富山県のがん診療を支える
富山大学附属病院
複雑化するがん診療
――センターを細分化し専門的で高度な医療を実現する
医療の進歩によって以前より治せるがんが増えてきているものの、そのぶん、がん診療は複雑化しています。たとえば、従来の抗がん薬に加え、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬といった新しい治療薬が使えるようになったことで、これらに伴う特別な副作用への対応が求められるようになってきました。また、薬物療法だけでなく、ロボット支援下手術など高度な外科的技術にも対応する必要があります。このように複雑化するがん診療に対応すべく、当院では2020年に総合がんセンターが設立されました。分野ごとに分かれた29のセンター*を備え、専門的な医療が提供できる体制を整えています。
県内におけるがん診療の
“最後の砦”となるべく尽力する
富山大学附属病院は、富山県内唯一*の特定機能病院として、質の高い先進医療を提供しています。大学病院ならではの臨床研究や治験にも対応し、希少がんの診療も可能です。治療だけでなく副作用対策、設備などをしっかりと整え、全力でがん治療に取り組んでいくことをお約束します。がんの可能性があると言われた方や、実際にがんと診断されてお困りの方は、ぜひ当院にご相談ください。
富山大学附属病院の
総合がんセンターにおける膵臓/胆道がん・
乳がん・肺がん・前立腺がん
の治療
膵臓がん・胆道がんの治療
高い診断レベルを維持し、膵臓がん・胆道がんの早期発見に挑む
膵臓がんや胆道がんは早期発見が非常に難しく、また手術で取り切れない状態まで進行するのが早いがんです。とはいえ、根治を目指すには手術が必要ですから、我々はまず“手術ができる状態で見つけること”を重要視し、日々技術の研鑽および研究を行っています。膵臓がん・胆道がんの検査/診断では超音波内視鏡検査(EUS)が重要ですが、診断は決して簡単ではなく、的確な診断には高い技量が求められます。
当院では、日本膵臓学会認定指導医および日本胆道学会認定指導医*が中心となり、精度の高い診断・早期発見に努めています。内視鏡診断治療において膵臓と胆道の双方の指導医資格を持つ医師が在籍しているのは富山県で当院のみ**です。
なお、膵臓がんの確定診断には、超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)という方法で組織を採取する必要があり、私(安田 一朗)はこの検査が日本で普及する前から研究を行ってきました。それゆえ、検査精度には人一倍の自信があります。膵臓がん・胆道がんの疑いを指摘された方は、ぜひ当院へ精密検査にいらしてください。
術前検査はおおよそ1週間以内に完了――抜群の連携で迅速に治療へつなげる
当院では迅速な治療を心がけており、受診いただいた当日に血液検査と画像検査(CT検査やMRI検査)を実施します。がんを疑う所見がある場合は後日EUSを行いますが、多くは1週間以内に全ての検査が終了します。診断がついたら通常、翌週には治療方針を決定し、治療を進めていきます。規模の大きな病院ではありますが、各科の強固な連携により素早く治療につなげられる体制が構築できていますので、安心して受診いただければと思います。
肝胆膵外科高度技能専門医を中心に高水準の手術を実践する
膵臓や胆道はお腹の奥深くに位置する臓器で、なおかつ周囲には重要な血管が多いため、非常に複雑で難度の高い手術となります。また、膵臓がんや胆道がんの手術は、合併症の発症率が高いことも難しさの1つです。がんの切除を完遂し、さらに合併症を低減するには、医師の十分な経験と技量が求められます。当院では、日本肝胆膵外科学会認定の高度技能専門医が6名*在籍しており、高難度手術をより安全・確実に行える体制を整えています。
当院には、他院で「手術できない」と言われた患者さんが全国から来院されます。我々はたとえ進行しているがんであっても、決して治療を諦めません。ゲノムデータ(がん遺伝子パネル検査)によって治療薬が見つかることもありますので、当院では全例で組織を採取し、治療のチャンスを見出すべく尽力しています。困難を極める状況から手術ができる状態になった患者さんも何人もいらっしゃいます。どうか諦めず「絶対に治すぞ」という強い気持ちで我々と一緒に病気と闘っていきましょう。
乳がんの治療/乳房再建
遺伝子検査による予防を実践――検査からケアまで一貫して対応できる環境を整備
