DOCTOR’S
STORIES
救急治療に尽力し、患者さんと向き合い続ける石崎 律子先生のストーリー
私が具体的に医師になることを考え始めたのは、高校生のときでした。私にとって医師という仕事は、専門性を求められ、分かりやすい指標のある職業だったのです。そして、読書や映画、演劇などが好きだったこともあり、私に向いていると思いました。医師は、ある面では科学的ですが文学的な面もある、“人対人”の仕事だからです。
高校卒業後は東京女子医科大学に進学しました。大学では語学の授業もいくつかあって、私はその中からグループワークを選択しました。3~4人で先生を囲んで食事をしながら語り合うという、講義を受けるよりも気楽なものだったのです。グループワークに参加するには、試験で一定の点数を取る必要がありましたが、私は喜んで受験しました。
そのとき、たまたま指導を担当されていた
内山先生のほかに影響を受けた先生は2人いらっしゃいます。1人は、当時同じ診療グループに属しており、今も父のように慕っている
もう1人は、大学在学中に1年ほど在籍した釧路脳神経外科病院の
釧路脳神経外科病院に入職した当初は、数々のカルチャーショックを体験しました。まず、北海道と聞いて雪深い広大な土地をイメージされる方は多いかもしれませんが、釧路は雪があまり積もらない地域です。それにもかかわらず非常に寒く、冬は道路一面が凍り付いていることが印象的でした。すっかり凍り付くので、小学生たちが校庭でスケートをしていたほどです。
医師としては、道内の医療格差に驚きました。釧路より東に脳神経外科を専門とする病院がなかったため、釧路より東にお住まいの患者さんたちは、遠方から当院に通院されていました。地域によっては鉄道が通っておらず、バスも1日1便しかないなど交通の便が悪いため、通院は過酷だったろうと思います。たとえば、朝6時ごろのバスで病院に着いたご高齢の患者さんが、朝ご飯を食べながら診察を待ち、14時台に出るバスで帰っていくのです。外来では最初に患者さんの住所を確認して、検査をいつ受けてもらえばよいかなど、より丁寧に診療の計画を立てる必要がありました。
また、救急搬送する場合も、搬送先の病院まで距離があることから、救急車が病院に到着するまでに時間を要するという課題があります。人口が多い都心の病院では受け入れ先がなかなか見つからず、断った病院の責任を追求する報道なども見られますが、地域によって環境や課題は異なるのです。こういった経験から、私は、物事をさまざまな面から見るようになりました。
私が心がけていることは、“当たり前のことを当たり前に”ということです。たとえば、理想的で完璧な手術があったとしても、成功率が低いといったリスクを伴う場合、その理想を目指すことが100%正しいわけではありません。プラスアルファの仕事をするために、誰かや何かを犠牲にしてはならないということを念頭に置き、確実に行うべきことは当たり前に行う、ということを心がけています。
特に外科はチームですから、患者さんも、看護師などのコメディカルスタッフも含めて、皆がハッピーになれる医療を提供すべきだと考えます。自分本位に振舞って「すごい先生ですね」と言われるような医師にはなりたくないのです。
私が医師になることを選んだのは、家族と同じように自分の感性で食べていくことをあきらめたからでした。だから、医師が偉いという考え方に、違和感を持っているのかもしれません。私の個人的な考えとしては、医師は医療従事者のてっぺんに立とうとするのではなく、チーム全員に納得してもらえるような“当たり前”の仕事をすべきだと思っています。
私が脳神経外科を続けている原動力は、やはり脳神経外科が好きだからだと思います。患者さんの中には、話を理解することや、読み書き、計算などができなくなって、社会生活に復帰することが困難な方もいらっしゃいます。サポートするのは体力的に大変なこともありますが、大きなやりがいも感じます。
救急治療を受けた患者さんは「つらいけど大丈夫」などと我慢せず「つらい」「痛い」と正直に訴えてこられます。悪気なくきつい言い方をする患者さんもいらっしゃいますが、素直な言葉だと分かっているからこそ、大きなストレスはありません。そういうとき、医師と患者さんの関係は一対一の“人と人”になって、「一緒に新しい生活環境をつくっていきましょう」「こんな状況だけど工夫して生活していきましょう」などと、寄り添うことができます。
これからも、迅速な救急治療に力を尽くすとともに、患者さん一人ひとりにしっかりと向き合っていきたいと思います。
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菊名記念病院
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