埼玉県における
消化器領域の医療

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地域で暮らす方々の命を守るために
埼玉県は人口が増加傾向にあり、また今後速いペースで高齢化が進むと予測されています。高齢化の進展に伴い、増える病気の1つにがん(悪性腫瘍)が挙げられます。埼玉県では2020年、5万人以上の方が新たにがんと診断されており、また2万人以上の方が亡くなっていることが報告されています。命を守るためには、早期発見が何より肝心です。早期発見から治療までを地域で完結させるためには、各医療機関が検査体制のさらなる充実を図りつつ、専門的な治療を担う医療機関との連携体制を強化していくことが求められます。
比企地域の医療を支える
埼玉成恵会病院

よりよい消化器病診療を地域へ――強固な連携による専門的な医療体制を整備
当院は1969年に東松山整形外科医院として開設され、1983年に現在の埼玉成恵会病院に改称しました。“せいけいかい”という病院名もあり、整形外科の病院というイメージを持たれている方も多いと思いますが、整形外科のみならず消化器病の診療にも注力しています。
診療においても十分な専門性をもつ医師が担当しており、埼玉成恵会病院 消化器病センター長は虎の門病院で同期であった 井利 雅信先生が務めています。井利先生は消化器全般に精通した医師です。さらに、かつて大変お世話になった虎の門病院の前分院長である宇田川 晴司先生、同院(本院)で現役の消化器外科 部長である 上野 正紀先生にも顧問として来ていただいております。
手術が必要な場合には、虎の門病院 消化器外科 部長である 春田 周宇介
埼玉成恵会病院
消化器病センターの医療体制
埼玉成恵会病院における
大腸ポリープ/
大腸がん・胃がん/
食道がん・痔・鼠径ヘルニア
の治療
大腸ポリープ/大腸がんの治療
40歳を過ぎたら一度検査を――前処置から“負担の少ない”大腸内視鏡に努める
大腸ポリープの多くは良性ですが、中には大腸がんや、放っておくとがんになるものもあります。便潜血検査で陽性となった場合はもちろん、40歳を過ぎたら一度大腸内視鏡を受けてポリープの有無を確認しておくことが大切です。特に牛や豚など赤身の肉や、加工肉の摂取は大腸がんのリスクを上げると言われていますので、欧米型の食生活を送っている方は大腸内視鏡を積極的に受けていただくことをおすすめします。

なお、大腸内視鏡=つらい検査というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。当院では患者さんの苦痛を少しでも和らげられるよう、積極的に鎮静薬や鎮痛薬を使用しています。うとうと・ぼーっとしている間に検査は終わりますのでご安心いただければと思います。
また、前処置(大腸をきれいにする準備)についても、今は負担を軽減する方法があります。当院では、便のたまりにくい検査食をおすすめしています。検査前日にこれを食べていただくことで、前日に服用いただく下剤は錠剤のもので済みます。検査当日には1~2Lの下剤を飲んでいただく必要はありますが、残渣が残りにくい食事をしておくことで、比較的スムーズに大腸がきれいになり、より負担なく検査を受けていただけます。可能な限り楽に検査を受けていただけるよう努めておりますので、検査にあたってご不安なことなどありましたら遠慮なくご質問ください。
柔軟な体制により、最短で日帰り治療にも対応
大腸内視鏡の結果、ポリープや早期がんを疑う腫瘍が見つかることもあります。当院では、数mm程度の小さなポリープや、ごく早期のがんであれば、その場で切除可能です。出血などがみられた場合は入院いただくこともありますが、何も問題がなければ検査当日に治療を受けてそのままお帰りいただけます(10mm以上のポリープの場合は、1泊2日の予定入院で治療を行っています)。

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ポリープを切除した後は、病理検査(顕微鏡検査)を行い、良性か悪性かを調べます。病理検査の結果、リンパ節への転移がなく、病理学(顕微鏡)的に病変が浅い(粘膜内にとどまるか、あるいは粘膜下層に1000μmまでしか広がっていない)ことが確認できれば、内視鏡治療のみで根治となる可能性が高いです。大腸がんは、食道がんなど他の消化器がんに比べて進行が遅く比較的たちのよいがんといえますが、これはあくまで早期の段階で発見ができた場合です。定期的に健診を受け、また便潜血検査で異常があった場合はすぐに受診をしていただくことで命を守れる可能性が高まりますから、どうかご自身の健康をチェックする習慣をつけていただきたいと思います。一、二度ほど大腸内視鏡を受けて異常がなければ、次回は5年後でも問題ないと判断できる場合もありますので、敬遠しすぎず楽な気持ちで受けていただければと思います。

