神奈川県横浜市に位置する菊名記念病院は、地域に根を張り、年間約7,400台の救急車を受け入れるなど、救急医療に積極的に取り組んできました。そのなかでも、多数の救急搬送を受け入れている脳神経外科は、高齢化に伴い増加している脳梗塞の患者さんの治療に尽力しています*。
脳梗塞の治療では、検査や治療への迅速な対応が大切になるそうです。それはなぜなのでしょうか。今回は、菊名記念病院 脳神経外科の石崎 律子先生、武田 直人先生、今村 強先生に、同病院の脳神経外科の救急治療への取り組みについてお伺いしました。
*2017年度の救急搬送患者は7,373名
石崎先生:
近年の高齢化は、当院が位置する横浜市も例外ではありません。当院へ救急搬送される患者さんにも高齢の方が増えており、それに伴い脳卒中の患者さんの搬送も増しています。
今村先生:
脳卒中の中でも、近年は脳梗塞が圧倒的に多い印象があります。高血圧の管理が昔よりも適切に行われるようになったため、高血圧が原因の大部分を占める脳出血を起こす方は減少傾向にあるのです。一方、高齢化に伴って増加している病気が脳梗塞です。
石崎先生:
確かに、当院に搬送される脳卒中の患者さんの多くは脳梗塞の方です。また、脳出血を起こす方のなかには、血液をサラサラにする効果のある抗凝固薬による治療を受けている患者さんのコントロールがうまくいかず、脳出血を起こすことがありました。しかし近年は、より安全な薬を使用することが増えたために、ごく一部ではありますがこのような脳出血も減少しています。
石崎先生:
また、昔と比べてバイクや自動車の事故による怪我も少なくなったと感じます。シートベルトを使用する方が増えましたし、自転車に乗るときにヘルメットを着用する方も増えました。このように安全意識が変わったおかげで、外傷によって救急搬送される患者さんは減ってきていると思います。
武田先生:
そういった意味で、近年は脳梗塞の治療を迅速に行うことが、私たちの大きな役割のひとつです。脳梗塞以外では、脳神経外科の患者さんでは、転倒による急性硬膜下血腫*で搬送される高齢者が増えていると思います。
*急性硬膜下血腫:頭部打撲をきっかけに、脳の表面の血管から血腫(血液の塊)が形成される状態
今村先生:
当院では、救急車の搬送を積極的に受け入れており、日頃から救急隊との連携をはかっています。たとえば、2017年度には、当院全体で年間約7,400台の救急車を受け入れた実績があります*。
*2017年度の救急車の搬入件数は7,373件
石崎先生:
当院が位置する地域の救急隊の方たちは、患者さんを選別する意識が高いと思います。たとえば、脳卒中の患者さんであれば、搬送時に脳卒中かどうかをある程度判断したうえで搬送されるケースも少なくありません。
武田先生:
横浜市の救急隊は脳卒中を評価する「ストロークスケール」を使っています。ストロークスケールとは、患者さんの意識や麻痺の状態などから脳卒中かどうかを判断するツールです。合計の点数が高いほど、重症の脳卒中ということが判断できるようになっています。
武田先生:
脳梗塞の治療では、いかに迅速に治療を行うことができるかが大切になります。早期の治療によって脳の状態を改善できれば、後遺症を防ぐことができます。
近年、脳梗塞の治療では、t-PA静注療法を行うことがあります。t-PA静注療法とは、脳の血管に詰まった血栓(血の塊)を薬によって溶かす治療法です。t-PA静注療法は症状が現れてから4.5時間以内に治療を行うことが推奨されています。そのため、なるべく早く治療を行う必要があるのです。
今村先生:
ただし、t-PA静注療法を行うためには、発症時間や患者さんの状態を正確に把握する必要があります。当院では、24時間、高度なMRI画像検査を行っています。たとえ夜中や早朝に搬送されたとしても画像診断によって患者さんの状態を正確に把握し、t-PA静注療法を行うことが可能か判断することができる体制を整えています。
武田先生:
画像検査について補足すると、当院にはCTとMRIがありますが、正確な診断のために、より精度の高いMRIを受けていただくケースが多いです。実際に、MRIによって、CTでは発見されなかった小脳梗塞が見つかるケースもあります。
石崎先生:
脳梗塞の治療では、お話ししたt-PA静注療法のほかにも、脳血管内治療も行っています。脳血管内治療とは、カテーテルを挿入し、詰まった血栓を回収する治療法です。
脳卒中の治療において昔と大きく異なる点は、従来は診断のために使用されていたカテーテルが、現在では治療のために用いられるようになったことだと思います。
今村先生:
脳卒中の領域では、今後はカテーテルによる治療がメインになっていくと思います。たとえば、血管が詰まっている領域が狭ければ、カテーテルによる脳血管内治療によって、回復する可能性があります。
石崎先生:
現状では、完全に死んでしまった脳を生き返らせる治療はありません。突然脳の血管が詰まったとしても、脳が完全に死んでいなければ、具合は悪くならないケースもあります。このような場合には、脳血管内治療を行い、脳が損傷をきたしている領域を広げないようにすることで、後遺症を起こすことなく回復することもあります。
武田先生:
ただし、脳梗塞が起こっている領域が広い場合、脳血管内治療を行うことで重症化してしまうことがあるので注意が必要です。t-PA静注療法と同じように、画像診断によって、治療を行っても問題がないか見極めることが大切になるでしょう。
石崎先生:
当院の脳神経外科では、くも膜下出血を起こす可能性のある未破裂脳動脈瘤の治療も行っています。未破裂脳動脈瘤の治療には、主に開頭クリッピング術による手術と、カテーテルによる血管内治療があります。開頭クリッピング術とは、開頭し、動脈瘤の根元をクリップで挟んで脳動脈瘤をつぶす治療です。一方、血管内治療とは、血管内に挿入したカテーテルから脳動脈瘤にコイルなどを詰めて固まらせ、動脈瘤の破裂を防ぐ治療法です。
当院では、患者さんの状態に応じて、どちらの治療法も行っています。
今村先生:
開頭クリッピング術による手術が適している場合もあれば、血管内治療が適している場合もあります。どちらかにこだわるわけではなく、患者さんに適した治療を行うようにしています。たとえば、開頭手術を行ったほうが安全に早く治療ができるのであれば、開頭手術を選択することもあります。
今村先生:
当院の脳神経外科では、手術の際にナビゲーションシステムを導入することで、より安全で精度の高い手術ができるようになっています。病変部やその周辺を立体的に映し出すナビゲーションシステムによって、より正確に手術する場所を把握することができます。
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