中河内地域の医療

中河内地域の医療

写真:PIXTA

多くの人が暮らす東大阪市
――中河内地域で医療を完結するためには

東大阪市は人口約50万を数え、府内では3番目に人口の多い地域です(2024年4月時点)。しかし、同市を含む中河内医療圏(東大阪市、八尾市、柏原市)では、人口10万人あたりの病院病床数が全国平均の1,164.84床に対して840.99床に過ぎません。同じく人口10万人あたりの医師の数も全国平均の307.23人に対して255.60人となっています(2020年時点)。
また、中河内医療圏では、患者さんの圏域外への流出が課題として挙げられています(がん・小児医療・周産期医療の入院患者では35%以上)。事実、公共交通機関のアクセスの観点から市外・県外の医療機関を受診する方もいるのが現状です。地域の人々が安心して暮らせるよう、各医療機関は引き続き地域内で完結できる医療提供体制の強化に取り組み続ける必要があるといえるでしょう。

東大阪市と中河内地域の医療を支える
市立東大阪医療センター

東大阪市と中河内地域の医療を支える市立東大阪医療センター

地域の患者さんを“地域で守る”ために――高齢者医療・災害医療体制も強化

市立東大阪医療センターは、市民の皆さんの健康をお預かりするうえで、高度急性期(脳卒中や心疾患など)、周産期・小児、がん、救急、災害、難病などの医療に幅広く対応しています。
中河内医療圏は、高齢化率(65歳以上)が2020年時点で28.9%と府平均の27.5%よりも高く、2050年には39.3%に上昇すると推測されています。高齢者医療の充実も急務となっており、当センターではその一環として、2024年12月からアルツハイマー型認知症の早期発見と治療に有用なアミロイドPET検査を開始しました。アルツハイマー型認知症の新しい治療薬(レカネマブなど)の使用にあたっては、投与期間中の副作用の管理も欠かせません。これに対応できる専門的な病院としての責任を全うし、認知症の診断や治療において地域の医療機関との連携を図ってまいります。
また、南海トラフ地震の発生リスクが取り沙汰されている昨今、地域災害拠点病院としての在り方も重要であると考えます。隣接する大阪府立中河内救命救急センターとも連携をしつつ、被災時における患者さんの受け入れ体制をより強化していく所存です。

院長プロフィール

市立東大阪医療センター紹介

市立東大阪医療センターにおける
認知症・がんに対する検査体制

認知症治療の現状と進歩

認知症とは――記憶が抜け落ち、日常生活に支障をきたしている状態

認知症とは、さまざまな原因によって脳細胞に何らかの障害が生じた結果、認知機能が低下し、日常生活に支障をきたしている状態を指します。
認知症の原因となる病気はいくつかありますが、その中で最も多いのがアルツハイマー病で、全体の6割以上を占めています。アルツハイマー病が原因で生じた認知症は、アルツハイマー型認知症といいます。この病気は、異常なタンパク質、特に“アミロイドβ”の脳内の蓄積が大きな原因とされており、これが長年にわたって蓄積することで神経細胞が壊れ、脳の萎縮、さらには認知機能の障害を引き起こします。

認知症とは――記憶が抜け落ち、日常生活に支障をきたしている状態

写真:PIXTA

認知症の初期症状としては、“記憶障害(もの忘れ)”が挙げられます。もの忘れは加齢によっても起こるものですが、認知症の場合は記憶がすっぽりと抜け落ち、進行した場合には忘れている自覚もなくなるのが特徴です。大事な約束や昨日あった出来事を全く覚えていない、購入したことを忘れて同じものを繰り返し買ってくる、物をしまったこと自体を忘れて「盗まれた」と疑う、季節が分からなくなる……などの症状がある場合には認知症が疑われます。

小さな違和感は見過ごさずにかかりつけ医へ相談を――早期発見が重要

現在の医学では完治が難しいとされる認知症ですが、近年2つの新薬が承認されました。「レカネマブ(2023年承認)」と、「ドナネマブ(2024年承認)」です。適応はアルツハイマー病による軽度認知障害(詳細は後述)および軽度の認知症の場合に限られますが、どちらも脳内へのアミロイドβを標的として作用し除去することで、認知症の進行を抑制する効果が期待できる薬です。

小さな違和感は見過ごさずにかかりつけ医へ相談を――早期発見が重要

もの忘れなどはあるものの日常生活において支障がなく、認知症とは診断されない状態を軽度認知障害(以下、MCI)といいます。いわゆる認知症の前段階の状態であり、適切な対応を行うことで認知症への移行を遅らせることができたり、場合によっては正常なレベルに回復させることができたりする可能性があります。薬の適応判断にあたっては、こちらの項で紹介するアミロイドPET検査などによる診断も必要になりますが、いずれにしてもまずはできるだけ早い段階で認知症の兆候を発見することが大切です。
加齢によるものなのか、あるいは病的な症状なのか患者さんご自身やご家族で判断することは難しいと思いますので、気になる症状がある場合は「年のせい」と納得せず、まずはかかりつけの医療機関へご相談いただきたいと思います。当センターでは“もの忘れ外来”も実施しておりますので、受診をご希望される場合には紹介状を持参のうえぜひご来院ください。