胃がん/食道がんの治療
幅広い治療選択肢を備え、生活に寄り添った胃がん診療を提供
胃がんの治療法は、主に内視鏡治療、手術、薬物療法の3つです。がんが粘膜に留まっている、いわゆる早期胃がんの場合には内視鏡治療が適応となります。一方で、がんが進行しており内視鏡治療が困難な場合には、手術を検討します。当院では、診療体制を強化し、体へ負担の少ない腹腔鏡下手術にも対応ができるようになりました。複数の選択肢の中からより適した治療をご提案いたします。
当院では、患者さん一人ひとりに合った治療のご提案をするのはもちろんのこと、そのフォローアップにも注力しています。たとえば、「食事が思うようにとれない」という場合には、無理に食事量を増やすのではなく、食べられる物・量の中で必要な栄養がとれる工夫をご提案するなど、無理なく継続いただけるよう支援しています。同じ病気であっても、年齢や家族構成などが異なれば、適切な診療は異なります。よりよい治療のためには医師・患者さん・ご家族が同じ方向を向くことが大切ですから、“患者さん・ご家族の価値観”を最大限尊重した診療ができるよう日々努めています。

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来院いただくことは決して当たり前のことではありません。患者さんは信頼してお任せくださっているわけですから、私(清水 広久)はその貴重な機会を当たり前だと思わず、期待以上の診療をお届けしたいと考えています。胃の病気で通院されている方でも、大腸カメラの期間が空いているような場合には積極的にご提案するなど、その病気の診察のみならず、患者さんの健康全体を視野に入れて診療にあたっています。もちろん無理に検査をすすめるようなことはありませんが、一度ご来院いただいたからには、責任をもって総合的にサポートいたしますので、何かお困りのことがあればお気軽にご相談ください。
地域の医療機関の先生方におかれましては、紹介先に迷われる患者さんがおられましたら、ぜひ遠慮なく当院へご紹介いただければと思います。病名がはっきりしていない方や、「週末に体調がやや不安な患者さんがおり、入院で様子を見てほしい」などという場合でも、状況に応じて柔軟に対応いたします。
決して諦めない――地域医療の“ハブ病院”となれるよう体制を整え、食道がん治療を支える
食道がんと聞くと、治療が難しい病気という印象があるかもしれませんが、早期に発見し、適切な治療を行えば、良好な治療結果が期待できます。 とはいえ、食道がんは初期の段階ではほとんど自覚症状がないため、定期的に内視鏡検査(胃カメラ)を受けることが重要です。特に、50歳以上の男性で喫煙や飲酒の習慣がある方は、リスクが高いとされています。さらにその中でも、お酒を飲むと顔が赤くなる(あるいは過去にそうだった)方に多い傾向がみられるため、これらに当てはまる方は積極的に検査を受けていただきたいと思います。そのほか、「食べ物が飲み込みにくい」「つかえるような違和感がある」といった症状がある場合も、放置はせず早めに受診いただくことをおすすめします。

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当院では、食道がんの診断、そして手術前の治療や手術後の管理、再発治療、化学療法に対応しています。当院で内視鏡検査を行い、もし手術が必要となった場合は、適切な治療を受けていただけるよう、専門的な治療を行っている医療機関にご紹介します。地域の専門的な施設と連携する、いわば“ハブ”となることを目指し、患者さんに安心して治療に臨んでいただけるよう手厚いサポート体制を整えているのは当院の強みの1つです。
私(宇田川 晴司)自身、食道がん治療を積極的に実施している虎の門病院の出身であり、今でも密な連携体制を築いています。また、虎の門病院 食道がん治療センターのセンター長であり、日本食道学会の理事を務める上野 正紀先生も月に1回、埼玉成恵会病院で外来診療を行っています。もし埼玉県内の医療機関での手術をご希望であれば、県内で食道がんの治療を専門とする医師をご紹介することも可能です。いずれにしても、これまでに培った知見から適切な治療を判断し、信頼のおける医師へしっかりとおつなぎしますので、どうぞ安心いただければと思います。
最近では、新しい治療薬も登場し、食道がんの治療成績は以前よりずっとよくなっています。当院では患者さんが少しでもよい状態で過ごせるように、そしてよりよい結果につながるように、全力でサポートいたしますので、どうか諦めず一緒に病気と闘っていきましょう。


痔の治療
痛みや出血は一度受診を――“切らずに治す”を基本に負担の少ない治療に注力
痔は、とても身近な病気で、誰でもなる可能性があります。特に女性は便秘になりやすいため、痔に悩む方も多い傾向にあります。デリケートな場所の病気ということもあり、市販薬で済ませてしまう方も多いかもしれませんが、市販薬はあくまで一時的に症状を抑えているのみで、病気を根本的に治しているわけではありません。場合によっては再発したり病状が悪化したりする可能性もありますので、出血や痛みがある方はぜひ早めに受診いただきたいと思います。

