整形外科疾患の医療
高齢化に伴ってニーズの増える整形外科、
豊かで安心できる生活を支えるために
日本では高齢化が進んでおり、東松山市を含む比企地域も例外ではありません。本地域は、2020年時点で高齢化率が28.5%となっており、この割合は今後さらに増加することが予想されています。高齢化に伴って増加する病気の1つに、整形外科疾患が挙げられます。整形外科疾患は痛みを伴うことも多く、場合によっては日常生活に大きな影響を及ぼします。日本では平均寿命と健康寿命(健やかに自立して生活できる期間)に約10年*の差があり、国や各自治体はこの差の縮小に取り組んでいます。整形外科診療を提供する医療機関においては、部位ごとにその領域を専門とする医師を配置し、専門性の高い医療が提供できる環境を整えることも重要といえるでしょう。
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2019年時点
比企地域の医療を支える
埼玉成恵会病院
診療体制を強化し、専門性の高い診療を提供する埼玉成恵会病院
当院は1969年に東松山整形外科医院として開設されました。1977年に現在の場所に新築移転し、1983年の第一期増築に合わせて埼玉成恵会病院に改称しています。当院の関節外科センターでは、主に一般整形外科や救急科、救急センターを受診された患者さんのうち、変形性股関節症変形性股関節症に対する人工股関節手術や人工膝関節膝関節置換術、膝半月板鏡視下手術など、専門性が高い治療を必要とする方々の診療を行っています。近年は患者さんの高齢化が進んでいることから、関節などの変性疾患の治療が増えており、スポーツ後に受診される傾向が強くなっているように感じています。
担当する医師も十分な知識と経験を備えており、元東京慈恵会医科大学整形外科 教授で関節外科センター長の大谷 卓也先生、副センター長と副院長を兼務する小澤 正宏先生、副センター長と整形外科部長を兼務する大槻 茂先生、関節鏡・膝靱帯再建顧問の山岸 恒雄先生、肩関節顧問の佐藤 達夫先生、手・肘関節顧問の村中 秀行先生らが中心となって、関節の診療と手術を行ってきました*。地域の皆さんにとってのかかりつけ医でありながらも、当院の強みである専門性をさらに強化して、より質の高い医療の提供を目指してまいります。
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在籍医師は2024年9月時点
埼玉成恵会病院における
変形性股関節症・変形性膝関節症・肩腱板断裂・TFCC損傷の治療 変形性股関節症・変形性膝関節症
・肩腱板断裂・TFCC損傷の治療
・肩腱板断裂・TFCC損傷の治療
変形性股関節症の治療
小児から成人まで幅広い整形外科診療の知見を生かし、よりよい治療を提供する
変形性股関節症は、股関節の軟骨が摩耗して変性し、炎症や痛みを引き起こす病気です。関節の変形が進むと日常生活に支障をきたすほどの強い痛みが生じます。治療には保存療法と手術があり、患者さん一人ひとりの状態に応じて治療方針を決定していきます。
なお、“変形性股関節症”と一口に言っても、その原因や病態は多岐にわたります。たとえば、幼い頃に発症した股関節脱臼やペルテス病(小児の大腿骨頭壊死大腿骨頭壊死)、大腿骨頭すべり症といった病気に関連して発症しているケースもあれば、成人後に股関節の形成不全を基盤として変形性股関節症を発症するケースもあります。また、股関節の形態異常による関節衝突(インピンジメント)が原因になっている場合などもあります。そのため、治療方法を検討するにあたっては、現在の患者さんの状態のみならず、これまでの病歴やその経過についても専門的な視点を持って評価することが重要です。
私(大谷 卓也)はこれまで小児整形外科疾患の診療にも数多く携わってまいりました。この経験を生かし、治療をご提案する際には各症例の発症背景を十分に理解したうえで、患者さん一人ひとりによりよい治療が提供できるよう努めています。多彩な病態への理解と幅広い治療選択肢をもって丁寧に診療させていただきますので、股関節の痛みを感じる方は遠慮なく当院へご相談ください。
技量を担保し、難易度の高い股関節手術にも対応
先述のとおり、変形性股関節症の治療には保存療法と手術がありますが、手術においては初めから人工関節を前提とするのではなく、症状や年齢、病態に応じて慎重に方針を決定することが重要だと考えています。
若年者の股関節疾患に対しては、股関節を温存する手術が推奨されます。たとえば、10歳代から40歳代の患者さんには骨盤骨切り術や大腿骨骨切り術などの関節温存手術を行い、股関節の機能をできる限り保持します。一方で、40~50代以上で進行した変形性股関節症や大腿骨頭壊死症の患者さんの場合、多くは人工股関節置換術(THA)が有効です。THAは手術の技術や人工関節の進歩が著しく、この一世紀においてもっとも成功した手術と言われている治療法です。除痛効果に優れた治療法として広く用いられており、患者さんのQOL(生活の質)改善に大いに役立ちます。
