堺市の医療
がんの診療体制は充実しているものの
検診受診率の低さが課題
堺市には国が指定する“地域がん診療連携拠点病院”が2施設、大阪府が指定する“大阪府がん診療拠点病院”が2施設あり、がん診療の体制が充実しています(2024年7月時点)。また、内視鏡検査を提供している医療機関の数も多く、消化器がんに関しては地域のクリニックで発見されるケースも増加していくと予想されます。
受診に至った方に対してのがん治療が充実している一方で、がん検診の受診率の低さが課題です。大阪府全体では増加傾向であるものの、それでも全国平均には届いていません。特に堺市においては、大阪府の平均受診率をも下回っている検診があるのが現状です。市によりがん検診無償化などの取り組みがされていますが、よりいっそうの啓発活動が求められます。
堺市の医療を支える
ベルランド総合病院
“待たせない・断らない医療”を目指し診療科が連携して対応
ベルランド総合病院は、がん診療や救急医療、周産期医療を柱として堺市エリアの高度急性期医療を担う病院です。患者さんを“待たせない・断らない医療”をモットーに、日々の診療に取り組んでいます。
“5大がん”といわれる胃・大腸・肝臓・肺・乳房の手術件数は、大阪国際がんセンターや国が指定するがん診療連携拠点病院に次いで、大阪府でトップ10に入る手術件数を誇ります(2021年度実績)。また、2台の手術支援ロボット(DaVinci Xi)による低侵襲治療の推進や、診療科間の垣根が低く風通しのよい環境も当院の特色です。がん診療においては消化器科と泌尿器科、婦人科と泌尿器科など複数の診療科の連携が欠かせません。診療科ごとに精通した医師が揃っている当院では、診療科間のコラボレーションによって患者さんにより適した治療を提供できると自負しています。
片岡 亨 先生のインタビュー記事
ベルランド総合病院の
がん診療
肺がん・悪性胸膜中皮腫の診療
各分野の医師が連携して肺がん診療を行い、手術支援ロボットも活用
当院の肺がん診療の強みは、外科医だけでなく呼吸器内科医、放射線診断医、放射線治療医など各分野を専門とする医師が揃い、相互に連携していることです。診療科間の距離が近く、合同カンファレンスで患者さんごとに治療方針を検討しています。手術の前後に放射線治療や薬物療法を行う場合もあり、診療科間の密な連携が欠かせません。また院内に緩和ケア病棟も備えており、治療だけでなくその後のサポートまで当院で対応可能です。
当院に受診いただいたらまず検査を行い、呼吸器内科にて診断します。その後、手術適応があれば呼吸器外科で手術を行います。近年は肺がん治療においてもロボット支援下手術(ロボットアームを遠隔操作して行う手術)の適応が広がってきており、当院でも2台の手術支援ロボット(DaVinci Xi)を活用してロボット支援下手術を行っています。ロボット支援下手術は細かい作業がしやすいことから、より正確にがんを切除できます。また開胸手術より小さい傷で済むため、患者さんの体の負担を抑えることが可能です。
アメリカで経験を積んだ医師による悪性胸膜中皮腫治療
当院では希少がんである“悪性胸膜中皮腫”の診療を行っていることも強みです。悪性胸膜中皮腫は胸膜(肺が入っている胸腔を覆う膜)の細胞から発生するがんであり、治療が難しい病気とされています。がんの治療には薬物療法、外科手術、放射線治療が中心であり、転移がない場合は切除手術が適応となります。手術方法には片方の肺と胸膜を全て切除する“胸膜肺全摘除術”、外側の胸膜を切除し内側の胸膜を剥ぎ取って肺を温存する“胸膜切除/肺剥皮術”の2種類があり、高い技術が求められます。しかし悪性胸膜中皮腫の治療の難しさは、“手術そのものの複雑さ”に加え“術後管理の難しさ”にあります。正確な切除はもちろんのこと、質の高い術後管理により合併症を抑えなければよい治療とはいえません。私はアメリカで多くの診療経験を積んできました。そして現在では国内外から患者さんが当院に治療を受けにいらっしゃっており、ほかの医療機関からの手術依頼にも出張で対応しています。“複雑な手術に対応できる技術”と“術後管理に関する専門の知識”をもって治療にあたらせていただきますので、お困りの方はぜひご相談ください。
“戦友”として患者さんと共に歩みたい
私は、患者さんと“戦友”のような関係を築き、共に病気と戦いたいと考えています。過去に手術を担当した患者さんの中には、現在でも連絡を取り合っている方が多くいらっしゃいます。治療以外でも患者さんをサポートしたいと考えており、地域の医療機関や患者会と密に連携しています。特に“中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会”とは、アスベスト関連の肺がん・悪性胸膜中皮腫の救済制度に関するノウハウを共有したり、定例会で意見交換をしたりするなどの活動も行っています。
