日本における乳がん診療

日本における乳がん診療

安心できる検査・治療の必要性
――乳がんから命を守るために

日本では40歳以上の女性に対して2年に1回の乳がん検診受診が推奨されています。しかし2022年時点での受診率は40%程度にとどまり、受診の遅れによって乳がんが進行してしまうことが懸念されます。自治体では乳がん検診を促す取り組みが行われていますが、「面倒だから」「検査による痛みが怖いから」などの理由で受診に至らない方が多いのが現状です。また、中には男性スタッフによる検査に抵抗を感じる方もいるかもしれません。乳がん検診の受診率向上には、いかに安心して検査を受けられる環境を整えるかが課題の1つといえるでしょう。
また乳がんの治療においては、乳がんの根治を目指すだけでなく、妊孕性にんようせい(妊娠するための力)や乳房温存などを考慮して患者さんの希望に合わせた治療計画を立てることが重要です。患者さんが納得して治療選択を行うためにも相談しやすい医師・医療スタッフの存在は必要不可欠です。乳がんから命や健康を守るためにも、医療機関にはよりいっそう患者さんの思いや生活に寄り添うことが求められています。

安心・信頼できる乳がん診療を目指す
菊名記念病院

安心・信頼できる乳がん診療を目指す菊名記念病院

“女性のこころとからだ”を総合的に診察
――女性外来・乳腺センターでの乳がん治療

菊名記念病院は1991年の開院以来、数十年にわたり地域医療を支えてまいりました。よりいっそう信頼・安心していただける病院を目指して、2021年には女性外来・乳腺センターを開設しました。乳がんをはじめ、女性特有の病気を抱える患者さんの中には、病気のことを話してもなかなか理解してもらえなかったり、誰にも話せず苦しい思いをしていたりと、悩みを抱える方が多くいらっしゃいます。そのような“女性のこころとからだ”を総合的に診察するべく、当センターが誕生しました。乳房超音波検査の経験を積んできたスタッフを充実させ、正確な診断・適切に治療につなげる体制を整えています。また多数の親しみやすいスタッフもおり、アットホームな雰囲気の中で治療に臨んでいただけると思います。

菊名記念病院の
乳がん治療

乳がんの検査・診断

検診は女性スタッフが対応――患者さんの不安軽減に取り組む

乳がんの検査・診断

ほとんどの早期乳がんには痛み・しこりなどの自覚症状が伴わないため、定期的に乳がん検診を受け、早期発見・早期治療につなげることが非常に重要です。
乳がんの治療では、性別を問わず信頼できる医師、たとえば実績のある先生や話しやすい先生の下で治療を受けるのがよいでしょう。しかし、診断がついていない段階で検診を受ける場合、まずは女性スタッフに対応してもらいたいと思うことが多いのではないでしょうか。当センターでは、超音波検査やマンモグラフィを担当する検査技師や看護師を女性スタッフのみで構成しています。治療が始まってからは男性の看護師や薬剤師などもサポートしますが、治療の入り口となる検診では女性スタッフが対応することで、受診をためらっている方にも安心して検診を受けていただける環境づくりに取り組んでいます。

負担を最小限に抑えつつ、精度の高い画像診断を目指す

乳がんの検査・診断

死亡率の減少効果が証明されているマンモグラフィや、マンモグラフィとの併用で検査精度が上がると報告されている超音波検査は、早期乳がんの発見につながりやすいため非常に重要な検査です。当院では患者さんの負担を最小限に抑えながら的確な画像診断を行うことを心がけております。
マンモグラフィの読影には乳腺専門医*2名が従事しており、症例によっては、放射線科医師も読影に携わっています。いずれも検診マンモグラフィ読影認定医**の資格を有しており、精度の高い画像診断を行っていると自負しています(2024年5月時点)。
なお、患者さんによってはマンモグラフィではなく超音波検査で代替して差し支えない場合もありますので、痛みが心配な場合はお気軽にご相談ください。
要精密検査となった場合は、より詳しくがんを疑う組織を調べるため、組織を採取して顕微鏡で詳しく調べる生検やMRI・CTなどを用いた精密検査も行っております。予約がなかなか取れず診断が遅れてしまうことがないよう、各検査部門との連携のもと速やかに診断を行うことができることは当院の強みの1つです。

*

日本乳癌学会において、所定の研修カリキュラムを経て、十分な期間の修練と診療経験、学会・論文発表などの研究業績を持ち、かつ専門医試験において十分な知識があると認定された医師。

**

日本乳がん検診精度管理中央機構によって、マンモグラム読影を行うに十分な実力があることが認定された医師。

解説医師プロフィール

乳がんに対する治療

術後の生活に配慮した乳がん治療

乳がんに対する治療

乳がんの治療は手術治療、薬物治療、放射線治療の3本柱で行います。中でも手術は比較的短い期間でがん病巣を摘除できることがメリットです。術式にもよりますが部分切除の場合、当院では3泊4日の入院で手術することができます。
近年では病変以外の乳房を残す乳房温存術や、人工物(インプラント)やご自身の体の一部(自家組織)を用いて乳房のようなふくらみをつくる乳房再建術を行うことで、術後の乳房の形にも配慮した治療が可能になりました。当院では、再建術としてインプラントを用いた同時再建術も選択できます。症例によっては、術後の写真をご覧いただくことも可能ですので「これくらいの変形だったら許容できるかな」「こんなに変形するのであれば、全体を切除して、再建のほうがいいかな」などとご自身に問いかけながら一緒に術式を選択していきましょう。

