概要
脳動脈瘤とは、脳の血管(動脈)の一部が風船のように膨らんだ状態です。外から見れば“こぶ”のように見えるので動脈瘤と呼ばれますが、実際にはその風船の中を動脈の血液が渦を巻きながら流れています。主に脳の血管が枝分かれする部位に発生しますが、枝分かれとは関係ない部分にできることもあります。
脳動脈瘤ができる原因として、加齢、高血圧や喫煙、動脈硬化*などが関与していると考えられていますが、詳しい原因については明らかになっていません。生まれつきの遺伝的な素因が関与している事例もありますが、必ずしもそうとは限らず、誰にでも発生し得る病気です。
脳動脈瘤ができても通常、症状が現れません。そのため、別の理由で受けた検査や、脳ドックでのMRI検査などの画像検査ではじめて見つかることがほとんどです。動脈瘤の位置や状態によっては、脳動脈瘤が脳神経を圧迫して物が二重に見える、まぶたが開かないなどの症状が生じることがあります。また非常にまれですが、巨大化した動脈瘤の場合は、それによって脳が圧迫されて麻痺などの症状で発見されることもあります。
脳動脈瘤が破裂していない状態を “未破裂脳動脈瘤”といいます。症状がない未破裂脳動脈瘤はそれ自体が問題になることは多くありませんが、破裂すると“くも膜下出血”を発症し、命に関わる危険な状態になります。そのため、破裂のリスクが高いと考えられる場合は、開頭手術や血管内治療などの外科的治療が行われます。
*動脈硬化:動脈の血管が硬くなって弾力性が失われた状態。
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原因
脳動脈瘤が生じやすいのは血管が枝分かれした部位です。枝分かれ部分の血管の壁に血流の負荷がかかり、壁が脆くなって徐々にこぶのように膨らむと考えられています。
起こりやすいのは脳の深い部分にある中大脳動脈、内頸動脈、前交通動脈、脳底動脈、椎骨動脈などです。そのほか枝分かれした部位以外に、血管全体が紡錘状に膨らむタイプの脳動脈瘤もあります。
多くは原因不明ですが、要因としては加齢、高血圧や喫煙、動脈硬化が考えられています。そのほか、生まれつき脳の血管が脆い病気(多発性嚢胞腎や脳動静脈奇形など)、動静脈シャント疾患やもやもや病、脳腫瘍などの病気が原因で頭蓋内の血流が増加したり、外傷や感染によって血管壁が傷ついたことがきっかけになったりして脳動脈瘤ができることもあります。
症状
内頸動脈にできる脳動脈瘤では、その成長過程やサイズなどさまざまな条件によって、まぶたの開閉などに関わる動眼神経を圧迫することがあります。その結果、物が二重に見えたり、まぶたが開かなくなったりするなどの目の症状が現れることがあります。しかし、それ以外のほとんどの脳動脈瘤の多くは無症状です。
脳動脈瘤は、風船がいつか割れるように破裂することがあり、この破裂がくも膜下出血を引き起こします。くも膜下出血は突然バットで殴られたような激しい頭痛を引き起こすほか、吐き気や嘔吐がみられます。出血の程度が強い場合にはすぐに意識障害に至ることがあるほか、昏睡状態に陥り命に関わる危険性があります。また、治療によって回復した場合でも、後遺症が残るリスクも高いといわれています。
検査・診断
脳動脈瘤は無症状のことが多く、脳ドックなどやほかの頭部の病気がきっかけで発見されるといわれています。
脳ドックでは、頭部MRIやMR血管撮影(MRA)などの画像検査が行われます。頭部MRI検査では、脳の断面を撮影し、脳に脳腫瘍や脳卒中などの病気の危険性がないかを確認します。必要に応じて造影剤*を投与して撮像することもあります。一方、MRAは造影剤やカテーテル**を使わずに脳の血管を確認できる検査で、脳動脈瘤や脳血管の狭窄など脳の血管に異常がないかを調べます。MRAで脳動脈瘤が発見された場合は、脳動脈瘤の大きさや形状、発生部位をより正確に確認するために、造影剤を使用したCT血管撮影(CTA)やカテーテルを用いた脳血管撮影を行います。
