乳がん
薬物治療によって手術ができるようになった進行乳がん
神鋼記念病院で副院長と乳腺センター長を兼任する山神 和彦先生に、乳がんの症例について伺いました。
薬物治療によって手術ができるようになった進行乳がん
来院時すでに鎖骨下リンパ節にも転移のある局所進行型乳がんと診断されました。CT検査で肝臓や肺に転移なしも、診断時の状態では、画像では検出できないがん細胞が全身に散らばっている可能性も高く、手術だけに頼る治療では、予後改善が難しいと判断されました。
この場合には薬物治療が第一選択となります。乳がん薬物療法の選択では、針で採取された乳がん組織の免疫染色によるサブタイプ分類により、薬剤が決定されます。こちらの患者さんの場合にはHER2陽性、ホルモン陰性と判断されていました。ホルモン剤による治療はできず、抗がん剤に加えて抗HER2薬といった特殊な薬剤が使用可能となり、手術前に薬物治療が開始されました。このサブタイプは抗がん剤+抗HER2薬が非常に有効です。薬剤の効果良好ならば、進行乳がんではありますが根治(治癒)が期待できます。
薬物療法の進歩によって手術が可能となった
幸いにも抗がん剤が効果を示し、手術前の画像診断では乳がんはほぼ消失し、手術治療を行えることになりました。手術では乳房切除術と腋窩リンパ節郭清を行いました。術後に、放射線治療や追加の抗HER2薬などの治療を行っています。手術から2年ほど経過していますが再発や転移はなく、通常の日常生活に戻られています。
このように近年、乳がんでは薬物治療の進歩によって、進行していてもがんが治るという可能性がでてきています。また、この患者さんは手術前に抗がん剤を投与(術前化学療法)して、腫瘍を縮小させてから手術を行いました。当院では、10年間の経過観察を行っていますが、この先も再発やリンパ節郭清・放射線治療による副作用がないかしっかりフォローアップすることが必要です。
関連の症例
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自家組織による乳房再建手術を行った30歳代の患者さん
神鋼記念病院で副院長と乳腺センター長を兼任する山神 和彦(やまがみ かずひこ)先生に、乳がんの症例について伺いました。 自家組織による乳房再建手術を行った30歳代の患者さん 発見時の腫瘍(しゅよう)のサイズが5cmで比較的大きい乳がんでした。針生検での顕微鏡検査の結果、非浸潤がんと判断され、ステージ0と診断されました。非浸潤がんなので治療後の予後はよいものの、腫瘍が大きいため乳房全摘術が必要です。そこで、乳がんの手術とともに乳房再建手術を行うことを提案しました。 乳房再建術にはインプラントを使用したものとお腹の脂肪など自家組織を使用したものがあります。当院では患者さんの年齢や状態を考慮し、同時乳房再建を提案しています。乳腺科で乳房再建の概要を説明しますが、詳細は形成外科に受診していただき、長所や短所が説明されます。この方は、より高い整容性を求めることができる自家組織による乳房再建術を行うことになりました。 遺伝性乳がんの可能性も考慮して今後の方針を慎重に検討する 術中にセンチネルリンパ節生検を行ったところ、リンパ節への転移はなく、無事に乳房全摘術と自家組織による乳房再建術を行うことができました。形成外科にて行われる腹部の脂肪組織を利用する自家組織再建(穿通枝皮弁術)は手術としての難易度は高いものの自然な仕上がりになりました。手術検体での最終病理診断も浸潤部がなく、非浸潤がんでした。早期のがんで化学療法や放射線治療が不要であったほか、リンパ節郭清を行わず、今のところ副作用なども出ていません。 こちらの患者さんのように30歳代という比較的若い段階で乳がんに罹患される方では、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の可能性が懸念されます。日本人乳がん患者さんにおける大規模な調査では、40歳以下での発症はリスクが上がるデータもでています。遺伝に関する問題は患者本人のみでなく、血縁者も関係し慎重な対応が必要です。2020年4月から、45歳以下での乳がん発症の場合、同検査(血液検査)は保険適用になりました。遺伝カウンセリングを通じて検査のメリット・デメリットを十分に説明し、それを踏まえ患者さんの意志に沿い診療がすすんでいきます。
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