乳がんは、女性の9人に1人が経験するといわれ、その割合は年々増加傾向にあります。当院の大きな強みは、乳がんの検査から診断、治療、予防、術後のケアの全てを院内で一貫して対応できる体制を整えていることです。通常、適応範囲内であればできるだけ乳房を残す部分切除を行うことが多いものの、乳がんの中には再発しやすい遺伝性のがん(遺伝性乳がん卵巣がん)があり、その場合は全切除が推奨されます。遺伝性の乳がんかどうかを調べるには遺伝子検査が必要です。当院はがんゲノム医療拠点病院に指定されていますので、自施設にて遺伝子検査およびエキスパートパネル会議を実施し、がんに対する有効な薬剤を迅速に検討・提供しています。
“ありたい自分”でいられるように――アピアランスケアチームが人生をサポート
がんになるとどうしても治すことのみが目的になり、そのための犠牲は受け入れてしまう方が多くいらっしゃいます。ですが、私たちは“QOL(生活の質)を保つ”ことも診療の一環であり、重要だと考えます。患者さんの人生を保つべく、2023年には“アピアランスケアチーム”を発足しました。
アピアランスケアとは、がんやがん治療に伴う外見の変化(爪の変化や皮膚障害、脱毛など)による苦痛を和らげるケアです。チームは医師・看護師・薬剤師・心理士・理学療法士などそれぞれ専門性の異なるスタッフで構成されており、医学的・整容的なサポートはもちろん、患者さんが“ありたい自分”でいられるよう気持ちを整える心理的なサポートも行っています。診察の際には普段の生活やご家族のこと、仕事や社会生活のこと、たくさんお聞かせください。がんの根治を目指し、さらに人生も保てるようスタッフ一同、精いっぱいサポートさせていただきます。
“とことんキレイに美しく治す”をモットーに――患者さんに合った乳房再建を提案
乳がんにより乳房切除した方へは、乳房再建術のご提案・実施が可能です。再建法には自身の体の一部(自家組織)を使う方法と、人工物(シリコン)を使う方法があります。再建方法を決めるにあたっては、患者さんの思いに寄り添うことを何よりも大切にしています。乳房再建は、ただ胸を作ればよいわけではありません。胸がなくなったことによって感じるつらさは、患者さんそれぞれで異なります。当院では、患者さんが普段どのような生活を送っていて、どのような場面で不便さを感じるのか、あるいはどのような胸を作りたいのかなどをよく理解し、コストも含めて患者さんのご希望に沿ったご提案ができるよう努めています。
乳房再建をしないという選択肢も含め、多くの選択肢があることを患者さんやご家族に知っていただくために、『患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック』も作成しました。乳房再建に対応している医療機関は限られますが、今後全国に普及していくことで、乳房の摘出によるボディイメージの変化に悩まれる方が1人でも減ったら嬉しいです。当院には乳がん認定看護師*も在籍していますので、お一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談いただけたらと思います。
肺がんの治療
手術が困難な症例であってもチーム医療で根治を目指す
肺がんは一般的に治りにくいがんといわれますが、がんの中でも特に研究が進んでいる分野であり、複数の治療選択肢をうまく組み合わせることで根治が目指せる可能性は十分にあります。肺がんの治療法には主に手術・薬物療法・放射線治療があり、切除が可能な場合は手術を行いますが、“切除ができないと言われた症例”あるいは“切除ができるか/できないかの境界にある症例”をいかに根治に導くかが特定機能病院である当院の使命だと考えます。呼吸器内科では超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)による正確性の高い診断を実践し、放射線科では高精度放射線治療を実践。そして呼吸器外科においては、手術支援ロボットによる低侵襲(体への負担が少ない)手術やエネルギーデバイスの改良に取り組んでおり、各科が高度かつ先進的な医療を駆使することによって、まずは可能な限り“手術”につなげられるよう尽力しています。
切除ができないと判断した場合には、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬といった新しいタイプの薬を使ったり、放射線治療を行ったりして腫瘍の縮小を目指します。腫瘍が小さくなって手術ができるようになる例もありますので、「手術ができない」と言われた患者さんであっても決して諦めることなく治療戦略を立てるのが私たちの基本方針です。
