北海道のがん診療

早期発見が重要ながん――検診の受診を促す取り組みが求められる

写真:PIXTA

早期発見が重要ながん――検診の受診を促す取り組みが求められる

北海道では、がん医療への取り組みが日々進められています。がんで亡くなる方の数は減る傾向にありますが、生涯のうちに2人に1人はがんにかかるといわれているのが実情です。
定期的ながん検診の受診や、健康診断などで異常を指摘された際に精密検査を受けることは、がんを早く見つけ、よりよい治療につなげるための重要な第一歩です。
北海道にお住まいの方が、日ごろから健康に目を向けられるような働きかけに加え、「検診を受けてみよう」と思えるよう、検査の負担の軽減や精度の向上、また待ち時間を短くするなどの工夫も、今後ますます求められていくでしょう。

札幌市のがん診療を支える
KKR札幌医療センター

がんの予防・早期発見から“健康な地域づくり”を目指す

がんの予防・早期発見から“健康な地域づくり”を目指す

当院は地域がん診療連携拠点病院として、札幌市を中心に北海道のがん診療を支えてまいりました。肺がん、消化器がん(胃がん・大腸がん)、前立腺がんなどに対する治療はもちろん、人間ドック・健康診断などで“要精密検査”と指摘された方に向けて二次検診も受け付けており、がんの早期発見・早期治療にも尽力しています。
また、未来の札幌市、北海道の健康に向けた取り組みも行っています。札幌市では小・中学校や高校で“がん教育”を行っており、若いうちからがんのことを知ってもらえるよう、当院の医師も学校に伺い、病気のことや禁煙の重要性などについてお話ししています。がん罹患率が低い“健康な北海道”となることを目指し、その土壌づくりにおいても、地域に貢献し続けたいと思います。

安心した生活のため医療者として地域に尽くす

治すだけではなく、患者さんそれぞれの生活や人生に寄り添った診療を行う

がん治療では、根治(完全にがんが治ること)に向けて外科治療(手術)、薬物治療、放射線治療などを組み合わせた“集学的治療”が行える環境を整えています。それだけでなく、緩和ケア病棟で患者さんを総合的にサポートできる環境も備え、患者さん一人ひとりの生活・人生に寄り添ったがん診療を提供できることが強みです。
がんの治療を始めるにあたり、多くの不安を抱えられることと思います。当院では、患者さんの知る権利や自己決定権を尊重し、抗がん薬はどのようなものか、この先どのような治療を行うかなどを丁寧にお伝えしています。患者さんの安心を第一に考えてサポートしますので、一緒に治療を進めていきましょう。

KKR札幌医療センターの
肺がん・胃がん・大腸がん・
前立腺がん治療

肺がんの治療

診断の正確性と患者さんの負担、どちらも考慮した気管支鏡検査

肺がんは初期段階では症状が現れないことが多く、症状に気付いた時点ではすでにがんが進行している場合もありますが、早い段階で治療を開始すれば約8割が治るといわれています。当院には日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医が4名在籍*し、気管支鏡検査を得意とする医師が複数いるため、スムーズに診断率の高い検査を行えることが強みです。肺がんの確定診断には、がんのある部分(病巣)から組織を採取する必要があり、その中心的な役割を果たすのが気管支鏡検査です。気管支鏡は文字どおり気管支の中を進む内視鏡(細い管状のカメラ)ですが、肺の中は複雑に気管支が張り巡らされており、その中から的確に病巣にたどり着くのは容易ではありません。そのため当院では、患者さんの負担が少なく済むよう、バーチャル気管支鏡ナビゲーションと超音波によるガイドを併用した検査に努めています。バーチャル気管支鏡ナビゲーションとは、CT画像をもとに病巣までのルートを作成する技術のことです。これにより、短い時間で病変に到達することができ、診断率の向上も期待できます。

