望める素晴らしいロケーションにあり、スタッフの応対も含めて、患者さんが明るくリラックスした気分で医療を受けられる環境を整えています。お体のことで気になることがあれば、ぜひお気軽にご来院ください。
葉山ハートセンターにおける
狭心症・心臓弁膜症・
心房細動・鼠径ヘルニアの治療
狭心症の治療
息切れや胸の痛み――気になることはぜひ相談を
狭心症は、冠動脈(心臓に血液を送る血管)が狭くなり、心筋(心臓の筋肉)が酸素不足に陥る病気です。血管が完全に詰まって血流が途絶えた場合、心筋梗塞(心筋が壊死する病気)につながるため、狭心症は心筋梗塞の一歩手前の状態ともいえます。
狭心症が軽度のうちは、安静にしていれば十分な血液が流れているので症状は現れませんが、運動時には息切れや胸の痛みといった症状を感じるようになります。特に葉山町のような坂の多い地域では、坂や階段を上る際にこのような症状を自覚する機会も少なくないでしょう。気になることがあれば、ぜひお気軽に受診いただければと思います。

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狭心症の場合は心電図検査で異常が検出されないことも多いため、当院ではCT検査も行い、適切な診断を目指しています。心臓の症状は特に心配だと思いますので、当院では可能な限り受診いただいた日にCT検査を受けていただけるよう、院内で連携し、患者さんの不安軽減に努めています。
早期治療で元の生活を取り戻せる可能性も
狭心症は早期に発見できれば、薬物治療やカテーテル治療など、手術に比べて体への負担が少なく済む治療で症状の改善が見込めます。薬物治療では、動脈硬化の進行予防やコレステロール値をコントロールする薬、血管を広げる血管拡張薬などを使います。高齢の方では患者さんごとにさまざまな病気がおありですから、狭心症だけをみればよいというわけにはいきません。当院では内科や腎臓内科の医師にも相談しながら、お一人おひとりに適切に薬を処方できるよう体制を整えています。
またカテーテル治療については、バルーン拡張(風船を膨らませて詰まったところの血管を広げる)やステント留置(金属製メッシュの筒を血管内に置く)などの方法があります。当院は循環器内科と心臓血管外科の距離が近く、症例の相談や治療において、非常に緊密な連携が取れていることも強みです。カテーテル治療が適応になるかどうか、外科的な観点からも意見を聞きながら、適切な治療につなげています。

症状に心当たりがあるものの「仕事があるから入院はできない・したくない」と思われる方もいらっしゃるかと思います。狭心症は患者さんご本人ですら気づかない間に、症状が徐々に悪化していきますが、早期に検査を行いきちんと治療すれば、今までどおりの生活に戻れる患者さんもいらっしゃいます。よりよい人生を送れるよう精いっぱいサポートしますので、一緒に治療をがんばっていきましょう。

心臓弁膜症の治療
今までより疲れやすい――心臓病を専門とする医師に相談を
心臓は4つの部屋に分かれており、それぞれの部屋には血液が逆流しないように4つの“弁”があります(僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁)。これらの弁が正常に機能しなくなる病気が心臓弁膜症です。弁の異常には、弁がうまく閉まらなくなる“閉鎖不全症”、弁が固くなり開きが悪くなる“狭窄症”の2種類があります。中でも特に増えているのは、大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症の2つです。

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心臓弁膜症は初期段階では症状がほとんどないため、病院を受診したときにはかなり進行してしまっていることもあります。「今までよりも疲れやすくなった」、「これまで普通に上れていた階段を途中で休まないといけなくなった」などの変化があった際には、単に“年齢のせい”と考えないようにしましょう。当院は心臓病に特化した病院ですので、気になる症状があればぜひ早めにご相談ください。
患者さんの気持ちに寄り添い、体への負担に配慮した治療を提供
心臓弁膜症は、弁の種類や状態によって治療法が異なります。軽症であれば定期的なエコー検査で経過観察していきますが、心不全のリスクがあると判断した場合は手術が必要になります。当院では、胸を大きく切開せずに肋骨の隙間から手術を行うMICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)を取り入れ、患者さんの体への負担に配慮した治療を提供しています。感染のリスクが低く、骨を切らないことで術後の早期回復も見込めるため、可能な限りMICSで治療できるよう治療方針を検討していきます。

手術には“弁形成術”と“弁置換術”の2つがあり、いずれもMICSで対応しています。弁形成術は患者さん自身の弁を温存して修復する方法で、弁置換術は弁そのものを取り換える方法です。お伝えしたとおり閉鎖不全症では弁自体は硬くなっていないため、形成術を行えば弁の機能は回復します。一方で狭窄症では、弁置換術により硬くなった弁を交換する必要があります。同じ手術でも、手術の効果を最大限に高めるためには、患者さんご自身の意欲的な取り組みが不可欠です。当院では、患者さんが前向きな気持ちでリハビリに取り組めるよう、図を書きながら病気について丁寧に説明を行っています。この地域ではサーフィンがお好きな方も多いですから、仕事だけでなく趣味やお好きなことなど、退院後の生活を見据えて意欲的にリハビリに取り組めるよう、寄り添いながらサポートしています。
治療は信頼関係づくりから――患者さんによりよい治療を受けてほしい
最近では、より体への負担が少ない治療法が開発され、治療の選択肢が広がっています。大動脈弁狭窄症では“TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)”、僧帽弁閉鎖不全症では“MitraClip(マイトラクリップ)”といった治療法があり、適応となる患者さんへはこれらの治療もご紹介・ご提案し、必要に応じて湘南鎌倉総合病院と連携して治療にあたっています。
治療にあたり当院では、まず患者さんとの信頼関係を築くことを大切にしています。患者さんが納得して治療を受けられるよう、全力でバックアップしていきますので、ぜひ当院を頼っていただければと思います。

