前立腺がん~VRを活用したロボット支援下手術~

最終更新日
2021年06月28日
前立腺がん~VRを活用したロボット支援下手術~

NTT東日本関東病院 泌尿器科部長の志賀 淑之(しが よしゆき)先生は、長年前立腺がんや腎がんの治療に従事されてきました。今回は志賀先生に、NTT東日本関東病院における前立腺がん治療の特色や取り組みについてお話を伺いました。

*前立腺がんの一般的な治療方法についてはこちら

治療・取り組み

NTT東日本関東病院では、患者さんに負担のかかりにくい“低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)”をテーマに掲げ、前立腺がんに対するロボット支援下手術に力を入れています。

前立腺がんのロボット支援下手術

手術用ロボット

手術用ロボット“ダ・ヴィンチ”

ロボット支援下手術は、手術用ロボットを用いて行う手術治療です。ロボット支援下手術が低侵襲といわれる理由として、お腹に残る傷や痛みの小ささはもちろんのこと、前立腺がん手術後の尿失禁や性機能障害などの合併症を軽減できることも挙げられます。

当院では性機能の温存を希望する患者さんのために、可能な限り性機能温存手術にも取り組んでいます。

また、術後の影響が小さい低侵襲手術であっても、がんをしっかり取り切れていなければ意味がありません。そのため、当院では低侵襲手術であってもがんを取りきって予後をよくするため、技術の研鑽に努めています。

日本では2012年より、前立がんに対するロボット支援前立腺全摘術が保険適用となりました。NTT東日本関東病院でも、2015年のロボット手術センター開設から積極的に前立腺がんに対するロボット支援下手術を行っており、その症例数や実績から日本各地、あるいは海外からも患者さんがいらっしゃいます。

ロボット支援下手術のバーチャルリアリティ(VR)

NTT東日本関東病院では、ロボット支援下手術にバーチャルリアリティ(VR)手術ナビゲーションを導入して治療を行っています。VRとは検査で撮影した2次元の画像を立体化するシステムのことで、平面で見るよりもより詳しく体の中を観察することが可能です。当院ではVRを術前のシミュレーション、術中のナビゲーション、術後の検証や後進医師・医療従事者への教育などに役立てています。

術中は手術に参加する複数の医療従事者がゴーグルで立体的な映像を見ることによって、医療従事者同士の情報の連携を行いながら手術を行います。また、患者さんへ治療の説明をする際にも立体的な映像をご覧いただくことで理解を深めていただけることがあります。

VRが特に活躍するのは、強い前立腺肥大を伴う前立腺がんの手術です。前立腺は通常20g程度の臓器ですが、年齢とともに肥大することが多く、肥大化が進むと100gを超える方もいます。前立腺肥大が進んでいると前立腺が膀胱に突出するため、前立腺がんの手術の難易度が上がり、医療機関によっては手術以外の治療方法を検討することもあります。

しかし当院では、膀胱と前立腺の形状の関係をVRで立体的に捉えることによって精度の高い手術を行うことが可能となっています。このような症例では難易度が高いため手術時間も8時間など長くなりやすいものですが、当院ではおよそ2時間程度で完了し、術後のトラブルの発生も抑えられています。

性機能の温存

患者さんに性機能温存の希望がある場合には、性機能温存手術を行います。この手術は勃起に関与する神経や血管を残して、前立腺だけをくり抜くように取り除くことで性機能の温存を期待する手術方法で、細かく丁寧な作業が必要なことからロボット支援下手術のメリットが生かされる部分ともいえます。ただし、性機能が完全に温存できるわけではないことや、神経や血管にがんが広がっている場合には温存が難しいことなど、注意点もあります。また性機能温存手術を行うと、がんを十分に取り切れず再発が懸念されるといわれていますが、当院のデータでは性機能温存手術を行ってがんが再発した例はおよそ2%程度です。

ロボット支援下手術のメリット・デメリット

ロボット支援下手術のメリットは以下のとおりです。

患者さんの体にかかる負担が小さい

腹腔鏡下手術同様、小さな傷で済むため出血量が抑えられ、術後の経過も早くなります。当院の場合は平均出血量が20mlで、輸血が必要となることもほとんどありません。体への負担が大きい開腹手術と比較しても、がんの治療効果は変わりません。