2025年9月時点

診断の正確性と患者さんの負担、どちらも考慮した気管支鏡検査

専門的な検査を提供している一方で、地域に根差した、気楽にかかれる病院でもあります。検査に対してハードルが高いと感じられている方や不安がある方も、ぜひ気兼ねなくお越しください。

根治を目指し、幅広い治療選択肢を提供

当院は科学的根拠に即しながら、呼吸器内科・呼吸器外科・放射線科が合同で患者さん一人ひとりの病状についての議論を行い、よりよい治療を提供できるよう日々努めています。
手術の選択肢には開胸手術、胸腔鏡下手術、ロボット支援下手術がありますが、当院では特に、胸腔鏡下手術、ロボット支援下手術による手術を積極的に行っています。肋骨ろっこつのあたりに3~5cmほどの小さなあなを開け、細長い管状の医療用カメラを挿入して内部を確認しながら、鉗子などを用いて腫瘍しゅようを切除する方法です。開胸手術より切開する範囲が小さく、体への負担が少なく済むため術後の早期回復が望めます。

根治を目指し、幅広い治療選択肢を提供

また、近年新たな治療法の開発が進んでいる“周術期治療”を導入し、肺がんを根治できる割合の向上を目指しています。手術の前後に薬物治療や放射線治療を行うことで、手術の効果を高めたり再発リスクを下げたりすることが周術期治療の目的です。なお放射線治療については、根治を目的とした治療だけでなく、“緩和的放射線治療”も積極的に行っています。
ほかの病気を抱える患者さんや、がんが多発・転移している患者さんも積極的に受け入れていますので、治療法に悩んでいる方やお困りの方がいらっしゃれば、ぜひ一度当院に相談にいらしてください。

解説医師プロフィール

胃がんの治療

検査の体制・質を追求し早期発見に努める

胃がんの治療と聞くと、不安に感じられる方もいらっしゃるでしょう。当院では、患者さんの心と体の負担をできる限り少なくし、安心して治療を受けていただけるよう、医師や看護師、医療スタッフが一丸となって取り組んでいます。
胃がんの治療で何より大切なのは、早期に発見することです。当院では、早期発見のため、また患者さんの不安を少しでも和らげたいという思いから、初診から遅くとも1週間以内には検査を受けていただけるよう検査体制の充実を図っています。もちろん“検査の質”も追求しています。内視鏡検査を担当する医師は全員が日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医の資格を持っており*、内視鏡についても拡大機能のついた高性能なものを使用することで、がんの見落としを防げるように努めています。

2025年9月時点

検査の体制・質を追求し早期発見に努める

もしがんが見つかったとしても早期の段階であれば、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)という治療を選択できます。これはお腹を切らずに内視鏡を使用して、がんを一括で切除する治療法です。体への負担が少ないだけでなく、再発予防にもつながることから積極的に行っている治療です。

それぞれが専門性を発揮し、患者さんを支える胃がん診療

内視鏡での治療が難しい場合には外科手術を検討します。当院では小回りの利く規模感だからこそできる、迅速な治療を大切にしています。手術が必要だと判断した場合でも、ほとんどのケースで1か月以内には手術を行えるよう体制を整えています。

それぞれが専門性を発揮し、患者さんを支える胃がん診療

写真:PIXTA

2024年度(2024年4月~2025年3月)に当院で実施した胃がん手術は45件で、そのうち38件を腹腔鏡下手術ふくくうきょうかしゅじゅつで行いました。腹腔鏡下手術は開腹手術に比べて傷が小さく済み、出血量も少ないことから体への負担が少ないのが特徴です。その結果、入院期間も短くなりますし、術後に薬物治療が必要な場合では治療を早期に開始できるというメリットがあります。
また、当院は内科と外科が隣り合わせの配置になっているため、緊急の場合でもすぐに症例の相談ができる環境にあります。内科的治療と外科的治療のどちらが適切か判断に迷うようなケースでも、医師同士で密に連携を取りながら、都度ふさわしいと思われる治療法を一緒に見つけていきます。こういった協力体制があるからこそ、消化管間質腫瘍(GIST)*に対する“腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS)”も実施可能です。内科医が内視鏡で胃の内側を確認しながら、外科医が腹腔鏡を使用して腫瘍を切除する手術で、腹腔鏡単独よりも腫瘍の範囲を特定がしやすくなり切除範囲を最小限に抑えることができます。これにより従来の手術よりも胃の機能が失われにくいのが特徴です。

