東大阪市の中核医療機関として地域医療を支える市立東大阪医療センターは、救急や周産期をはじめとする幅広い診療体制に加え、近年では手術支援ロボットやハイブリッド手術室の導入、認知症治療への対応など、医療の質を高める取り組みを重ねています。
地元で安心して医療を受けられる社会を守るため、各診療科をつなぐセンター機能の強化や設備更新にも力を入れ、限られた資源のなかで持続可能な地域医療の実現を目指す同センターについて、院長の中 隆先生に伺いました。
市立東大阪医療センターは、1949年に開設した市民病院が始まりです。当時の名称は布施市民病院でしたが、1967年に東大阪市立中央病院へ改称し、1998年には現在地へ新築移転して東大阪市立総合病院となりました。その後、2016年10月に地方独立行政法人へ移行し、現在の市立東大阪医療センターが誕生しました。
当センターは現在、東大阪市のほぼ中央に位置し、中河内医療圏における中核的な医療機関としての役割を担っています。地域がん診療連携拠点病院やがんゲノム医療連携病院、地域医療支援病院、地域周産期母子医療センターなどさまざまな指定を受けており、地域になくてはならない医療を守れるよう、体制を整えています。
近年では、ICUの改修やハイブリッド手術室の開設、また手術支援ロボットの2台目を導入するなど、高度な医療提供のため進化を続けています。
当センターは、地域医療支援病院として指定を受けており、救急医療の提供は重要な役割の1つです。夜間や休日においても地域の受け皿としての役割を果たし、二次救急(入院や手術が必要な中等症から重症の患者さんに対応する救急医療)に限らず患者さんを受け入れています。
2017年には心臓血管外科を新設し、それまで大阪市内の病院に搬送していた大動脈解離などの緊急疾患にも院内で対応できるようになりました。循環器内科との連携も密に行っており、ハートセンターの枠組みのもとで、2025年11月からは24時間365日、救急搬送に両科医師が当直し、診断から手術、術後のケアまで一貫して行える体制を整えています。
また、地域の医療を守るうえで重要となるのが周産期医療です。当センターは地域周産期母子医療センターとしての役割を担っていますが、人材不足の問題などにより一時は産婦人科が廃止となる可能性が浮上する危機がありました。
しかし、ハイリスクな妊娠や緊急の際に高度な周産期医療を担える病院がなければ、地域で安心してお産をすることは難しくなります。そのため、体制を立て直し、現在は周産期センターを開設して24時間体制のもと、ハイリスク分娩を含む妊娠、出産、新生児の医療を提供しています。当センターは隣接する中河内救命救急センターとの連携体制もあり、生命に関わるような出血等の緊急の際にもスムーズな対応が可能です。これからも地域の皆さんに安心していただけるよう、役目を果たしていきたいと考えています。
市立東大阪医療センターは、診療科のほかにもさまざまな“センター”機能を整備しており、診療科の枠を越え、複数の専門分野が協力して一人の患者さんを診る体制づくりに取り組んでいます。こうした連携は、専門性の高い診療を効率よく提供するだけでなく、患者さんにとっての利便性や安心感にもつながります。
たとえば“末梢血管センター”では、血管外科、皮膚科、放射線科が共同で診療にあたります。末梢血管の病気はどの診療科を受診すればよいのかが分かりにくいことも多いのですが、センター機能を通じて適切な診療につなげることで、患者さんの不安を和らげています。
また、“ヘルニアセンター”では、鼠径ヘルニアなどの腹圧性疾患に対して集中的に対応する体制を設けており、手術件数も着実に増加しています。ほかにも、ハートセンターや消化器センター、血液浄化センターなど多くのセンターがあり、いずれにおいても単独の診療科では対応が難しい領域を複数の専門で支えることで、より実効性の高い医療提供を実現しています。
当センターでは、時代の変化や医療ニーズに応じて、設備や機能の更新にも取り組んでいます。2023年にはアルツハイマー型認知症に対する新たな治療薬が承認され、それに対応するためにPET-CT装置の入れ替えを行いました。本来であれば設備投資を控える選択もあり得ましたが、認知症という重要な社会課題に応えるため導入を決断しました。
この治療は副作用のリスクもあるため、脳神経内科、精神科、放射線科、脳神経外科との密な連携体制が求められます。現在では、地域で同様の対応が可能な施設が限られていることもあり、患者さんからのニーズも高まっています。
さらに、低侵襲手術に対応する手術支援ロボット“ダヴィンチ”も2台体制となりました。これによって特に泌尿器科、消化器外科、婦人科領域を中心に、身体への負担を抑えた治療が実現できるようになっています。すでに導入から一定の症例数を重ねており、今後もさらなる活用が見込んでいます。
また、救急体制の強化のため、現在は複数の処置室を備えた救急エリアの改修計画を進めています。並行してHCU(高度治療室)の新設も予定しており、より重症な患者さんへの対応力を高める構想です。
医療の現場に身を置くなかで、特に印象に残っている出来事があります。以前、離島医療の実態を視察するため、島根県の隠岐の島を訪れたことがありました。そこでは医師が非常に少なく、外科医が産婦人科を兼任するような状況が実際に起きていました。医療の有無が住民の生活そのものを左右する様子を目の当たりにし、医療の本質とは何かを改めて考えさせられました。
当センターも、都市部にあるとはいえ決して医療資源が潤沢な地域ではありません。そのようななかで、限られた人員・設備をいかに有効に生かすかが問われています。職員の努力で病院設備の更新や美装も進めており、そうした小さな改善の積み重ねが、医療従事者の働きやすさや患者さんの安心につながると信じています。また、情報発信についても、積極的に取り組んでいきたいと考えています。動画による疾患解説や、採用広報もその一環です。
東大阪の患者さんが、わざわざ大阪市内まで行かずとも、地元で安心して医療を受けられる――。そのために、当センターが果たすべき役割は非常に大きいと感じております。これからも地域の「命のライフライン」として、必要とされる医療を丁寧に提供し続けてまいります。
*写真提供:市立東大阪医療センター
市立東大阪医療センター 院長
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