私が行っている人工股関節置換術(THA)の特徴は、後方進入法を用い、安全性を保ちながらも低侵襲(体への負担を減らす)化を進めている点です。体への負担が少ないほど回復も早く、患者さんの早期社会復帰にもつながります。また、THAで多いとされる術後の脱臼を防ぐため、最小限の組織切離に対する修復法の研究も重ねてきました。研究については、国内外の人工関節学会で講演を行ってきました。
そのほか、当院ではナビゲーション技術を導入し、手術の精度と安全性を高められるよう努めています。この技術は、人工関節のより正確な設置を目指すシステムです。医療の進歩は目覚ましく、新しい治療法も続々と開発がされていますが、私たちは発展途上の治療よりも従来の治療の安全性と確実性をさらに高め、合併症を極力ゼロにすることが重要だと考えます。
より多くの患者さんに質の高い治療を提供できるよう努めていますので、治療選択に悩まれている方はぜひ当院へいらしてください。通常の症例はもちろん、一般的には治療が困難とされるような高度変形症例、高度拘縮〜強直症例、あるいは骨切り術の併用が必要な高位脱臼股など、幅広い症例にも対応可能です。
変形性膝関節症の治療歩き始めに膝が痛む、膝から音が鳴る……歳のせいと思わず受診を
変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減り、関節が変形することで痛みなどが生じる病気です。主に加齢に伴って発症しますが、膝への過度な負荷や肥満なども要因になり得ます。発症初期の段階では、歩き始めや立ち上がる際に痛みが生じることが多く、動き始めてしばらくすると痛みが和らぐのが特徴です。しかし、症状が進行すると、歩行中や夜間の安静時にも痛みが生じるようになり、この場合は日常生活にも大きな支障を来します。また、骨と骨がぶつかるほど軟骨がすり減っている場合には、膝から“ゴリゴリ”という音も聞こえるようになります。
変形性膝関節症を疑った場合、当院では主に立位(立った状態)によるX線(レントゲン)検査を行います。膝に体重が加わった状態で撮影を行うことで、膝関節の状態をより正確に確認することが可能です。治療方針については、患者さんの症状やご希望、病気の進行度などを踏まえて決定していきます。関節の変形が軽度の場合は、主に保存療法(リハビリテーションや薬物療法など)を中心に治療を行っていきます。特に太ももの筋肉を鍛えるリハビリは、関節への負担を軽減し、痛みの改善に役立ちますので積極的に行っていただいています。また、当院では、痛みの緩和を目的とした関節内注射のほか、漢方薬による治療も行っています。
患者さんのライフスタイルを考慮し、適した膝関節治療を提供
保存療法によって症状が軽減される場合も多いですが、改善がみられない、あるいは痛みが強い場合には、手術を検討します。
手術には複数の方法があり、当院では主に人工膝関節置換術、あるいは高位脛骨骨切り術(HTO)をご提案することが多いです。人工膝関節置換術とは、変形した膝関節の表面を切除し、そこに人工の関節を設置する方法です。人工関節の耐久年数は患者さんによって異なりますが、一般的に約20~30年とされていますので、当院では主に骨の変形が強く、かつご高齢の方におすすめしています。
もう一方のHTOは、簡単に言うとO脚を軽度のX脚に矯正する治療方法です。O脚の方は骨の内側に荷重がかかりやすく、それによって変形性膝関節症の発症につながるケースがあります。この手術は、脛骨(すねの骨)を切って曲げてO脚を直し、膝にかかる荷重を内側から外側に逃がしてあげるものです。傷んだ内側の骨にかかる荷重が減り、結果として痛みの軽減にもつながります。なお、人工関節は使用しないため、自身の膝が温存できることがメリットの1つです。当院では年齢が比較的若く、スポーツや活動的な生活を望む患者さんには、HTOをおすすめすることが多いです。
変形性膝関節症は、軽症の方も重症の方もそれぞれに適した治療法があります。日常生活を楽に過ごすためにも、痛みを感じる方は「歳のせい」などと諦めず、まずは一度当院にご相談ください。
肩腱板断裂の治療
長引く肩の痛みや腕が上がらない/上げにくい場合には一度受診を