“乳房の形を残したい”――思いに応える乳がん治療を追求

乳房温存術を行う際、組織を広く切除して欠損部が大きくなると、乳房のへこみも大きくなります。乳房の形をあんこの入ったおまんじゅうにたとえると、イメージしやすいかもしれません。がんができるのは、あんこの部分です。皮を切り、あんこを少しくり抜いてから再び皮を閉じると、中身が減った分だけ皮の表面がへこんで見えてしまいます。そのため、乳房温存術はがんが小さいほど適応しやすい術式といえますが、大きい場合でも術前化学療法(手術前に行う薬物治療)や内分泌療法(ホルモン療法)を組み合わせれば、乳房を温存できる可能性があります。術後の乳房の形に配慮して、がんをしっかり取り除くとともに組織を大きく切除しすぎない手術で、「なるべく乳房の形を残したい」という患者さんのニーズに、安心と満足をもって応えられれば幸いです。

乳がんに対する治療

上記でも述べましたように、乳房全体を切除する場合は乳房再建術を行うこともでき、当院ではインプラントによる再建術の施設認定を取得しています。
自家組織を用いる方法では乳房以外から組織を移植するため、インプラントを用いる方法のほうが体への負担が少なく入院期間も短く済み、患者さんにとっては比較的臨みやすい方法だといえます。一方で、ごくまれにリンパ腫という合併症が発生するリスクもありますので、起こり得る合併症については丁寧に説明を行って治療を進めます。
当院は医師をはじめ、看護師、薬剤師、理学療法士などが協力して患者さんをサポートしています。困ったことがあれば私たちに相談しながら一緒に治療していきましょう。

解説医師プロフィール

乳がん患者さんへのサポート

女性同士だからこそ話しやすい“妊孕性温存”について

乳がん患者さんへのサポート乳がん患者さんへのサポート

首都圏では高齢出産の方も多く、妊娠や出産の時期と乳がんになる年齢が重なってしまうことも珍しくありません。乳がん治療を行ううえで妊孕性(妊娠するための力)が低下するのでは、と心配される患者さんもいらっしゃるかと思います。
当院では、抗がん薬治療後に妊娠・出産を可能とする方法の1つとして、専門の医療機関と連携のうえ、治療開始前に卵巣や受精卵を凍結保存する方法を提案しています。乳がんの治療を控えながら、卵子凍結保存などを行っていくことはスケジュール上大変ですが、それ以前に、将来的に子どもを出産したいか、あるいは現実的に治療後の出産が可能かなど、センシティブな話し合いが必要です。大事なことですので、ある程度時間をかけて情報提供を行い、取り組みたいと考えています。女性の医師だからこそ話してもらいやすいことでもあると思いますので、ぜひ当院を頼っていただけるとうれしいです。

スピーディーな対応を実現する“小回りのよさ”

乳がん患者さんへのサポート

当院の特徴は、大きな病院にはない“小回りのよさ”です。大きな病院では、乳がんを疑う場合でも当日中に針生検を受けられなかったり、治療のスケジュールが病院側の都合で決められたりすることも多いのですが、当院はなるべく患者さんの希望や通院のタイミングに合わせて検査や治療を組んでいくよう努めています。仕事や家事と、通院との両立は、時間的にも体力的にも大変だと思いますが、この大変な時期をなるべくストレスの少ない状態で乗り越えていただけるよう、病院の特徴を生かして応援させていただいております。

治療~術後も患者さんの“こころとからだ”を総合的にサポート

抗がん薬治療では、髪や眉毛が抜けたり、爪が剥がれたり、治療後も生えてくる髪の質が悪くなるなど、外見に影響をきたすことがあります。命に関わるものではありませんが、治療を億劫おっくうに感じてしまう患者さんも少なくないでしょう。こうした外見の変化に関するストレスを軽減させる“アピアランス(外見)ケア”の重要性は近年注目されています。当院でも、カツラ(医療用ウィッグ)やネイル、術後に着ける下着のパンフレットなどを取り寄せて配布するといった、患者さんへの情報提供に力を入れています。
また術後に腕や肩を動かさずにいると肩関節が固まって肩が上がりにくくなってしまう恐れがあります。当院では術後早期から専門のスタッフが付いて、痛みなどの状況を見ながらリハビリテーションを行っています。術後安定期には、リハビリスタッフと乳腺外科医師が協力して、術後の状態に配慮した運動をご案内する『乳癌術後体操』も月に1回のペースで開催しています。術後もよりよい生活を過ごせるよう、スタッフ一丸となって精神的にも身体的にもサポートしますのでご安心ください。

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