なお、先述した“境界にある症例”においては、呼吸器内科/外科をはじめとする各科の医師の連携が非常に重要になります。それぞれの専門的な視点を生かしてよりよい治療を叶えるべく、2024年1月には新たに“呼吸器・胸郭センター”を立ち上げました。院内で呼吸器に携わる医師が結集し、新しい治療法や知見を共有し合いながらチームで“1人の患者さん”を多角的に診られる体制を整えています。
傷を縮小した手術や3Dモデルを用いた区域切除で低侵襲な手術を提供する
肺がんの手術方法には、開胸手術・胸腔鏡下手術・ロボット支援下手術があり、当院では、切除できると判断した肺がんには可能な限り体への負担が少ない方法を選択しています。“低侵襲手術”の考え方には2つあり、1つは胸に空ける孔をできるだけ少なく/小さくすること、そしてもう1つは、切除する肺の範囲を必要最小限にとどめることです。肺は右肺が3つ・左肺が2つの肺葉に分けられ、肺葉はさらに細かい“区域”に分けられます。がんができた区域のみを切除することで肺葉切除に比べて肺を多く残すことができ、体への負担も抑えられます。当院では、2cm以下の肺がんは基本的に区域切除を行い、肺機能の温存に努めています。区域切除では繊細な手術操作が求められますが、全症例においてCT画像から肺血管の3Dモデルを作成することでより精度の高い手術が叶えられているのも特徴です。
肺がんの手術と聞くと「大きな手術で大変だ」というイメージを持たれる方が多いと思いますが、当院では術後おおむね1週間程度で退院が可能です(低侵襲手術の場合)。実際、80歳代、90歳代で手術を受けられた方もいらっしゃいますので、「もう先は長くないから」などとは思わず、一度ご相談ください。当院だからこそ提供できる医療を駆使し、責任をもって診療にあたらせていただきます。
前立腺がんの治療
幅広い治療が可能な体制を整え、集学的治療を提供する
前立腺がんに治療には、手術・放射線治療・薬物療法、監視療法*などがあります。当院の強みは幅広い治療選択肢をご提案でき、かつ複数の治療法を効率的に組み合わせた“集学的治療”をご提供できることです。前立腺がんは「限局がん(前立腺の中にとどまっている初期のがん)にはこの治療」「進行がんにはこの治療」というようにがんの性状ごとに選択肢が決まっているわけではありません。治療方針については、がんの進行の程度や悪性度、そしてご本人やご家族の希望なども丁寧に伺いながら決定していきます。転移のある前立腺がんに対しては抗がん薬などによる薬物療法を行いますが、当院では現在**、保険診療で使える薬は全て使用できる環境を整えています。複数の薬がありますので、副作用・コスト・効果などを丁寧にご説明しながら、患者さんとよく相談して決めています。
当院はがんゲノム医療拠点病院として、がんゲノム医療にも注力しています。前立腺がんの患者さんの中には特定の遺伝子変異があるケースもあり、その場合は新しいタイプの薬が効果を発揮するといわれています。BRCA変異の前立腺がん、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する前立腺がんなど、高い専門性を必要とする前立腺がんにも対応可能ですので、治療でお困りのことがあればぜひ当院へご相談ください。
資格取得者の複数在籍×ダ・ヴィンチ2台体制により素早く手術につなげる
近年では手術支援ロボットによるロボット支援下手術が普及しており、当院でも積極的に活用しています。泌尿器科にはロボット支援下手術に対応できる医師が6名*在籍しています。6名のうち誰かは基本的に院内にいますので、「対応できる医師の不在により〇日は手術不可」ということが起こらない体制が構築できています。また、手術支援ロボット(ダ・ヴィンチ)を2台*導入しており、より多くの患者さんにロボット支援下手術を受けていただけるようにしています。当院ではロボット支援下手術に対応している全ての科で手術のスケジュールをタイムリーに共有しており、効率的に活用できるシステムとなっています。このような体制の整備により手術までの待機期間が短縮でき、泌尿器科では診断からおおむね2か月以内には手術が実施できています。
がんの疑いを指摘された方、あるいはがんと診断された方は、さまざまな不安を抱えておられることと思います。当科では前立腺がんに限らず泌尿器科がんの疑いがある患者さんを広く受け入れておりますので、お一人で悩まずに、ぜひご相談に来ていただければと思います。
- 公開日:2024/10/01