解説医師プロフィール

認知症に対するアミロイドPET検査

アミロイドPET検査とは――アミロイドβの蓄積量を画像で見られる検査

アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症に対する薬の適応は、アミロイドPET検査などの結果をもとに判断します。アミロイドPET検査とは、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβの蓄積量を調べる検査です。アミロイドβの蓄積量を調べる検査には、脳脊髄液のうせきずいえき検査(腰の骨の間に針を刺して脳脊髄液を採取する検査)という方法もありますが、侵襲性しんしゅうせい(体への負担)が高かったり、背骨の変形がある場合には検査が困難だったりすることが課題とされていました。このような課題を解決するため、当センターでは、2024年12月からアミロイドPET検査を開始しました。アミロイドPET検査では、アミロイドβと結合する特性のある検査薬を注射し、脳を撮影することでアミロイドβの蓄積の程度を画像で見ることができます。

アミロイドPET検査とは――アミロイドβの蓄積量を画像で見られる検査

なお、アミロイドPET検査は、一定の条件を満たせば保険診療として認められています*。具体的な費用については3割負担の場合で約7万円と決して安価とはいえない検査ではありますが、薬の投与ができることが分かれば治療により進行抑制を望めます。

アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度認知症が疑われる方で、かつ治療薬の投与を判断する目的で用いる場合。そのほか、脳脊髄液検査を受けていないことも条件となる。

アミロイドPET検査とは――アミロイドβの蓄積量を画像で見られる検査

写真:PIXTA

診断のうえ薬を投与することが決定したら、使用する薬の種類ごとに定められた間隔で投与をしていきます(レカネマブは月に2回の点滴、ドナネマブは月に1回の点滴)。

認知症の診断~治療までを担える体制を整備

認知症に対する治療薬はあくまで進行を抑制する目的で投与する薬であり、また進行を完全に停止する効果があるものでもありません。ただ、高齢化社会において軽度認知症やMCIに対する治療の選択肢が増えたことは福音といえます。
なお、認知症治療薬の投与にあたってはARIA(アミロイド関連画像異常)といわれる副作用などに注意をしなければなりません。このARIAは治療の初期にみられることが多く、大半は無症状とされていますが、0.6~0.8%の頻度で意識障害など重篤な事象が起こることが分かっています。そのため、治療開始後6か月ほどを目安に当院で適切にモニタリングを行います。

多角的な観点で、患者さんのよりよい予後を追求する

多角的な観点で、患者さんのよりよい予後を追求する

一般的に認知症は、脳神経内科や脳神経外科、精神科で診療を行うことが多いものの、当然ながらそれぞれの診療科の医師は専門とする分野が異なります。当センターでは、脳神経内科・脳神経外科・精神科の3つ全てを備えており、多角的な観点でよりよい予後について検討可能な体制が整っています。

多角的な観点で、患者さんのよりよい予後を追求する

認知症チーム

精神科では“認知症専門外来”を、脳神経内科では“MCI・レカネマブ外来”も実施しておりますので、受診をご希望の方は紹介状を持参のうえぜひご来院ください。
MCI・レカネマブ外来の対象となる患者さんについては、当センター・脳神経内科のページでも詳細をご確認いただけます。

解説医師プロフィール

がんの診断におけるPET-CT検査

PET検査とCT検査を組み合わせることでより精度の高い診断が可能に

当センターではがんの発見と診断に有用なPET-CTを導入しています。この検査は、文字通りCT検査とPET検査を組み合わせた検査です。CTやMRIは、X線や磁気で“がんの形態”を見る検査で、一方のPETはがん細胞が正常細胞に比べて多くのブドウ糖を取り込むという特性を利用して“がんの性質(細胞の活動状態)”を見る検査です。この両者の画像を組み合わせることにより、どちらか一方の検査では分からなかったものが見えるようになり、より精度の高い診断がかなえられます。また、一度に全身の検査ができることも大きな特徴といえます。

PET検査とCT検査を組み合わせることでより精度の高い診断が可能に

PET-CT検査は、がんが判明しており他臓器への転移の検索が必要な方、あるいはがんを疑う所見があるものの、ほかの検査で診断が確定しない方については、保険診療内で検査を受けていただけます(早期胃がんは除く)。臓器や部位によっては発見しにくいがんもありますが、肺がんや悪性リンパ腫などは発見されやすく、1cm程度の小さな段階でも発見できる可能性があります。

専門性を活かし、より確実性の高いがん検査を目指す

検査の手順は、静脈に薬を注射した後に1時間ほど休んでいただき、薬が体内に分布したところで撮影に入ります。当センターでは確実性の高い検査を行うため、1度目の撮影の後、1時間待ってから再度撮影を行っています。検査の所要時間については、トータルで2時間半ほどをみておいていただくとよいでしょう。

専門性を活かし、より確実性の高いがん検査を目指す

時間を置いて2回撮影するのは、PET検査に使う薬が腸管に集積することで、病的な所見と区別がつきにくいことがあるためです。時間をおくことで薬は腸管を移動しますので、2回目の撮影でも変わらず集積がみられる場合は病的な所見と判断できます。
先述のとおり、PET-CT検査には得意ながん/不得意ながんがありますが、医師が検査を勧めるときは検査の意義があると判断したときですので、ぜひ検査を受けていただければと思います。当センターでは、東大阪市民の方々ならびに近隣の皆さんに貢献すべく、常に技術・知識のアップデートに励み、的確な診断情報が提供できるように努めております。お困りの際は遠慮なくご相談にいらしてください。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2025年2月17日
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