胃や小腸に発生しやすく、胃がんや大腸がんとは異なり、筋肉層から発生する悪性腫瘍。

それぞれが専門性を発揮し、患者さんを支える胃がん診療

さらに当院には、日本臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医・指導医が2名常勤医として在籍*しており、薬物療法にほとんど専従する形で診療に携わっています。手術前後の補助療法や、遠隔転移がある患者さんへの全身薬物療法にも対応しており、内科・外科がそれぞれの専門性を高めながら、患者さんに寄り添った治療を提供しています。

2025年9月時点

解説医師プロフィール

大腸がんの治療

安心できる大腸内視鏡検査を目指し、検査体制を整備

大腸がんは早期の発見が大切です。しかし「痔だろう」と自己判断してしまい、なかなか大腸内視鏡検査を受診されない方も少なくないのが実情です。
「大腸カメラはつらい」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、当院では鎮静薬を用いた検査にも対応しており、うとうとした状態で検査を受けていただくことができます。また内視鏡検査を担当する医師は全員が日本消化器内視鏡学会認定 消化器内視鏡専門医の資格を持っており*、積み重ねてきた検査手技を生かして丁寧な検査を行い、がんの見逃しのないよう努めています。

2025年9月時点

安心できる大腸内視鏡検査を目指し、検査体制を整備

大腸早期がんに対するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術):内視鏡による治療が可能。

当院では診断がついていない方でも初診から1週間を目安に、検査枠を迅速に用意しており、がんの疑いが強い場合にはさらに優先的に対応できる体制も整えています。気になる症状がある方や健康診断で便潜血検査が陽性だった方は、問題がないことを確かめる気持ちで、当院を受診ください。

ロボット支援下手術、がんゲノム医療を駆使して幅広い病期の患者さんを支える

大腸がんと診断が付いて手術が必要と判断した場合は、根治はもちろんのこと、患者さんの体への負担をできるだけ減らすことを大切にしています。腹腔鏡下手術はもちろん、2022年5月からはロボット手術の導入も開始し、より精密で低侵襲ていしんしゅうな手術を目指して日々手技の研鑽を積んでいます。2024年度(2024年4月~2025年3月)の手術件数104件のうち、93件が低侵襲手術で、さらにそのうち44件がロボットによる手術でした。

ロボット支援下手術、がんゲノム医療を駆使して幅広い病期の患者さんを支える

写真:PIXTA

ロボット支援下手術を行うには、製造販売会社によるトレーニングコースを受講することや、同社のロボット支援下手術のcertification(認証)を取得していることが条件として定められています*。当院ではロボット支援下手術にあたることができる医師が4名**おり、チームとして蓄積したノウハウを生かして、患者さんの早期の社会復帰を支えています。直腸がんのように肛門こうもん近くの手術が必要となる場合でも、ロボットが持つ繊細な手技が非常に有用です。
また、進行がんの患者さんで腸閉塞ちょうへいそく(大腸がんが進行することにより腸が詰まってしまうこと)が起きてしまった場合は、即日で内科医がステントを留置して大腸閉塞を解消し、病状を安定させた状態で手術に臨んでいただく体制も整えており、内科・外科の連携を生かした診療を行っています。
また、当院はがんゲノム医療連携病院でもあります。適応となる方へは保険診療でがん遺伝子パネル検査を行うことができ、患者さんのがんの遺伝子を調べて、より適切な薬物療法や、連携する施設での新しい治療法の選択肢などを提示できる可能性があります。