私は国内外で肺がんや悪性胸膜中皮腫に関する講演を行い、治療成績を多くの医療機関に共有する活動に力を入れています。特に進行肺がんや悪性胸膜中皮腫は集学的治療が必要とされますので、実績のある医師のもとでの治療を強くおすすめします。お悩みの患者さんは、ぜひ一度当院を受診いただければと思います。
胃がんの診療
胃がんの手術は全例ロボット支援下で実施
胃がんの治療には、内視鏡治療、薬物療法、手術などがあります。胃がんが疑われた場合、当院ではまず消化器内科で内視鏡検査を行います。そしてカンファレンスで診断し、基本的には『胃癌治療ガイドライン』に沿って治療方針を検討します。
治療方針はがんの進行度だけでなく、患者さんの体力やQOL(生活の質)にも配慮して決定します。たとえば高齢の患者さんの場合、胃の全摘や広範囲の切除をすると術後のQOLが大幅に低下してしまうことがあります。また、ガイドラインでは抗がん薬の投与が推奨される場合でも、患者さんの全身状態によっては具合を悪化させてしまう可能性があります。そのようなケースでは切除範囲を縮小するなどを検討し、一人ひとりの患者さんに寄り添った治療を心がけています。
当院では低侵襲治療に力を入れており、手術が適応になる胃がんはすべてロボット支援下手術(ロボットアームを遠隔操作して行う手術)で対応しています(2024年7月時点)。ロボット支援下手術では腹腔鏡手術(お腹に小さな穴を開けて鉗子を挿入し、内視鏡で確認しながら操作する手術)と同様に手術による傷を小さくできるほか、腹腔鏡手術よりも精密な操作ができるため膵液漏(膵液がお腹の中に漏れること)などの合併症の発生率を低く抑えられます。
ロボット支援下手術には医師だけでなく、看護師や麻酔科*の医師、ME(メディカルエンジニア)などさまざまな職種がかかわっており、スムーズに連携して手術を行うために“手技の定型化”にこだわっています。手技の定型化とは、執刀医がどの医師であっても同じ手技で手術を行うことです。手技が定型化されていれば、手術にかかわるスタッフが手順を理解しやすいため、安全性の向上につながります。また、傷の数や形、手術時間などが医師によって左右されない点もメリットです。
ご家族とも協力し、術後の食事サポートを根気強く行う
胃がんの治療は手術だけでは終わりません。私たちは術後の生活のサポートも行っています。手術に臨む患者さんの多くは、治療によって食生活がどう変わってしまうのか不安になることでしょう。実際、術後の食事は体の回復や今後の生活に大きく関わる重要な問題です。そのため当院では、看護師や栄養士などのスタッフが協力し、患者さんとそのご家族を根気強くサポートしています。最近では、治療の進歩もあって以前より食事量が回復するスピードは速くなっています。中には、術後3か月ほどで手術前と同程度まで食べられるようになる患者さんもいらっしゃいます。手術の直後はつらいこともあると思いますが、だんだんと食べられるようになりますので、一緒にがんばって乗り越えていきましょう。
術後は食事のサポートを受けることに加えて、薬物療法のために通院が必要になる可能性もあります。手術前後の治療や生活も踏まえて、お住まいの地域で通いやすい病院を選ぶことが重要と考えます。堺市周辺にお住まいの方は、ぜひ地元である当院にご相談ください。
大腸がんの診療
体への負担が少ない治療を重視し、手術支援ロボットを積極的に活用
大腸がんの治療法には、内視鏡治療や手術、薬物療法、放射線療法などがあります。さまざまな治療法を組み合わせる集学的治療が求められるため、診療科間の連携が不可欠です。当院は診療科同士のつながりが強く、スピーディーに段取りをして治療を進められることが強みです。月次のカンファレンスやキャンサーボードではさまざまな診療科の医師が集まって立場にかかわらず活発に意見交換をし、患者さんにとってよりよい治療を追求しています。
また、当院では以前から患者さんの体への負担が少ない低侵襲治療に積極的に取り組んでおり、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術を行なっています。腹腔鏡下手術はお腹に開けた穴から鉗子と内視鏡を挿入して操作する手術です。開腹手術と比べて傷口が小さく済むため、患者さんの体の負担が少なく術後の傷あとも目立ちにくいです。また傷口が小さいことで、術後に感染症が起こりにくい点もメリットです。ロボット支援下手術は2019年から採用しています。ロボットアームを遠隔操作しながら行う手術で、狭い部位でもさらに精密な動きが可能です。そのため、特に直腸がんの手術において縫合不全(腸をつないだ部分から便などが漏れてしまうこと)のリスクを低減できます。これにより、人工肛門の造設を避けられる可能性もあります。手術支援ロボットの導入から5年が経過し、現在、2台の手術支援ロボットを活用して手術件数を積み上げています。