繊細な作業ができる

手術用ロボットはアームが多関節で、手ブレ防止機能が搭載されているため繊細な動きが可能となり、合併症の減少などに役立っています。前立腺がんの手術では尿失禁や性機能障害などの合併症が起こることがありますが、ロボット支援下手術の場合、開腹手術と比べてこのような合併症の回復が速い患者さんが多いです。

一方で、以下の点には注意が必要です。

術者の熟練が必要

前立腺がんは泌尿器科が扱うがんの中でも、もっとも術者の腕が試される病気です。男性の骨盤の一番深いところにあり、周囲に排泄などに関わる神経や血管も多いことから、機能温存のためにも出血の少ない丁寧な手術が求められます。特に手術用ロボットは術者に触覚がなく、モニターに映し出された映像を頼りに治療を行う必要があるため、慎重に作業をすることが大切です。治療を受ける際は施設や術者をしっかり選ぶことが望ましいでしょう。

治療にかかる費用が開腹手術より高額になりやすい

ロボット支援下手術の適応

前立腺がんの手術は、がんが前立腺にとどまっており余命が10年以上あることが期待される場合に行われます。ただし当院では、がんが前立腺の被膜を超えて広がっている場合でも、周囲のリンパ節を併せて取り除くなどの手術(拡大手術)が積極的に行われています。

一方、ロボット支援下手術が難しい例としては、過去に複数回開腹手術を受けており、お腹の中が癒着している方などが挙げられます。しかし、当院では癒着があっても剥離(はくり)が可能な場合には手術を実施することがありますので、まずはご相談ください。

ロボット支援下手術の入院期間・費用

ロボット支援下手術の入院期間には個人差がありますが、手術前日から入院いただき、合計で9~10日間程度となることが一般的です。開腹手術では10~12日間前後となることが多いため、ロボット支援下手術のほうが早く退院できることが期待されます。

また費用は保険適用で3割負担の場合、およそ49万円(入院費込み、食事代・個室代等別)となることが考えられますが、高額医療費制度が利用できれば支払額が抑えられることもあります。

その他の前立腺がん治療

  • 開腹手術
  • 放射線治療
  • ホルモン療法
  • 腫瘍内科と連携した化学療法などの薬物治療

 診療体制・医師

集合写真

NTT東日本関東病院 泌尿器科と腫瘍内科の先生方

当院の泌尿器科は8~9名ほどの医師が在籍しており(2021年4月時点)、2チームに分かれてチーム医療を実践しています。各チームには指導医・専門医・研修医がバランスよく配置され、私は総監督としてそれぞれのチームのサポートやマネジメントに従事しています。ただし、担当医が手術中の場合などは別チームの医師が診療を行う必要があるため、それぞれの受け持つ患者さんの状態を全員が把握し、包括的に見られるように工夫をしています。

受診方法

外観

当院は紹介制をとっております。初めての受診の際はほかの医療機関からの紹介状をご用意ください。予約を希望される場合は、以下の電話番号にお問い合わせください。予約のない方は、平日の8:30〜11:00の間に受付を済ませてお待ちください。

予約時の問い合わせ

  • 電話番号……03-3448-6111(代表電話番号)
  • 受付時間……平日8:30〜17:00

セカンドオピニオン外来

当院ではすでに前立腺がんと診断されている方を対象にセカンドオピニオンを実施しています。希望される場合は完全予約制となっておりますので担当医に相談のうえ、当院へお電話でお申し付けください。相談時間は最大1時間で、費用は30分までが2万2,000円(税込)、1時間で3万3,000円(税込)です。

オンライン受診相談(オンラインセカンドオピニオン)

NTT東日本関東病院の泌尿器科では、オンライン受診相談(オンライン・セカンドオピニオン)を実施しており、スマートフォンやタブレットを利用して医師とのビデオ通話で治療の概要について説明を受けたり、どのような治療ができるかどうかを相談したりすることが可能です。

