手外科疾患の医療
診療には専門性が求められる手外科疾患
一般的に手の外科とも呼ばれる手外科は、手や肘など上肢の病気・障害に対する専門の診療科です。手は日常生活において重要な役割を担っている部位であり、それゆえ外傷や使い過ぎによってその機能が障害される機会も多くあります。特に、手根管症候群や骨折などは、放置すると機能回復が困難になり、QOL(生活の質)を著しく低下させる可能性があるため、早期診断・早期治療介入が重要です。なお、手は複雑な構造をしており、治療には医師の十分な経験が求められます。不自由のない生活を送るためにも、手の痛みやしびれ、けがなどが生じた場合には速やかに手外科の受診をするようにしましょう。
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埼玉成恵会病院
“手”の病気やけがに対して専門的な診療を提供する埼玉手外科研究所
埼玉成恵会病院は、もともと1969年に東松山整形外科医院として開設されました。その後、埼玉整形外科病院となり、1977年に現在の場所へ新築移転しました。1983年の第一期増築に合わせて、現在の“埼玉成恵会病院”に改称しています。専門性の高い診療を提供しているのが当院の強みであり、その1つが“埼玉手外科研究所”です。当研究所は、長谷川 芳男会長 と、初代所長の故・児島 忠雄先生のアイデアにより埼玉成恵会病院の院内に設立されました。
手指の外傷、骨折はもとより、母指(親指)から環指(薬指)を中心にしびれや痛みが出る手根管症候群や、親指の関節(指の付け根の関節)に腫れと痛みを伴う母指CM関節症、物をつかんで持ち上げようとすると肘の外側から前腕にかけて痛みが出る上腕骨外側上顆炎(テニス肘)など、手”に関する病気やけがに対して専門的な診療を行っています。手の痛みやしびれなどお困りの症状がある方はぜひお気軽にご相談ください。手外科専門医*が中心となり、診断・治療いたします。
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日本手外科学会認定 手外科専門医
埼玉成恵会病院
埼玉手外科研究所における
橈骨遠位端骨折・母指CM関節症・肘部管症候群・手根管症候群の診療 橈骨遠位端骨折・
母指CM関節症・
肘部管症候群・手根管症候群の診療
母指CM関節症・
肘部管症候群・手根管症候群の診療
橈骨遠位端骨折の診療
橈骨遠位端骨折とは? ――親指側の手首に生じる骨折
橈骨遠位端骨折は、前腕を構成する2本の骨のうち親指側の骨(橈骨)が手首のところで折れる骨折です。転んで手をついた際などに発生しやすく、特に高齢者や骨粗鬆症の方の場合は若い人よりも骨折が起こりやすくなります。必要な治療については骨折の程度によって異なりますので、橈骨遠位端骨折を疑った場合には、まず画像検査(X線検査など)を行います。転倒後に強い痛みや腫れがある場合にはできるだけ早めに病院を受診しましょう。
ロッキングプレートによる固定で早期回復を目指す
治療については、以前はギプスによる固定が一般的でしたが、近年ではロッキングプレートを用いた手術が主流となっています。
ロッキングプレートとは骨を固定するスクリュー(ネジ)とプレートが一体化した医療機器です。これにより骨がしっかりと固定できるため、早期回復が期待できます。ギプスによる治療では固定期間が長く、関節の動きが制限されることがありましたが、プレート固定の場合は、その強固な固定性から術後のリハビリテーションも早く始められます。リハビリテーションが終了するまでの期間は人によって異なりますが、おおよそ2~3か月と考えていただくとよいでしょう。この期間中は、リハビリを行いながら徐々に手首の可動域を回復させていきます。当院では、患者さん一人ひとりの回復ペースに合わせた丁寧なサポートを提供していますので、安心して治療を受けていただけます。
なお、ロッキングプレートを用いた固定は、骨折整復の方法をきちんと理解していなければ質の高い治療にはつながりません。当院では手の診療に特化した手外科専門医*が専門的な視点をもって治療にあたっております。適切な治療とケアにより、安心して日常生活に戻れるよう全力でサポートいたしますので、お困りの症状があれば遠慮なくご相談ください。
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日本手外科学会認定 手外科専門医
母指CM関節症の診療母指CM関節症とは――親指の付け根の関節がすり減って起こる病気
母指CM関節症は、CM関節(親指の付け根にある関節)がすり減って炎症が起こり、痛みが生じる病気です。物をつまんだり、ビンのふたを開けるときなど手をひねったりする動作で痛みが生じやすく、日常動作にも大きな影響を及ぼします。進行すると親指が開きにくくなり、外から見ても関節の変形が分かるようになります。手の使いすぎや加齢が主な原因で、特に40歳以上の女性に多くみられる病気です。
親指付近に痛みが生じる病気はほかにもあるため、まずは画像検査(X線検査など)を行って関節の状態を確認します。CM関節の隙間が狭くなっていることが確認された場合には母指CM関節症と診断し、治療を進めていきます。治療法は症状の程度に応じて異なり、軽症の場合にはまず痛み止めの湿布や内服薬によって経過を観察します。痛みが強い場合には、ステロイドの関節内注射を行います。これらの処置を行っても痛みが改善しない場合には、手術を検討します。
手外科診療の経験を生かし、よりよい治療方法を見極める