肩腱板断裂とは、文字どおり肩関節をつなぐ“腱板”が断裂した状態を指します。けがや加齢による腱のすり減りが原因で発生します。中高年の方の場合は、ちょっとした動作や負荷がきっかけで断裂が起こることもあります。肩の痛みが長引いている・腕が上がらない、あるいは夜も眠れないほど強い痛みが生じているような場合は、肩腱板断裂が疑われます。いわゆる五十肩でも肩の痛みが生じますが、肩腱板断裂の場合は関節の動きが固くなりにくく、人の手を借りれば腕を上げられることが多いのが特徴です。肩腱板断裂は近年、MRI検査や超音波検査など医療技術の発達により発見されやすくなっていますので、いずれにしても、肩や腕の動きに違和感がある場合には一度しっかりと検査を受けていただくことをおすすめします。
治療には大きく分けて保存療法と手術があります。当院ではどちらの治療にも対応しており、患者さんの症状や生活状況に応じて適した治療法をご提案いたします。保存療法では、痛みを和らげるための注射や飲み薬などを使用し、運動療法を行い痛みが改善するかどうか経過を観察します。保存療法で痛みが軽減するようであればそのまま経過観察を、保存療法を行っても痛みが改善しない場合には、手術を検討します。
関節鏡視下手術や充実したリハビリで肩関節の早期回復を目指す
手術には主に腱板修復術と人工肩関節置換術の2つの方法があります。腱板修復術とは、断裂した腱板を縫い合わせる方法です。切れてしまった腱板は基本的に自然とくっつくことがないため、手術をして断裂部分をつなぎます。当院では、関節鏡(細い筒状の医療器具)を用いた腱板修復術を実施しており、これにより傷口が小さく済むため、通常の直視下手術(患部を直接見て行う手術)に比べて患者さんの体への負担や痛みを抑えた治療が叶えられています。もう一方の人工肩関節置換術は、傷んだ関節を人工関節に置き換える治療です。腱板が縫えないほど損傷が大きい場合には、人工肩関節置換術を行います。
なお、肩関節は体の中でもっとも可動域が大きな関節であり、可動域を回復させるためには、術後のリハビリもとても重要になります。当院ではリハビリテーション科専門医*や理学療法士が中心となって、患者さん一人ひとりに合わせたリハビリプログラムを提供しています。
中には「動かさなければ痛くないから」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、動かさないでいると肩の筋肉が上手く動かなくなったり、放置することで肩関節の変性が生じたりする可能性があります。このような状態になると機能回復にも時間がかかりますので、肩の痛みを感じた場合は、なるべく早めに受診することをおすすめします。早期治療が早期回復へのカギですので、気になる症状があれば遠慮なくご相談ください。
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日本リハビリテーション医学会認定 リハビリテーション科専門医
TFCC損傷の治療
手首の小指側の痛みはTFCC損傷の可能性も
TFCC(三角線維軟骨複合体)損傷は、手首にある軟骨組織が損傷した状態で、膝で言うところの半月板損傷と似た状態です。TFCCは手首の小指側に位置し、手首を安定させる役割を担っています。TFCCが損傷すると、手首の動きが制限されたり、ドアノブをひねったときなどに痛みが現れたりします。TFCC損傷の原因は、大きく分けて2つあります。1つは転倒やスポーツ中の強い衝撃などによる外傷、もう1つは加齢に伴う摩耗です。特にスポーツを行う方や、手をよく使う職業の方はリスクが高まります。
手首の小指側に痛みが生じ、さらにそれが続く場合には、TFCC損傷の可能性がありますので、早めに整形外科を受診いただくことをおすすめします。放っておくと痛みが慢性化することもありますので、違和感がある場合には遠慮なく受診してください。
日本手外科学会認定の手外科専門医による専門的な治療を提供
TFCC損傷の治療方法には主に保存療法と手術があります。保存療法で症状が改善する方も多くいらっしゃいますので、まずは手首の安静を保つためのサポーターを装着いただいたり、痛みを和らげるための注射を行ったりして経過観察をします。保存療法を行っても痛みが改善しない場合や、手首関節の不安定性が強い場合には手術を検討することもあります。手術には、関節鏡(細い筒状の医療器具)を使ってTFCCの傷んだ部分を切除する方法や、尺骨(前腕の小指側にある骨)を短くして患部への負担を軽減する方法などがあります。
TFCC損傷には複数の治療方法がありますので、手首に痛みを感じる方は遠慮せず一度当院へご相談に来ていただければと思います。当院には、警察官や消防士、飲食店に勤めている方など、“手”を頻繁に使う職業の方が度々ご相談にいらっしゃいます。手外科専門医*が専門的な知見を持って診断し、患者さん一人ひとりに合った治療をご提案いたします。ぜひお気軽に受診ください。
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日本手外科学会認定 手外科専門医
- 公開日:2024年10月30日