オンライン受診相談を希望する場合には、事前に病院サイトからの予約申込が必要です。実際の診療時間は最長20分で、料金は5,500円(税込)の前払い方式となっております。なお受診の際は、ほかの医療機関からの紹介状や診療に必要な検査結果・画像データの郵送が必要です。また、セカンドオピニオン外来同様、自由診療となりますので健康保険は適用されません。

【オンライン受診相談について:https://www.nmct.ntt-east.co.jp/guide/online/

診察・診断の流れ

前立腺がんの診断方法

前立腺がんを疑われるきっかけとしては、採血によるPSA検査(Prostate-specific antigen)が挙げられます。この検査で高値が出ると泌尿器科に紹介され、より詳しい検査を受けることになります。

泌尿器科ではPSA値が高く、前立腺がんの好発年齢にあたる方に対し、まずMRI検査で気になる所見がないかどうかを確認します。PSA値が高くMRI検査でも所見があった場合には前立腺がんの疑いが強いということになります。また、PSA値だけが高い場合や、PSA値は正常なもののMRI検査で所見が見受けられた場合は、医師が肛門から指を入れて行う直腸診検査が検討されることもあります。

前立腺がんの確定診断は前立腺生検によって行われます。前立腺生検とは肛門から機器を入れ、前立腺に向かって針を刺すことで組織を採取し、その組織を顕微鏡で見る検査です。検査を受ける際には1泊2日の検査入院が必要となります。

治療方針の決定方法

前立腺がんの治療方針は日本泌尿器学会の発行する『前立腺癌診療ガイドライン』をもとに検討されることが一般的です。当院でもこのガイドラインに則って治療方針を検討するほか、ヨーロッパやアメリカのガイドラインを参考にすることもあります。また、患者さんの状態や希望によっては、手術治療と放射線治療、ホルモン療法などを組み合わせた集学的治療を検討することもあります。

入院が必要になる場合

当院での前立腺がん診療で入院が必要となるのは、診断前の検査入院と手術、そして初回の化学療法の際です。化学療法に関しては、初回のみ入院で副作用やアレルギーの有無などを確認した後、外来で受診いただくことになります。また、ホルモン療法や放射線治療は基本的に外来で受診いただくことが多いです。

患者さんのために病院が力を入れていること

当院では患者さんの生活を支えるために、さまざまな工夫を行っています。

がん相談支援センター

さまざまな不安に耳を傾け、サポートする役割を持つ“がん相談支援センター”では、患者さんやご家族の悩みに合わせて解決方法や改善方法を一緒に考えていきます。たとえば、自宅で過ごすことが難しい患者さんに対する介護施設の紹介のほか、体力が落ちて動くことが難しくなった患者さんには外来で通えるリハビリテーションを提案することもあります。

ペイン外来と緩和ケアセンター

がんによる痛みに苦しんでいる患者さんのためには、通常の臓器別のがん診療とは別に“ペイン外来”も設置しているほか、緩和ケアにも力を入れています。当院の“緩和ケアセンター”は病床を持っているため入院もでき、入院を望まない場合でも外来で診療を受けることが可能です。緩和ケア専門の医師やカウンセラー、精神科医などが協力し、患者さんの心の負担を軽減するお手伝いをしています。

先生からのメッセージ

前立腺がんには早期発見に役立つPSA検査という検査があります。血液を採取するだけの比較的簡単な検査なので、50歳を過ぎた男性には最低でも年に1回は受診していただきたいです。また、ご自身のお父さんやおじいさんなど二親等以内に前立腺がんにかかったことのある方がいる場合、ご自身に前立腺がんが発生する確率は2倍になるといわれています。このような方は、45歳になったら定期的にPSA検査を受けることを検討しましょう。

また、すでに前立腺がんと診断された方に対しては、ぜひ諦めずに治療に臨んでいただきたいと思います。前立腺がんは医学の進歩とともに治療のバリエーションが増え、治せるがん、付き合っていけるがんになりつつあります。私はがんを取り除くだけでなく、心の不安を取り除くことも外科医の務めと思い日々の診療にあたっています。ぜひ、どんなことでもご相談ください。

NTT東日本関東病院

〒141-8625 東京都品川区東五反田5丁目9-22 GoogleMapで見る