*造影剤:体の異常を見つけやすくするために使用される薬。
**カテーテル:血管に挿入する細い管状の医療器具のこと。診断や治療、薬剤投与などに幅広く使用される。
治療
脳動脈瘤の治療法としては外科的治療があります。
脳動脈瘤は破裂してくも膜下出血を起こすリスクがありますが、破裂に至る確率は平均すると年間1%程度といわれています。ただし、実際には動脈瘤の部位や形状などの条件によるため、その確率は千差万別です。一方で、ほとんどの場合、破裂する前には前兆がありません。現在のところ、脳動脈瘤の破裂を防ぐ薬を用いた内科的治療はなく、日常生活で行える予防方法も確立されていません。
そこで、あらかじめ手術をすることで、破裂の心配をなくすことができます。これらのことを踏まえて、まだ症状がない、破裂していない脳動脈瘤の場合は、手術による合併症のリスクと治療効果を十分に比較検討したうえで、個々の患者に適した治療方針を決めていきます。
一般的に、脳動脈瘤の最大径が5〜7mmよりも大きい場合は外科的治療がすすめられます。また、最大径が5mm未満であっても、過去の病歴や家族歴、脳動脈瘤の形や発生部位などから破裂の危険性が高い脳動脈瘤と推測される場合は外科的治療が検討されます。
外科的治療
外科的治療では、主に開頭手術か血管内治療が行われます。いずれの治療も、脳動脈瘤への血流を遮断して破裂しないようにします。
開頭手術(開頭クリッピング術)
開頭クリッピング術は全身麻酔下で行われる手術です。まず皮膚を切開し、頭蓋骨の一部に窓をあけます。脳動脈瘤の根元を“クリップ”という小さく細い留め具で挟み込み、脳動脈瘤への血流を遮断します。クリップは主にチタン製で、人体には無害のものを使用し、永久的に頭の中に置いておきます。最後は頭蓋骨を元の位置に戻し、皮膚を縫合します。
現代の手術では、髪の毛をほとんど剃る必要がないため、退院時には外見上手術の跡はほとんど分からなくなります。動脈瘤の状況によっては、頭皮などほかの部位の血管を使用してバイパスをする手技を組み合わせることもあります。
開頭手術は、皮膚や頭蓋骨を切開する必要がありますが、手術した直後から効果が得られ、永続的な根治性が高いという長所があります。
血管内治療
血管内治療も通常は全身麻酔で行われます。多くの場合、鼠径部***の血管から細いカテーテルを脳動脈瘤まで通し、脳動脈瘤の内部にコイルを詰めることで、脳動脈瘤への血流を遮断します。そのほか、動脈瘤ができた血管部分にステントという網状の金属を留置し、コイルと組み合わせて行う治療もあります。動脈瘤の部位と大きさによっては、ステントだけで動脈瘤を消失させる特殊な方法もあります。血管内に人工物を留置するため、治療後の一定期間は抗血栓薬の服用が必要となります。
血管内治療の最大の利点は、頭蓋骨を開く必要がないため、身体的な負担が比較的少ないことです。しかし、脳動脈瘤の形状や、正常な分枝血管との位置関係などによっては、この治療法が適さない場合もあります。
また、血管内治療では、脳動脈瘤への血流が完全に遮断できなかったり、再発したりする可能性があるため、治療後も定期的な経過観察が必要となります。
***鼠径部:脚の付け根の部分。
経過観察
脳動脈瘤が見つかってもすぐに外科的治療を行わない場合は、診断から6か月以内に再び脳動脈瘤の大きさや形の変化などを観察します。ここで何らかの変化がみられれば外科的治療を考慮し、変化がない場合は少なくとも1年ごとに経過観察を行います。
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