心房細動の治療
根治が見込めるカテーテル治療
心房細動は心不全や脳卒中をきたす恐れのある不整脈です。名前のとおり心房がバラバラに動くことでうまく血液を送り出せず、心不全を引き起こすことがあります。また心臓内での血流が低下することで血栓(血の塊)ができやすくなります。これが脳に飛んで脳梗塞を引き起こすこともあるため、危険な病気です。治療には薬物治療とカテーテル治療があります。
薬物治療は脳梗塞の発症や心房細動の症状を抑えることを目的としていますが、副作用の懸念や再発のリスクが伴ううえ、残念ながら根治は難しいのが現状です。それに対し、カテーテル治療(カテーテルアブレーション)では心房細動の根治が見込めます。電線の付いた細い管(カテーテル)を足の付け根から心臓へ挿入し、異常な電気信号を発する原因部分(主な発生源は肺静脈)を熱で変性させて心房細動を治療する方法です。
従来の治療の欠点を克服すべく“ホットバルーンカテーテル”を開発
当院では、患者さんの負担を軽減し、より安全で確実性の高い治療を提供するために、“ホットバルーンカテーテル”によるアブレーション治療を積極的に行っています。これは私(佐竹 修太郎)が中心となって開発を進め、2016年より保険適用となった治療法です。先端にバルーンを取り付けたカテーテルを大腿静脈から肺静脈口に挿入し、バルーンを高周波で60℃に温めて肺静脈口に接触させることで、心房細動の原因部位を焼灼して根治を目指します。

バルーン内に高周波通電用電極と
温度センサーを設置
従来の電極カテーテルによるアブレーション治療は、肺静脈の周囲を点状に多数の焼灼を行うため時間がかかることや、焼灼時の温度が均一ではないため血栓や穿孔を合併しやすいことなどが欠点でした。ホットバルーンカテーテルアブレーションでは、バルーンからの伝導熱によって心房細動の発生源を均一かつ比較的短時間で焼灼できます。設定している温度は60℃で、血栓や穿孔が生じにくい温度です。患者さんのよりよい予後を追求して開発したこの治療法がより精度の高いものになるよう、ハートチームが1つになって治療に向き合っています。
近年、心房細動の根治治療を希望される患者さんが増えていることもあり、当院では不整脈治療専門のカテーテル室を備えています。X線透視装置(EPナビゲーター)も導入し、心房細動のカテーテルアブレーション治療において、より安全性を高めて治療を提供できるようになりました。常に患者さんの医療ニーズに応えられるよう、これからも研鑽を重ねてまいりますので、お困りのことがありましたらぜひ当院にご相談ください。

鼠径ヘルニアの治療“寝ると引っ込む”鼠径部の膨らみは一度受診を
鼠径ヘルニアとは、鼠径部(太ももの付け根のあたり)の筋肉が弱り、腹壁の隙間から小腸などの内臓が飛び出た状態のことです。飛び出す場所は3か所あり、鼠径部の外側から出てくる外鼠径ヘルニア、鼠径部の内側から出てくる内鼠径ヘルニア、鼠径部の下側から出てくる大腿へルニアの3つを総称して鼠径ヘルニアと呼びます。子どもと高齢の方に多くみられるのが特徴で、子どもの場合は先天的な要因が、高齢の方の場合は加齢によって筋肉が衰えることが原因です。

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症状は“立つと鼠径部が膨らむが、寝ると引っ込む”といったもので、これを治療せず放っておくと、内臓の一部が穴から出たまま戻らなくなる嵌頓という状態になることがあります。この場合、飛び出たままの内臓に血液が行き渡らず、壊死してしまう可能性があるため大変危険です。鼠径部の膨らみが気になる方は、まずは一度外科を受診することをおすすめします。
早期に治療し、憂いのない人生を送ってほしい
鼠径ヘルニアを治すには、自家組織や人工物(メッシュなど)で筋肉の欠損部をふさぐ必要があるため手術による治療が基本になります。
当院では患者さんの体の状態に合わせた術式で治療できることが強みです。手術には鼠径部を切開する方法と腹腔鏡を用いる方法がありますが、当院は術後の痛みが比較的少ない腹腔鏡による手術を基本としています。この手術では腹部に数か所の穴を開けてそこから内視鏡(細長いカメラ)や鉗子を挿入して手術をします。鼠径部を大きく切開しないため術後の痛みが少ないだけでなく、早期回復も見込める方法です。ただし、心肺機能に不安がある方や過去に前立腺の全摘術や下腹部の手術を行っている方などは鼠径部切開法が適応となります。

手術と聞くとどうしても抵抗を感じてしまいがちかと思いますが、鼠径ヘルニアの治療は内臓ではなく、お腹の壁に対する手術ですので、比較的リスクの低い手術といえます。なお、症状が軽い方や高齢の方、手術を希望しない方であれば経過観察も可能ですが、嵌頓状態になるのを予防することはできず、突然嵌頓してしまうことも考えられます。その場合は緊急手術が必要になりますので、長い目で見てもやはり早期に手術を受けていただくことをおすすめします。どちらの手術法も手術時間は1時間ほどで、1泊ないし2泊の入院となります。
鼠径ヘルニアを治し、憂いのない人生を送るお手伝いをいたしますので、気になる方はぜひ外来にお越しください。

- 公開日:2025年4月23日