イラスト:PIXTA 加工:メディカルノート
痔の治療法には、薬物療法、硬化療法(注射による治療)、手術などがあります。どの治療が適しているかは痔の種類や症状によって異なりますが、当院では、患者さんの負担をできるだけ減らすべく10年ほど前から内痔核(直腸と肛門の境目“歯状線”より内側にできた痔)に対しては注射による治療を基本としています。この方法は痔に薬剤を注射することで痔を硬くして縮小を図る治療です。注射の処置自体は15分程度で終了します。
なお、麻酔は行いますが、あくまで肛門を開く(痔を診やすくする)ために行うものです。注射というと痛みが心配になる方も多いと思いますが、痔が生じる粘膜には神経が通っておらず注射を打つこと自体に痛みを感じることはありませんので、その点はご安心ください。 当院では、患者さんの経過をより丁寧に診るため、2日程度の入院で、腰椎麻酔による治療を行っています。
患者さんのライフスタイルに寄り添った診療で健康な毎日を支える
当院では治療をしたら終わりではなく、その後の生活習慣の改善も含めて、患者さんと一緒に向き合っていくことを大切にしています。痔の主な原因は、生活習慣にあります。たとえば、トイレでスマホを触る習慣がある、長時間座った姿勢で過ごすことが多いなどが挙げられます。痔は再発しやすい病気ですから、患者さんの生活習慣も詳しくお伺いしながら改善の提案をすることで、健康な状態を長く保っていただけるよう努めています。

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なお、当院を受診したからといって必ずしも注射や手術を受けなければならないわけではありません。痔の状態によっては、手術が必要になる場合もありますが、なかなか決断ができないという方もいらっしゃるでしょう。そのような場合には、お薬を処方して、定期的に通院いただきながら経過観察をしていきます。患者さんのご希望に応じて柔軟に対応できるのは、地域に根ざした当院ならではだと考えています。
痔の症状は患者さんによってさまざまです。大きい痔があっても困っていない方もおり、その場合は無理に治療をする必要はありません。一方で、小さい痔であっても出血しやすい方もいらっしゃいます。何か困っていることがあるようでしたら、おひとりで悩まずに、ぜひ一度ご相談にいらしてください。早い段階であれば、先述した注射による治療で済むケースもありますので、一緒につらさを解決できる方法を見つけていきましょう。

鼠径ヘルニアの治療
悪化すると腸の壊死を引き起こす病気――足の付け根のふくらみは放置せず受診を
鼠径ヘルニアとは、お腹の中にある腸などが、皮膚の下に飛び出す(脱出)病気です。筋膜が弱くなっているところに、腹圧がかかると脱出するようになります。当院のある東松山市周辺では地域柄、重いものを運ぶ仕事に就いていたり、畑仕事をされたりする方の発症が多く見受けられます。

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痛みを感じる方もいらっしゃいますが、足の付け根(鼠径部)にふくらみがあるだけで痛みがない場合がほとんどです。そのため、「いつからふくらんでいたか気付かなかった」という方も少なくありません。また、横になるとふくらみは引っ込むことが多いため、「様子を見ても大丈夫だろう」と考えて放置してしまう方もいます。しかし、症状がないからと放っておくと“嵌頓”という状態になることがあるため注意が必要です。これは飛び出した腸が穴にはまって戻らなくなり、締め付けられる状態をいいます。血流が滞ると腸の組織は半日ほどで壊死に至るため、嵌頓が起こった場合は緊急手術が必要です。少しでも鼠径部の違和感に気付いたら、早い段階で一度受診をしてまずは診察を受けていただきたいと思います。
鼠径ヘルニアが疑われた場合は、まず触診などで出っ張りの有無を確認し、さらに詳しく調べる必要がある場合には腹臥位(うつ伏せ)の状態でCT検査を実施します。
診断から手術、術後のフォローアップまで一貫したサポート体制を構築
成人の鼠径ヘルニアは自然に治ることがないため、治療には手術が必要です。手術の方法には鼠径部を切開する方法(前方アプローチ)と、腹腔鏡を使った方法(腹腔鏡下ヘルニア修復術)があり、当院ではどちらの術式にも対応しています。前方アプローチでは、鼠径部を小さく切開し、脱出した腸をお腹に戻して、腹壁の穴をメッシュで塞ぎます。一方、腹腔鏡下ヘルニア修復術ではお腹に小さな穴を数か所開けて、そこから内視鏡を挿入して手術を行います。前方アプローチ法に比べて傷が小さく済むことから、術後の痛みが少ないのがメリットです。ただし、腹腔鏡を使った手術は全身麻酔が必要になります。当院では全身麻酔のリスクなどを考慮のうえ一人ひとりの患者さんに適した方法を慎重に検討し、ご提案させていただきます。

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なお、手術自体はもちろん大切ですが、手術が終わった後のフォローアップも非常に重要です。鼠径ヘルニアは片側を治療しても、腹圧がかかる生活を続けているとまた別の場所に生じる可能性があります。そのため、何かあったときにすぐに相談できたり、通院しやすかったりする病院を選ぶことが大切です。当院では、患者さんの術後の生活を考慮し、一人ひとりに寄り添った継続的なフォローができるよう努めています。ご自身のライフスタイルなどを踏まえて、どのような治療やフォローアップが必要か、ぜひ一緒に考えていきましょう。少しでも気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

- 公開日:2025年10月31日