手術には複数の方法があり、当院では骨切り術(中でも第一中手骨外転対立位骨切り術)と関節形成術を行うことが多いです。骨切り術とは親指の骨の一部を楔状に切除し、固定することで、患部にかかる荷重を軽減する手術方法です。当院では、関節の形態が正常または、関節裂隙(骨と骨のすき間)の狭まりがあまり認められない場合には、骨切り術を検討します。
もう一方の関節形成術とは、親指の骨の一部あるいは全てを摘出したのち、腱を使って関節を作り直す手術方法です。関節の動きは維持されるものの握力が落ちることもあるため、関節の損傷が重度で、かつ手術のメリットがあると判断した場合に実施します。
母指CM関節症は、放っておくと症状が悪化し、日常生活にさらなる不便をもたらすことがあります。手の親指に違和感や痛みがある方は、ぜひ早めに受診いただきたいと思います。先に述べたとおり、母指CM関節症には複数の治療方法があり、適切な治療を見極めるためには医師の経験が欠かせません。当院では、これまでの知見を活かして患者さん一人ひとりに合った治療を見極め、痛みの緩和とQOL(生活の質)の向上に努めておりますので、安心してご相談ください。
肘部管症候群の診療
肘部管症候群とは――神経が圧迫されることで指のしびれが現れる病気
肘部管症候群は、尺骨神経(肘の内側を通る神経)が圧迫されることで、指(特に小指や薬指)のしびれや痛みが生じる病気です。この症状は進行すると、手全体の感覚障害や握力の低下などを引き起こすことがあり、日常生活に支障をきたす場合もあります。
当院には、「手のしびれがなかなか改善されない」と受診される方が多くいらっしゃいます。とはいえ、しびれの感じ方は患者さん本人にしか分かりません。そのため、当院では神経伝導検査も取り入れ、より正確に病状が把握できるよう努めています。神経伝導検査とは神経に電気を流して、その電気の流れ具合によって神経の機能を評価する検査です。肘部管症候群が軽症の場合は安静にしたり、ビタミンB12を投与したりすることで症状の改善が期待できます。一方、これらの治療を行っても症状が改善しない場合や病状が進行している場合には手術を検討します。
手外科専門医*が中心となり、患者さんに適した治療を見極める
手術には複数の方法があり、患者さんの病状に応じて適した方法を選択します。具体的には、尺骨神経を圧迫している靭帯などを切除する“肘部管開放術”、尺骨神経を前方に移動させる“尺骨神経前方移動術”などがあります。先述のとおり、適した手術方法は患者さんによって異なりますが、いずれも神経の圧迫を取り除くことで症状の軽減を図る手術です。
肘部管症候群は、放置すると症状が悪化し、日常生活に影響を与える可能性があります。しびれや痛みが続く場合は専門的な検査を受け、適切な治療を開始することが重要です。当院では手外科専門医*が中心となり、患者さん一人ひとりに合った治療法を提供しています。しびれや握力低下など気になる症状がある方は、遠慮せずぜひお気軽にご相談ください。
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日本手外科学会認定 手外科専門医
手根管症候群の治療
手根管症候群とは――親指~中指にしびれが生じる病気
手根管症候群は、手首の手根管という部分で正中神経(手の中を通る神経)が圧迫されることで、手や指にしびれ、痛みが生じる病気です。特に親指、人差し指、中指に症状が現れ、進行すると物をつかむ力が弱くなったり、細かい作業が困難になったりすることもあります。そのため、症状が進行する前に適切な診断と治療をすることが重要です。当院では、元 帝京大学神経内科教授である園生 雅弘先生による神経伝導検査も行い、より確実な診断が得られるよう努めています。
なお、手根管症候群の診断における問題は、胸郭出口症候群や頚髄症、頚椎症性神経根症など紛らわしい病気があること、またこれらの症状が複数重なっていることがある点です。当院においては隔週火曜日(午後)に埼玉手外科研究所所長 兼脊椎外科センター長でもある長谷川 岳弘による“手のしびれ外来”も行っています。“手”の病気に関する十分な知見を備えた医師が専門的な診療を行っておりますので、気になる症状がある方はお気軽に受診ください。
内視鏡手術にも対応可能な専門性を備え、よりよい手外科治療を追求する
症状が軽度の場合は、安静やビタミンB12の投与で症状の改善が期待できることもありますが、それでも改善しない場合には手術を検討します。手術については、筋力低下が起こる前であれば、靱帯を切除し圧迫を解除する“手根管開放術”を行います。母指球(親指の付け根のふくらみ)の萎縮・筋力低下が生じている場合には、腱を移行する“母指対立再建術”が必要となります。手術は、局所麻酔下*あるいは伝達麻酔(神経ブロック)下*で行います。母指対立再建術を行う際は全身麻酔で手術を行います*。
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麻酔科標榜医:竹内 晴彦先生
当院では、通常のオープンサージェリー(直視下手術)に加え、内視鏡手術(鏡視下手根管開放術)を行っています。内視鏡手術は、直視下手術に比べて傷が小さく済み、痛みが少ないため日常生活への早期復帰が期待できることがメリットです。内視鏡手術の実施には医師の十分な経験が求められますが、当院では適応がある患者さんであればご提案が可能です。基本的に、オープンサージェリーでは1泊入院、内視鏡手術の場合は日帰り手術を行っています。
また、2024年10月現在、手根管症候群に対する手術は月曜日から土曜日まで実施していますので、お仕事などで忙しい方にも治療を受けていただきやすい環境となっています。手のしびれや痛みに悩まされている方、あるいは手術を迷っている方はぜひ一度当院へご相談にいらしてください。
- 公開日:2024年11月29日