日本内視鏡外科学会による

2025年9月時点

患者さんとご家族を支える全人的なケアで治療をバックアップ

患者さんとご家族を支える全人的なケアで治療をバックアップ

当院には、がんに伴う痛みだけでなく、抗がん薬の副作用による吐き気やしびれなど、さまざまな症状の緩和を専門とするチームがいます。入院中はもちろん、外来でも専門の看護師が患者さんやご家族のお話を伺い、経済的な不安や、訪問看護の導入、今後の生活の過ごし方まで、患者さんの生活全体を支えられるよう全人的なサポートをさせていただきます。少しでも安心して治療を受けていただけるよう心を尽くしてまいりますので、ぜひ当院にご相談ください。

解説医師プロフィール

前立腺がんの治療

安心できる検査と診断のために

前立腺がんは、初期にはほとんど自覚症状がありません。そのため、健康診断などで測定する“PSA(前立腺特異抗原)”の値が高かったことがきっかけで見つかることがほとんどです。PSA値に異常があった場合や、他の検査で前立腺がんが疑われた場合は、がんであるかどうかを確定するために“前立腺生検”(前立腺から組織を採取する検査)を行います。当院では患者さんの痛みや不安をできるだけ軽減するため、麻酔科医と連携し、全例全身麻酔で行っています*。寝ている間に検査が終わりますので、検査に不安のある方はぜひ当院にご相談いただければと思います。

麻酔科標榜医……渡部 亮先生

安心できる検査と診断のために

前立腺生検で陽性と検出される確率は、PSAの数値によりますが一般的に30~50%程度といわれています。がんでないことを確かめるために、場合によっては何度も生検を受けなければならないこともあります。当院では、このような患者さんのご負担を少しでも減らせるよう、採取技術を磨き、なるべく一度の検査でがんを見つけられるよう努めています。

患者さんの術後の生活にも寄り添う治療・ケアを提供

前立腺がんの治療方針は、がんの進行度や悪性度、患者さんの年齢や生活習慣、ご希望など、さまざまな要素を考慮して決めていきます。当院では監視療法(治療を行わず、定期的に経過を観察していくこと)も含め、手術、放射線治療、薬物療法(ホルモン療法を含む)の治療法に全て対応しているため、患者さんの状況に合わせて治療法をご提案できます。
限局性のがん(前立腺内に留まっているがん)では、根治的治療として手術または放射線治療を選択肢として提案します。手術は、2022年6月から導入しているロボット支援下手術を積極的に行っています。ロボット手術は、開腹手術に比べて傷が小さく出血量が少ないため、体への負担が抑えられ、回復も早いというメリットがあります。
その一方でロボットには触覚がないため、剥離が難しいといわれる前立腺と膀胱の境目(膀胱頸部ぼうこうけいぶ)を見極めるために、剥離面をエコーで確認しながら手術を進めることで安全性を高めています。

患者さんの術後の生活にも寄り添う治療・ケアを提供患者さんの術後の生活にも寄り添う治療・ケアを提供

イラスト:PIXTA、加工:メディカルノート

手術を検討している患者さんの中には、術後の尿漏れを心配される方もいらっしゃるかもしれません。当院では手術が決まった時点で、術後の尿漏れ改善につながる骨盤底筋体操の方法をお伝えし、トレーニングをしていただいています。退院直後でも重いものを持ち上げるような動作でなければ、お仕事はもちろん、趣味のゴルフなどもしていただいてかまいません。尿漏れが心配で自分らしい生活ができなくなってしまっては元も子もありませんから、どのくらいで尿漏れが改善していくかの見通しをなるべく具体的にお伝えして、安心して術後の生活を送れるようバックアップいたします。手術をして終わりではなく、退院後の生活も快適に過ごしていただけるよう、医師や看護師(日本看護協会認定 皮膚・排泄ケア認定看護師が中心的役割を担っています)、臨床工学技士が密に連携し、患者さんの生活全体をサポートするチーム医療を実践しています。治療でお困りの方は、ぜひ当院へご相談ください。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年2月9日
  • 最終更新日:2025年10月7日
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