インタビュー

心臓手術——ダヴィンチによる心臓手術

心臓手術——ダヴィンチによる心臓手術
渡邊 剛 先生

ニューハート・ワタナベ国際病院 総長

渡邊 剛 先生

心臓は全身に血液と栄養を巡らせる、生命の維持装置ともいえる臓器です。この心臓になんらかの疾患ができた場合、心臓手術が適用になることがあります。心臓手術というと大規模な手術であるように感じられますが、ニューハート・ワタナベ国際病院総長の渡邊剛先生は医療用ロボット手術機器「ダヴィンチ」を心臓手術に適応し、これまでに数多くの患者さんを救ってこられました。ダヴィンチによる心臓手術とはどのようなものなのでしょうか?渡邊先生にお話をお聞きしました。

ダヴィンチはもともと遠隔操作型の内視鏡ロボットとして、1991年の湾岸戦争をきっかけにして開発されました。

湾岸戦争においてアメリカ陸軍がアメリカの兵隊を援助するため、すなわち負傷したアメリカ兵を遠隔操作で治療するために、国防総省が作り始めた技術です。それを医療に転用しようと試みて、民間会社であるインテュティブサージカルという会社ができました。
インテュティブサージカルはスタンフォード大学などの秀でた技術を結集させ、手術用のロボットを造るため、100億円の初期投資と、毎月3億の投資を行いました。その結果、1999年にダヴィンチが初めて完成しました。

ダヴィンチには三次元のスコープがついており、体の奥深いところの、ただ胸を開くだけでは難しいといわれる手術を可能なかぎり容易にできるような工夫がなされています。

なお私はダヴィンチで心臓手術を行っていますが、一般的にダヴィンチは前立腺の手術に使われています。
ダヴィンチは1.1㎜~1.5㎜ほどの細くて小さな血管を縫うことができます。そのことから、発売当初は心臓のような繊細で血管が密集している臓器の手術ができることを一番に掲げていました。

しかし、徐々に、ダヴィンチは心臓よりもむしろ前立腺の手術においてよく適していることが分かってきました。前立腺は体の非常に奥深くにあり、開腹手術だとなかなか患部にまで達することができず、出血も多いことから大変な手術とされてきた臓器です。しかしダヴィンチは少し体に穴をあけるだけで容易に体内に入ることができるため、前立腺の手術において抜群の能力を発揮しました。ダヴィンチの得意なことは深いところを細かく手術できる点です。そのため、前立腺の血管をくくる・つなぐなどの動作が非常に得意でした。

現在は様々な臓器にも適応されつつありますが、泌尿器科が無ければダヴィンチはここまで広まらなかったでしょう。それくらい、ダヴィンチは泌尿器科の疾患に適合していたのです。

前立腺の手術において活躍を続けてきたダヴィンチですが、そこから本来の目的であった心臓や、その他の臓器(消化器・胃・腸・甲状腺など)にも応用できないかと、少しずつ進化を続けています。

心臓手術は開胸での手術が一番多い臓器でした。最近は、様々な病気に関して、傷を小さくつけて手術痕が目立たないようにする手術が発展を見せていますが、そのうちのひとつ・内視鏡手術において、心臓外科が一番遅れています。そのため、いきなり心臓手術をダヴィンチ手術にステップアップするというのは、ほとんどの人が予想だにしないほどの出来事でした。

ダヴィンチによる心臓手術では、メリットが大きく3つあります。まず、胸をあけずに手術ができます。つまり、胸の骨を切ることがありません。そして、そのことにより回復が早く出血の量も痛みも少ないです。ですから、術後の見栄えも良く、女性にとっても抵抗が少ないです。

骨を切る手術の場合、約2か月間は安静にしていなければいけません。対してダヴィンチ手術の場合は、ニューハート・ワタナベ国際病院ですと、最短3日で退院できます。これくらい、回復力に違いがあるのです。

具体的な手術の手順はその病気の種類によるため、一概に述べることはできません。
たとえば狭心症の手術の場合、冠動脈バイパス手術が行われます。これは主に新たな血管を採取することがメインの手術になります。具体的には胸に数か所の穴をあけて鉗子を入れ、グラフト(患者さん本人から採取する血管のこと)を胸から剥離します。

冠動脈バイパス手術は、至極簡潔に述べると心臓に新たな血管をくっつける手術ですが、ダヴィンチ手術においても通常の手術においても手順は変わりません。違う点と言えば、胸を開けないという点だけです。

ニューハート・ワタナベ国際病院においてダヴィンチ手術を行った場合の入院期間は最短3日です。遅くとも一週間ほどあれば退院できるでしょう。ロボット手術以外の手術は10~14日間程度と説明しています。

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