ご自身が納得できる治療を選択してもらいたい
大腸がんは日本人にもっとも多いがんであり(2019年がん統計より)、患者さんによってがんの進行度や病状、ライフスタイル、家族構成はさまざまです。当院では年間160件(2021年1〜12月実績)ほどの症例を扱っていますが、個々の患者さんにとってよりよい治療とサポートを提供するべく、多職種のスタッフが協力し合っています。たとえば、看護師は患者さんのお悩みや体力など、治療計画を立てるにあたり重要な情報を収集します。薬剤師は薬の副作用を細やかに確認して共有します。また、ソーシャルワーカーは退院後の療養生活をサポートします。主治医を中心としてさまざまな職種のスタッフが関わりながら一貫したサポートを行える総合力は、当院の強みの1つと自負しています。
私は診療の際、患者さんがどのような説明を求めているのか汲み取るよう心がけています。事前に病気のことをよく調べている方には専門用語も交えて詳しくお話ししますし、聴力が低下している方にはゆっくり大きな声でお話しするなど、その方に伝わりやすい説明に努めています。そして患者さん自身がよいと思える治療法、すなわち治療の“納得解”を得てもらいたいと考えています。
大腸がんの治療は手術だけで完結するわけではありません。手術前後の治療なども踏まえて、お住まいの地域で誠実にサポートをしてくれる病院を選ぶことをおすすめします。当院では患者さん一人ひとりのライフスタイルを踏まえたうえで適した治療のご提案が可能です。 “待たせない・断らない”をモットーに体制を整えていますので、堺市や近隣の地域にお住まいの方はぜひ当院を頼っていただければと思います。
前立腺がん・腎がんの診療
経験を積んだ医師によるロボット支援下手術を提供
当院の泌尿器科の強みの1つは、さまざまな症例を経験した医師によるロボット支援下手術です。前立腺がんは、がんの進行度や全身の状態、患者さんの希望を踏まえて治療方針を検討しますが、手術が適応になるのは主にがんが前立腺にとどまっている場合です。また、腎がんでは手術が第一選択であり、ほかの臓器への転移がなければ基本的には手術を行います。
ロボット支援下手術はロボットアームを遠隔操作して行う手術で、お腹に開けた穴から内視鏡と鉗子を挿入して操作する腹腔鏡下手術よりも手術時間を短くすることができます。手術時間が延びるとその分麻酔の量も多くなるため、手術時間の短縮は患者さんの負担軽減につながります。当院には手術支援ロボット(DaVinci Xi)が2台設置されており、泌尿器科には “日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会認定 泌尿器ロボット支援手術プロクター”(ほかの医師にロボット支援下手術を指導できる資格を持つ医師)が2名所属しています(2024年7月現在)。また、私(玉田先生)は日本ロボット外科学会認定の国内A級ライセンスも保有しております。
手術支援ロボットが2台体制になってから、診断から手術までの期間が短縮されました。さらに当院はMRIと超音波検査の画像を組み合わせる“MRIフュージョン”という検査法を導入しており、前立腺がんの検出率が向上しています。この強みを生かして、今後も手術を必要とする患者さんによりよい治療を迅速に届けていきたいと考えています。
がんの根治とQOL向上のために、手術の技術を磨く
患者さんの希望に最大限寄り添った治療を行うためには、術者の技術が重要です。当院の泌尿器科は手術を行う医師の技術力に自信を持っており、患者さんのQOL(生活の質)の向上を目指して日々研鑽を積んでいます。
当院では、手術を希望する方には可能な限り断らず、実施する方針で治療法を検討しています。年齢や体力、併存疾患など、手術が難しくなる要因があっても手術を行うためには、高い技術が欠かせません。また、前立腺がんの手術は術者の技量によって術後のQOLが左右されがちで、中でも尿漏れは多くの患者さんが不安視される後遺症とされています。術後の尿漏れを抑えるためには、尿道を可能な限り長く残すことや、排尿・男性機能に関わる神経血管束の温存といった精密な手術が重要となります。
前立腺がんには放射線治療や薬物療法など手術以外の治療選択肢もありますが、完治を目指せる方法は、現在のところ手術のみです。私たちは医学的観点から適切と考えられる治療法をご提案します。最終的には患者さんに治療法を選んでいただくことにはなりますが、患者さん一人ひとりに合わせた治療方針を丁寧にご説明いたしますので、一緒にがんばりましょう。
- 公開日:2024年10月22日